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PMS(月経前症候群)という新しい“市場”がつくる、“不安定な女性像”に対する懸念

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Photo by Jose Navarro from Flickr

 日本の女性たちが月経(生理)に関して抱える問題は、大きく分けて3つある。経血処置と月経痛とPMS(月経前症候群)である。

 経血を布や紙や脱脂綿で処置していた時代に比べれば、今日の生理用品は至れり尽くせりなので、経血処置の問題は概ね解決したと言っていいだろう。「使い捨てナプキン有害論」や「生理用品メーカー陰謀論」を唱える人もいるが、極めて一部の人たちだと思いたい。

 次に月経痛について。これは個人差が大きく、まったく感じないという人もいるが、重い人にとっては深刻である。しかし、薬品各メーカーが月経痛に特化した鎮痛薬を相次いで発売しており、それでも効かなければ、婦人科で有効な鎮痛薬を処方してもらえる。最近では、ピルを処方してもらい、月経自体をコントロールすることもできる。もちろん、それでも解消しない人もいるので、看過できない問題だが、一昔前と比べると解消の手段は増えている。

 このように、経血処置と月経痛という二大問題が解消されつつある今、にわかに存在感を増しているのがPMS(月経前症候群)の問題である。PMSとは、月経前に現れる頭痛、腹痛、浮腫みといった身体的不調や、不安感、憂鬱などの精神的不調を指す。

 生理用品、月経痛薬などの月経関連商品のなかで、今後最も売上げが期待されるのがPMS関連商品だろう。すでにPMSの症状を緩和するとされる市販薬やサプリメント、グッズが登場している。また、経血処置や月経痛についてはほとんど取り上げてこなかったメディアも、PMSについては積極的に取り上げている。

 例えば、まだPMSがあまり世間に認知されていなかった今から4年前、NHK『あさイチ』が「PMSによる精神変調」を取り上げていた。放送後、めったに取り上げられることのないPMSが取り上げられたためか、視聴者からは概ね好意的な意見が寄せられていた。しかし、放送内容には懸念を覚える点もあった。

 以下は、普段は温厚な性格であるにも関わらず、月経前一週間は夫に対する苛立ちを抑えることができないという女性の事例を再現したVTRの内容である。

女性は月経開始の前日、仕事で帰りが遅くなるため、保育園に通う子どもの迎えを夫に頼んだ。夫は「おれが迎えに行ってあげるよ」と承諾したのだが、妻は「あげる」という表現が気に入らず、「はあ? 迎えに行ってあげる?」と怒り出した。妻をなだめるために食器を洗い始めた夫。「家事を手伝っていれば嵐が過ぎるとでも思ってるの? それで済むと思ってるの?」。ますます激昂した妻は、手元にあったリモコンを夫に投げつけた――

 この再現VTRを見たスタジオの女性ゲストは、「(自分と)同じ!」と相槌を打ち、こうしたイライラは月経前だけで、月経が始まれば収まるのだと補足した。たしかにそれが彼女にとっての実感なのかもしれないが、月経のあるすべての女性を代表しているかのような発言に、懸念を感じた。

 『あさイチ』という番組の欠点は、こうしたゲストの奔放な発言に対する専門家の補足が不十分な点である。

 番組ウェブサイトには、「あのイヤなイライラの正体は『月経前症候群』と呼ばれるもの。多くの女性にこの症状が現れると言われています」「生理のおよそ2週間前から数日前の間に始まる、イライラや落ち込み、頭痛、むくみなどの症状は『月経前症候群』です」とあったが、「多くの女性」が長ければ2週間もの間、些細なきっかけで激昂しやすい状態にあるのだとすれば、女性には理性がないも同然である。

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田中ひかる

1970年東京生まれ。著書に『月経と犯罪――女性犯罪論の真偽を問う』(批評社)、『「オバサン」はなぜ嫌われるか』(集英社新書)、『生理用品の社会史――タブーから一大ビジネスへ』(ミネルヴァ書房)など。

田中ひかるのウェブサイト

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生理用品の社会史: タブーから一大ビジネスへ