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武井咲へのバッシング、育休社員への非難と排除。家庭と仕事は対立せざるを得ないのか?

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武井咲

『黒革の手帖』公式Instagramより

 現在放送中のドラマ『今からあなたを脅迫します』(日本テレビ系)で主演を務めているディーン・フジオカ(37)が激怒”している、と「週刊新潮」2017119日神帰月増大号(新潮社)が報じていた

 記事で伝えられているのは、ここ最近のディーンは仕事が順調にもかかわらず表情が冴えない、その原因は『今から~』でダブル主演を務める武井咲(23)にある……という話だ。ドラマ撮影でディーンは妊娠中の武井を気遣っていたが、つわりがひどくなってきてからの武井は“あれも出来ない、これも出来ない”状態で、武井の所属事務所であるオスカープロモーションは謝りもしない、ディーンは俺の初めての民放連続ドラマ主演作をどうしてくれるのかと激怒し、撮影現場は険悪な雰囲気――、とのことである。

 武井は今年91日、EXILETAKAHIRO32)との結婚および妊娠3カ月であることを発表。多数のCM契約を結び、10月から放送が始まった『今から~』だけでなく来年のドラマ出演のスケジュールも埋まっている武井の授かり婚に対しては、祝福だけではなく、「契約違反」「無責任」と批判する報道や一般コメントが多く、違約金は10億円に上るのではないかと囁かれたりもした。実際には武井の授かり婚による降板や契約解除などは発生せず、97日、日本エンターテイナーライツ協会(ERA)が一連の報道に対して「違約金の金額が10億円ということは到底考えられません」「出来るだけ事実に即した報道を求めます」と声明を発表した。

 あれからおよそ2カ月が経過したわけだが、今回の「週刊新潮」の記事に対して寄せられたYahoo!コメント(200171114日現在で約1600件)に、再び武井への「無責任」「プロ意識がない」「迷惑」「引退すべき」「考えが甘い」など批判的なコメントが多くついており、残念であった。一方で、「3児の父でもあるディーンがそのように激怒するなんて嘘くさい」と記事の信ぴょう性を疑うコメントも少なくないが、「ディーンの激怒は嘘だと思うが武井が迷惑なのは事実」「TKAHIROが養うべき」などといったコメントもあり、相も変わらず妊娠=迷惑、妊娠は仕事の邪魔になる、という図式がまかり通っているのかと思うと暗い気持ちになる。もちろん、Yahoo!ニュースは日本最大規模のニュースポータルではあるが、そこに書き込まれるコメントがマジョリティの声でないということは了解しているし、ある事象にどう反応しようと内心の自由だが……。

 (記事の内容の真偽はさておき)妊娠・出産・育児は、仕事の対立軸に置かれている。この社会構造のままでは、少子化など改善のしようがない。どちらも同じ人生の中で、同じ一日の中で、向き合うことはそんなにも難しいのだろうか。

 これより少し前、1031日の朝日新聞の「声」欄には、「育休の肩代わり 過重負担では」という題名の投稿が掲載されて物議を醸した。

 投稿者の長崎県在住の主婦(40)は、夫が娘の小学校の入学式に出席するために前もって休暇を申し出ていたのにもかかわらず、直前で同僚女性が育休を延長し、上司の理解もなかったため、当日仕事が入り入学式を諦めることになったという。また、夫は女性の産休中にも仕事を肩代わりして過労で体調を崩したこと、夫の他にもそういう人がいることに挙げ、「産休・育休の取得が広がりによって同僚にしわよせがいく」と訴えているのだ。投降者自身は「育児は片手間には出来ない」と考え正社員の仕事を辞めていて、「何かを得ようとすれば何かを犠牲にせざるを得ないのは皆同じだ」ともある。

 この投稿意見に対して、ネット上はいつもの如く賛否様々な意見が交錯していたわけだが、投稿内容が本当であれば、育休を延長した同僚女性を責めても何も解決に向かわない。そこにあるのは「プライベートよりも仕事を優先せよ」という慣習だ。

 投稿者は「産休・育休の取得が広がりによって同僚にしわよせがいく」というが、産休・育休に限らず、会社などの組織に所属する者が何らかの事情(病気、怪我、介護など)により、休職を余儀なくされたり、これまで通りの業務を行うことが難しくなったり、といった事態は性別に関係なく起こり得る。「同僚にしわよせがいく」事態は、産休・育休取得社員の存在によってのみもたらされる事態ではないし、会社側はそういった事態を前提として運営していかなければならない。仮に仕事を何よりも優先する社員のみで構成される組織にしたとして、持続可能性はいかほどだろうか。

 共働きが定着し、かつてと比べて女性の産休・育休取得も進んでいる一方で、男性の育休取得はなかなか進んでいない現状があるわけだが、1026日、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に所属するカナダ国籍の男性社員(47)が、正当な理由なく受けた休職命令の無効であるとして、地位保全や賃金仮払いの仮処分を求め、東京地裁に申し立てて記者会見を開いた。男性は2012年より同社に勤務し役職に就いた。2015年に婚姻関係のないパートナー女性の出産にあたって育児休業を申請した際、母子手帳がないことを理由に申請を断られた。長男誕生後の12月に父子のDNA鑑定を提出し、育児休業はようやく認められたが、20163月に職場復帰してから度重なるハラスメント被害を受けるようになったという。上司や人事担当者と話し合うも状況は改善せず、20171月に鬱病の診断が下り休職。約半年の静養を経た7月、産業医からは復職可能の診断が下された。しかし会社側は「体調面の配慮」を理由に男性の復職を拒み、1018日には男性に対して無給の休職命令。現在シングルファザーとして育児を行っている男性は会見にて、育休取得がハラスメントの発端であったこと、同様の社員が他にもいることなどを語り、「もう黙ってはいられない」と声を挙げることにしたと説明している。訴えられた会社側は、抗戦の意思を示している。

 先の衆議院選挙では候補者たちが競うように「子育て支援」を公約に掲げていた。待機児童問題の解消が地方自治体にとっても国政にとっても急務であることは、誰もが認識しているところだ。とはいえ、いくら子育て環境を整えたところで、「プライベート(家庭)よりも仕事を優先すること」を是とする組織に属していれば、子育てをやりようがない。冒頭に紹介した武井咲への反応からは、仕事をするにあたって妊娠・出産・育児は邪魔、という意識の蔓延が伺える。仕事と家庭は対立軸ではない、一人の人生においてどちらも当たり前に共存できることのはず。この不自然な対立構造を崩さずに、「両立を」と呼びかけても虚しいだけである。

中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

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