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明日はトランスジェンダー追悼の日 私たちにはヘイトクライムの犠牲者を悼む理由がある【第19回:トランス男子のフェミな日常】

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 これまで生きてきた中で、一度だけ「これはやべえな」と思う瞬間があった。ニューヨークの地下鉄にトランス女性の知人と乗っていたときのことだ。前に座っていた男性がいきなり青ざめた顔で「おめえ、男だろう」と知人にからんできたのだ。これまで日本の酔っ払いにニヤニヤされたことはあっても、ピュアな怒りを突然むけられたことのなかった私は、なぐられるかもしれないという事態がとっさに理解できなかった。知人は、といえば手慣れたもので、じゃあねと次の駅で降りてしまった。ニューヨーク、怖いところだな、と思った。

 明日1120日はトランスジェンダー追悼の日だ(TDORTransgender Day of Remembrance)。この日は、1998年に米国ボストンでリタ・ヘスラーというトランス女性が惨殺されたことを追悼することから始まった。リタは35歳になる誕生日を目前として、胸を20回も刺されて亡くなったという。追悼集会でリタの母親はマイクを取り、何度もこう語りかけた。

「お母さんが身代わりになりたかった。リタ、あなた逃げなさいって言いたかった」

 集まった250人ほどの人々はみな涙を流し、このヘイトクライムに怒った。彼女は有色人種(トランスジェンダーへのヘイトクライムの犠牲者の多くは有色人種やセックスワーカーであると言われている)のLGBTQコミュニティではちょっとした有名人だったらしい。

 事件をきっかけに、TDORでは毎年トランスジェンダーへのヘイトクライムで殺された人たちを追悼し続けている。この一年間に世界中で新たに殺されたトランスジェンダーたちの数は、分かっているだけで何百人もいる。毎年その数は増えることはあっても減ることはない。TDORのサイトには、分かっている犠牲者のリストが掲載されている

名前、場所、日にち、死因。

名前、場所、日にち、死因。

名前、場所、日にち、死因。

 きっと殺された人たちにも、それぞれネコを飼っていたとか料理がうまかったとかいろいろなエピソードがあっただろう。でも、膨大すぎるリストからは個々の人たちがどのような人生をおくったかは読みとれない。読みとれないからこそ、生前を知る人たちで語り継ぐしかない。沖縄の「平和の礎」の前で、刻印された名前の下に花束をおいているおばあちゃんと子どもたちみたいに。

 ニューヨークでの出来事があり、日本は比較的マシなのだと私は感じるようになった。しかし、殺されさえしないものの、トランスジェンダーへの暴力はあちこちで振るわれている。調査によれば日本国内でもトランスジェンダー女性は学校の中でなぐる・蹴るのみならず、服を脱がされるなどの深刻ないじめに遭う率が高く、いじめも長続きしやすい。みずから命を絶つものもいる。人が自殺に追い込まれるのには平均して4つ以上の原因があると言われるが、トランスジェンダーであることは、今の日本では貧困や社会的孤立などいくつもの原因を集めるのに悲しいほど有効だ。

 先日もまた、友人のトランス女性が、仲間が自死で亡くなってしまったことについてFacebookに書いていた。日本に住む私たちには、私たちなりに悼む人たちと悼む理由があるように思う。見えなくされて、複合的にからみあった生きづらさについて。

遠藤まめた

1987年生まれ、横浜育ち。トランスジェンダー当事者としての自らの体験をもとに10代後半よりLGBT(セクシュアルマイノリィ)をテーマに啓発活動をはじめる。主にLGBTの若者支援や自殺予防に関わる。著書に「先生と親のためのLGBTガイド 〜もしあなたがカミングアウトされたなら」(合同出版)ほか。

twitter:@mameta227

サイト:バラバラに、ともに。遠藤まめたのホームページ

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先生と親のための LGBTガイド: もしあなたがカミングアウトされたなら