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のぶみ絵本『ぼく、ママとけっこんする!』は徹頭徹尾、母親を泣かせるためだけの駄作だと思う

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 絵本作家のぶみ氏の最新作『ママがおばけになっちゃった! ぼく、ママとけっこんする!』(講談社)が先月発売され、またまた大好評だという。同作は、2015年の発行以来爆発的な人気で累計60万部を突破した“ママおば”シリーズ、第一作『ママがおばけになっちゃった!』、第二作『さよなら ママがおばけになっちゃった!』に続く、第三作となる。

 第一作では<ママは、くるまにぶつかって、おばけになりました。いちばん心配なのは、4歳の息子かんたろうのことです。よる12時をすぎると、かんたろうの部屋に現れて……>、第二作では<きょうは、ママのおそうしきです――。かんたろうはママがいなくても、ひとりで自分のことができるのでしょうか? 愛を伝えあうふたりに、お別れのときがやってきました>というストーリーだった。

 のぶみ氏は、「ママは大切なんだとわかってほしい」との想いで描いたとインタビューなどで語っているが、第一作も第二作も、子供に母親の死を疑似体験させることによって恐怖心を植え付ける、いわゆる「脅し」の片鱗が窺え、少なくとも私は読んでいて気分の良いものではなかった。「ママが死ぬかもしれないから、ママを大切にしよう。いい子でいよう」と子供が思うことは、大人からしたら合理的でいざという時に後悔を最小限にとどめることができる……との解釈も可能かもしれないが、子供に「死」を意識させながらあれこれ躾けていくことに、疑問を覚えるのだ。

 そして今回の第三作。ママが死ぬ少し前と、かんたろうが大人になってからが描かれている。<3歳のかんたろうが 「ぼく、ママとけっこんする!」と言いだし―― ママとかんたろうは、 おうちで結婚式を挙げました。 大切な思い出の一幕となりましたが、 ある日突然、ママは交通事故にあって おばけになってしまいます。 悲しみを乗りこえて 大人になったかんたろうは、 恋人と出会い、ついに結婚式を迎えました。 そこにママが残した、幸せのサプライズ。「ちゃ~んと りっぱに やってるから あんしんしろよな。」 母と子の絆が、未来へとつながります>。

 これまでもかんたろうの父親らしき人物が登場していなかったため、かんたろうの母親がシングルマザーであることは想像できた。第三作は、かんたろうが3歳の頃、つまりかんたろうの母親がまだ生きていた頃の話から始まる。3歳のかんたろうが「だって、パパもうかえってこないんでしょ? だったらぼくがママとけっこんする」と言い、母親は「せかいいちやさしいこどもね」と大号泣。かんたろうと、昔使ったというドレスを着た母親は家で結婚式を挙げる。そして、かんたろうが4歳の時に、母親は車にぶつかって亡くなる(=<おばけ>になる)。

 おばけになった母親は、夜になるとかんたろうの前に現れ会話をする。物語の佳境は、ここからだ。やがて大人になったかんたろうは恋人ができ、しばらくして結婚式を挙げる。その際、祖母がこの日のためにずっととっておいたという、生前の母親と3歳のかんたろうの結婚式のビデオを流すのだが、かんたろうの母親は“かんたろうのおよめさん”に「けっこんしてもバカなことたくさんするかもだけどさ たまにせかいいいやさしかったらゆるしてあげてね」と伝える(ちなみにかんたろうのお嫁さんは、ビデオの母親と同じドレスを着用)。ビデオを見たかんたろうは、声に出して「ちゃ~んとりっぱにやってるからあんしんしろよな」と母親に言う。その後、かんたろうとお嫁さんとの間には女児が生まれるが、その子は「ママそっくり」で、かんたろうの前に母親が現れることは二度となくなった――。どうやら、かんたろうの娘は、かんたろうの母親の生まれ変わりということらしい、というところで物語は終了する。

 第一作、第二作と比べても、一体何が言いたいのか、何を伝えたいのかよくわからないというのが私の率直な感想である。かんたろう目線ではなく母親目線で物語が進行するということもあり、同作を読み聞かされた子供にしてもどう捉えればいいものだか首を傾げるのではないか。

 同シリーズは、徹底して(一部の)母親が喜ぶ話に仕立て上げられている。離婚してシングルマザーになった母親に息子が「ママとけっこんする」と言い、子供ながらにママを守ろうとする気持ちは、大人の目線で見れば「健気で感動」するのかもしれないが、無邪気に喜べない。言うまでもなく幼少期に大人の役割を担わせることは望ましくないからだ。

 母子が愛情深く繋がることそれ自体を危険視するわけではない。のぶみ氏は第一作刊行後のインタビューで、「ママと子の愛って、世界で一番強いんじゃないでしょうか。もちろん、子どもはパパのことも大好き。だけど、ママと子どもの愛は、その比ではないように思います。でも、日常生活のなかで、そのことはあまり意識されませんよね。だから僕はこの本で、ママと子どものつながりの強さを描きたかった」と語っている。その強い愛があることを、「ママの死」によって子供に意識させる手法は、やはり乱暴ではないか。

 母親たちの読後の反応は非常に良かったが、子供たちにはイヤがられたそうで、その理由をのぶみ氏は「『この本はお母さん向けなのかな』とも思ったけど、きっとそうじゃない。これだけ子どもが嫌がるからには、きっと子どもの心に強く訴えかける何かがあるんです。だからこの本は、やっぱり子ども向けの絵本なんです」と推測している。子供の心に強く訴えかける“何か”があるとしたら、だからこそ私は、この本を読み聞かせることを不安に思うのだけれど……。

 ともあれ『ママがおばけになっちゃった! ぼく、ママとけっこんする!』は、のぶみ氏にとって最高傑作との自信があるらしい。Facebookにて、「18年絵本描いて一番良く出来た絵本」「渾身の作品!! 絵本しか出来ない男の集大成です」「日本中のママに 子育ての終わりは、いつですか?って聞いたら けっこんしき、ってみんな言ってたのを聞いてこの絵本が誕生しました」「この絵本は、もはや映画」「超オススメの絵本」「そして、読み聞かせ、是非して欲しい!! 読み聞かせすると ぼくの絵本は、10倍力が湧き上がるからです!!」と熱烈PRをかけている。

 この絵本を読み聞かされて、子供は散りばめられたギャグに笑うかもしれないが、母親と同じように感動を覚えるものではないだろう。子供の将来を心配する母親の気持ちに寄り添っている、「大人のための絵本」に尽きる。それが絵本作家であるのぶみ氏の「渾身の作品!!」なのだろうか。子供にとって、大人の感情を読み取るためのツールにはなるかもしれない。大人が言って欲しい言葉を覚えるかもしれない。しかし、それだけだと私は思う。

中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

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