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男性は論理的、女性は感情的――『PRESIDENT』できる女、ヤバイ女特集こそが「ヤバイ」

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PRESIDENT (プレジデント) 2017年10/30号

 男性向けビジネス雑誌『PRESIDENT』(プレジデント社)10月30日号の表紙はインパクトが強い。大きくわかりやすい字体で「できる女、ヤバイ女」とある。一体何が書かれているんだ? と怖いもの見たさで手に取った。

 目次を開くと、こちらも「女性」「女子」という言葉が方々に散りばめられている。目玉特集のタイトルが「知らなきゃ危ない『職場の深層心理学入門』 できる女、ヤバイ女 肉食女子が増加!」で、「≪職場の女性20タイプ別≫人間関係マニュアル」「『自分と違う女』は徹底的に敵視 解明!『女子vs女子』紛争勃発メカニズム」「男を破滅に向かわせる『地雷女』の見分け方」だのと煽る企画が満載だ。どうやら同誌において「女性」とはなかなか厄介で場合によっては危険な存在だと見なされているらしいことが窺える。

 ここ最近、女性議員のトラブルが発覚することが続いた影響か、「超エリート『女性代議士』がつまづく本当の理由」「日本一賢い女子校『桜蔭』の恐るべき教育法」など、高学歴女性の実態を探ろうとする記事もある。その一方でエッセイストの酒井順子による「どうして今どき『男尊女子』が流行るのか」では、なぜ男女平等教育を受けたはずの現代女性の中に、つい男を立てたり男尊女卑な振る舞いをしてしまう女性が出てくるのかを丁寧に解説しているのは興味深かった。

 男の居場所だった職場に、異分子である女が入り込んできて、対応に困っているという実状がある。そのトラブルを解決するために、役立つヒントが必要だという前提は100歩譲ってわからなくもない。「男同士だけならうまくやれていたのに、女がいると……」というホモソーシャルな愚痴に対しては、「男同士だけで社会が回ってるなんて思いあがらない方がいいですよ」と申し上げるのみだし、「男同士だから飲みニュケーションも厳しいシゴキも当たり前」な社風は男にだって敬遠されるだろうから改善の余地しかないが、それも今回は脇に置いておこう。しかし看過できないのは、「上司必読、一歩間違えれば命取り!『女子社員からの怒りのクレーム』緊急フォロー術5」のうちのひとつ、きずな出版社長の櫻井秀勲氏による「部下への『えこひいき』に不満爆発▼男女関係さえなければ噂はいずれ消える」だ。

 御年86歳の櫻井氏は、光文社にて「女性自身」の編集長を務めたのちに祥伝社の設立に携わり、独立後は女性学や性科学、結婚について多数の著作を執筆。<口説きの神様、女学の神様、運命の神様>等と崇められる存在らしい。そんな櫻井氏いわく、「何人も女性がいる職場で一人の女性を引き上げたら他の女性陣から『えこひいき人事だ』と不満の声が上がるのは、むしろ当然」だそうで、その根拠についてこのように言い切っている。2017年現在、まだこれを言っちゃう人がいるのかと大変驚いた。

「なぜなら、男性が論理で生きているのに対し、女性の生きる基本は好きか嫌いか。しかもその割合は、私の経験から言うと19。『好き』の範疇に入るのは周囲の10%の人にすぎず、残りの90%には、どこか快くない感情を抱いているのです。そのうえ女性は男性の何倍もジェラシーが強いときています」

 こうした“非論理的な話”は、テレビ番組『ホンマでっか!? TV』(フジテレビ系)などでもお馴染みだが、あまりに極端で間違いなく過激である。男性は論理的思考で物事を判断し、女性は好き嫌いで物事を判断する、だから男と女は思考回路が違うと、すべての人間に対して公式のごとく当てはめられるわけがない。

 櫻井氏によると「男性が人事に個人的感情を持ち込むようなことは、ほとんどない」とのことで、なぜなら「えこひいきなどしていたら、仕事の成果が上がらず社内での自分の評価が下がってしまう」ため、そんなことはしないのだと説明。しかし、ほとんど男しか登場しない社会派お仕事ドラマにしろ国政や医局にしろ、男の嫉妬が渦巻くシーンは数多描かれてきた。むしろ個人的感情を持ち込まず冷静に正当な人事評価を下すことは「人間には」難しいのではないかと思えるくらいだ。櫻井氏の言葉はすべて、「男性は無条件に女性よりも優れている」という価値観に則っている。

 かつて完全に女性読者をターゲットにした週刊誌「女性自身」の編集長を務めていた櫻井氏から見て、女性は皆、仕事に自分の好き嫌いを持ち込み、ジェラシーは強く、正論は通じない、そんな存在なのかと思うと、身震いする思いだ。

 そういえば数年前に私が勤務していた会社では、朝礼時に「朝礼読本」なる冊子が利用され、11ページ音読することになっていた。ある日のページでは「男性は正しいか間違っているかに基づいて行動するけど、女性は好き嫌いに基づいて行動する。だから女性は好きな相手にはお茶を出すけど嫌いな相手にはお茶を出さない。そんな女性を間違っていると非難するのではなく、女性の好き嫌いを理解することが大切である……」などと書かれていたものだ。しかし、当時その会社に勤務している従業員たちの顔ぶれや言動を振り返ってみると、男性社員は「正しいか間違っているか」を、女性社員は「好きか嫌いか」を基準にして業務を行っていたかといえば、そんなことはなかった。

 たとえば想定外の事態が発生した時、女性社員が状況を客観的に説明している最中なのに、男性社員が感情的になるあまり女性社員の説明を遮り、「○○に違いないんだよっ!」とまくし立て、人の説明を聞こうとしない……なんてこともあったし、自分の好き嫌いで部下へと接し方や待遇に差をつける男性上司もいたし、それに対して憤る男性社員もいた。それは女性社員も同様であり、理不尽なことで怒ってばかりいる女性もいたし、叱られて当然のことをしたのに愚痴をこぼす女性もいた。一方で、誠実かつ合理的に仕事をこなす社員は男女問わなかった。

 男が正しくて女がバカなのでも、男が嘘つきで女が誠実なのでもない。女性部下が10人いれば、10通りの性格や思考回路があるわけで、10人とも女性だから10人ともにこのように扱えばうまくいくだろう、というようなものではない。「男は/女は」で語ろうとすることそのものが馬鹿げている。すなわち『PRESIDENT』の特集テーマ自体が、空虚なのである。

中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

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