社会

社会は頑張って異性愛者を育んでいる 同性愛は先天的か後天的かの議論を超えて

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異性愛に「発生原因」はあるか?

こうして見てみると、人の性のあり方について特に同性愛ばかりがその発生原因に注目されること自体、何かおかしいことだと気づくと思います。私たちはなぜ、異性愛的な欲望がどう生まれるのかとか、それは先天的なのか後天的なのかとか、そういった議論をあまりしてこなかったのでしょうか。例えばセクシュアリティ研究と言われる時の「セクシュアリティ」はたいてい異性愛以外のもの——特に同性愛——あるいはフェティシズムなどの欲望のあり方を指していて、「普通」とされる異性愛は研究の対象にあまりならないのです。

私たちの社会は、異性愛をあまりに当然と思っているために、異性愛に「要因」なんてものを考えること自体を放棄しています。あたかも、人はボーっとしていれば異性愛者になるはずだと言わんばかりに。

はたして異性愛はそんなに自然発生的なものなのでしょうか。ここでは二つのレベルに分けて話をする必要があります。ひとつは、科学的に同性愛が今のところ「先天的な要因と後天的な要因のどちらもあると予想される」としか言えないのであれば、異性愛もまた同性愛と同じように、その程度しか予想できないものだろうということです。これは、性的指向という前提を受け入れた上で公平中立を保とうとすれば採用せざるを得ない、科学に基づく平等主義の立場です。

もうひとつは、そもそも異性愛という概念がない時代を人類は約二〇万年過ごしているのに、本当に私たちが経験する性的欲望を「異性愛」や「同性愛」とくくることなんて不可能だということです。これは先ほど話した、人間の持つ「知識」自体を歴史上の産物と解釈し、その知識が言説の繰り返しを通して私たちの認識や感覚にまで影響を及ぼしていると考える立場です。これは先程説明したように社会構築主義と言われます。

科学に基づく平等主義を採るか、社会構築主義を採るかは個人の考え方次第でしょう。しかしどちらの立場を採用するにしても、異性愛を自然の、本来の、先天的に決まっているものだと前提視することは不可能になります。つまり、科学に基づく平等主義をベースに考えても、社会構築主義をベースに考えても、人間のほとんどが自然に異性愛者になるなんてことはあり得ない、という結論に導かれるのです。——これがこの記事の最も重要なポイントです。たったの八〇文字なので、丸ごとコピーしても URL 込みでツイートできます。さあ是非!

私たちは異性愛者を育成している

異性愛の発生原因については、セクシュアリティやLGBT、アイデンティティの議論よりも、実はフェミニズムに多くのヒントがあります。アダルトコンテンツからバラエティ番組、妊娠出産中絶や家族に関する法律、学習要領や性教育の内容、もっと言えば「男の子なんだから、女の子を守ってあげなきゃ」「女の子がそんな格好したらダメだよ」という大人たちの言葉まで、単体では直接影響を及ぼさなくとも、総体として私たちのジェンダー観や性的欲望のあり方に影響を及ぼしています(「新しい効果理論」などを参照)。そうして影響を受けた私たちがポルノグラフィーやバラエティ番組を作り、法律や学習要領、性教育の内容を作り、そして小さい子どもを育てることで、影響は世代を超えて引き継がれていくのです。

異性愛は自然だが同性愛や両性愛は不自然なものであるというメッセージは社会のそこかしこにあります。日常生活やメディアだけでなく、例えば先日2017年10月22日の選挙で改憲に必要な議席を確保した改憲派政党(自民党など)が目論んでいる改憲には、結婚や家族に関する憲法改正も含まれています行政が市民の「婚活」を税金を使って支援する例などもあります。これらは少子化対策としての施策なのでしょうが、明確に市民に対して「異性に性欲を感じなさい、異性を愛しなさい、異性と結婚しなさい、異性とセックスをしなさい」と奨励していることがわかります。ゲイ男性の文化に「ハッテン場」というものがありますが(この Wezzy 記事でも触れられています)、私たちはすでに常に日常生活どこに行っても異性愛者のハッテン場にいるような錯覚すら覚えます。

社会の総体として、私たちは大規模に入念に、かなり頑張って異性愛者の育成に励んでいると言えるでしょう。

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マサキチトセ

評論家(クィア理論・フェミニズム・社会運動論)。LG(B)T。関心は貧困、セックスワーク、刑務所制度、LGBT運動。YouTubeでマイノリティフレンドリーな『クィア英会話』っていうチャンネルやってます。

ブログ:包帯のような嘘

YouTube:クィア英会話《マサキ》-Masaki

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