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生理を理由に、無実の女性が殺人犯に仕立て上げられた「甲山事件」

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 19743月に兵庫県西宮市の知的障がい児施設「甲山学園」で、浄化槽から2園児の遺体が発見された際(のちに事故であったことが判明)、職員の中でアリバイがはっきりしなかったのが、当時22歳のSさんだった。警察は、「生理中の女性は気が昂ぶっていて、発作的な犯行に及ぶかも知れない」(2)という考えから、女性職員全員の月経日を調べ、たまたま事件の日に月経が始まったSさんへの嫌疑を深めた。

 逮捕されたSさんは、過酷な取調べに負けて自供してしまう。支援者らとともに無実を叫び続け、無罪判決が下されたのは、事件から25年後のことだった。

 今も月経と犯罪の関連性について説く専門書が存在する。かつて「月経中」と書かれていたところが「月経前」に変わっているだけであったり、いまだに「月経中」と書かれていたりするものもある。情報番組で、女性被疑者や女性被告人について語る際、月経との関連性に言及するコメンテーターもいて、恐ろしい限りである。

 PMSは、女性の健康に関する話題として扱われるため、それが女性に対する偏見につながるか否かといったことはほとんど意識されない。だから余計にタチが悪い。

 例えば、ある会社の人事担当者が「女性は月経前に仕事が疎かになる」という話を信じていたら、採用の際にも昇進の際にも、女性は男性より圧倒的に不利になる。

 かつては、「女は結婚や出産で会社を辞めるから、育て甲斐がない。だから積極的には採用しない」と公言する会社が珍しくなかった。今は結婚や出産をしない女性も多いが、月経はほとんどの女性にある。女性を男性よりも劣位に置きたい場合、最後の拠り所となるのが月経なのである。

 そうは言っても、現に月経前に不調が出る人もいれば、月経痛がひどいという人もいるだろう。それを隠す必要はない。むしろ語ることで、月経にまつわる不調には個人差があるということが、当たり前に認識されるようになることが望ましい。同時に治療法についての情報も広く共有されるべきであり、そのためにも有効な初経教育が必要である。

 日常的に耳にする 「女性には周期性がある」「感情にムラがある」といった発言もかなり無責任である。多くの女性が月経周期を意識しながら生活しているが、だからと言って月経周期に支配されているわけではない。

(1)山田和男『月経前不快気分障害(PMDD)』星和書店
(2)松下竜一『記憶の闇 甲山事件1974→1984』河出書房新社

※一部、事実誤認があったために表記を修正しました。

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田中ひかる

1970年東京生まれ。著書に『月経と犯罪――女性犯罪論の真偽を問う』(批評社)、『「オバサン」はなぜ嫌われるか』(集英社新書)、『生理用品の社会史――タブーから一大ビジネスへ』(ミネルヴァ書房)など。

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生理用品の社会史: タブーから一大ビジネスへ