社会

銃による死者1日92人〜銃大国アメリカのリアル

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乱射をはるかにしのぐ、「日々の殺人」

 米国北東部には厳しい銃規制法を持つ州が多い。ニューヨークは州自体も厳しい法を持つが、ニューヨーク市には独自のきわめて厳しい法律がある。市内ほぼ全域が市街区であり、ハンティングをする場所はほとんどないため、ライフルの需要はない。かつては銃犯罪を含む犯罪率の高さに悩まされた都市だけあり、一般市民は実質的には拳銃を持てないように法律が制定されている。市内に銃砲店は一軒しかなく、しかも銃はほとんど置いていない。つまりニューヨーカーが本物の銃を目にする機会はほとんどないと言っていいだろう。唯一の例外は、9.11同時多発テロ事件以降、大型駅などで警備にあたっている警官や州兵が抱えているマシンガンである。

 それでも銃犯罪は起きる。銃法の甘い州で買われた銃がダークマーケットに乗って法の厳しい州にも流れ、犯罪者の手に渡るのだ。その結果、とくに貧しい地区で殺人事件が多発する。アメリカでは殺人の約7割が銃による。先に挙げたように年間11,000人が銃によって殺されているのである。この現象は、銃規制は州単位ではなく、全米でおこなわなければ意味をなさないことを物語っている。

 銃犯罪の多さゆえ、銃擁護派は「自己防衛」のためにも銃が必要だと主張する。近年はテロや乱射事件が起きるたびに銃の売り上げが劇的に増えるパターンを繰り返している。実のところ、唐突に起こる犯罪の現場で一般人が銃によって応戦できる率はどれほどなのだろうか。今回のラスヴェガスのように高層階からの掃射に対して、地上の一般人からの応戦は不可能である。

 いずれにせよ、銃はアメリカでは一大産業だ。強大な銃企業とロビー団体は共和党と懇意であり、全米ライフル協会(NRA)という非常に強い影響力を持つ団体も存在する。だが民主党支持者やリベラルな一般市民も、こと銃に関しては意見が分かれ、銃規制推進派と、銃を持つことはアメリカ人としての絶対的な権利であると主張する擁護派が混在する。

 銃規制派が推進しながらも擁護派に阻まれ、徹底できないでいるのが「バックグラウンド・チェック」と「大型殺傷銃の規制」だ。

 規制派は、銃購入者の犯罪歴と精神病歴の徹底チェックを訴えている。今回の乱射事件の犯人のように前科も病歴もなければ購入を防ぐことはできないが、一般人が47丁もの銃を所持することを防ぐ法律もあって然るべきではないか。

 銃は「拳銃」と「ライフル」に分かれる。ライフルは動物相手のハンティングに必要であり、強いていえば趣味の道具と捉えることもできる。しかし拳銃は純粋な対人武器であり、一般人に拳銃はどれほど必要であろうか。

 拳銃以上に法律での絶対的な規制が求められているのが、アサルト・ウェポン(殺傷力の強い大型銃)だ。アクション映画に登場するような、とんでもなく強力な銃を一般人が持つ必要性はまったく無い。2012年にコネティカット州のサンディフック小学校で乱射事件が起きた際にもアサルト・ウェポンが使われ、20人の6〜7歳児と教職員6人が亡くなっている。一般市民から銃規制を求める大量の署名が寄せられ、時のオバマ大統領は銃規制について、涙をぬぐいながらの演説をおこなった。しかし翌年、アサルト・ウェポン禁止法案は否決された。それどころか、「オバマは銃規制法を強め、銃が買えなくなる」という危惧から銃擁護派が大量の銃を買い込み、銃業界は空前の好景気に沸いた。

 20人の幼い子供が殺されても銃規制法案を強化しなかったアメリカ。58人の命が奪われ、498人が傷付いた今回も銃規制に向けての大きな声は聞こえてこない。
(堂本かおる)

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堂本かおる

ニューヨーク在住のフリーランスライター。米国およびNYのブラックカルチャー、マイノリティ文化、移民、教育、犯罪など社会事情専門。

サイト:http://www.nybct.com/

ブログ:ハーレム・ジャーナル

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