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スキルマーケットでの激安サービス提供は、コスト度外視になっていないか?

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 1120日放送の『あさイチ』(NKH系)が放送した特集、「女のニュース 広がるスキルマーケット」。スキルマーケットとは、個人の「特技(スキル)」の売買であり、主にCtoCマーケット(個人間取引)を通して取引が行われている。そういったスキルマーケットで、今どんな取引が行われているのか、その真相に迫る――といった内容であった。

 スキルマーケットで売買されているのは、相談、習い事、制作、代行など。番組で紹介されていたものだと、「思い出に残るクリスマスデートプランを考えます」「電話で夫の愚痴を聞く」「顔分析メイクでメイクのお悩み解決します」「ルノルマンカードによる占い(メールで行われる)」「ブログのネタ補充」などがあった。近年問題視されている「夏休みの宿題代行」も、代行業者を利用するのみならず、こういった市場を利用する保護者がいるのだろう。最近は、売り手同士が集まって交流会が開かれ、サービス向上について話し合ったりしているというから驚きである。

 たとえば<知識・スキル・経験を売買するフリーマーケット>サイトのcoconala(ココナラ)」で売り買いできるサービスは多岐にわたっており、カテゴリは「ハンドメイド」「似顔絵・イラスト」「占い」「恋愛・結婚」「法律相談・弁護士検索」「音楽・ナレーション」「美容・ファッション」「キャリア・就職・資格」などなど、非常に豊富だ。人気ランキング上位にあるのは「アイコン作成」や「似顔絵」で、SNSアイコンとしても使える似顔絵イラストを1,000円程度の低価格で描くサービスの人気が高いようだ。

 また、フリマアプリとして人気の「メルカリ」でも、やはり結婚式などに使えそうな似顔絵のオーダーが数多く出品されている。価格帯を見ていくと、安いものだとはがきサイズで500円、A4画用紙で1,400円。なるべく安く済ませたいと考える人が依頼するのだろうか。書道家お名前ポエム(子供に命名した名前の文字を取り入れたポエム)もあれば、夏休みの宿題として提出する工作の完成品もある。売り切れ品を教員や同級生の親が見つけてしまうことも無きにしも非ずなので、学校内で問題化する懸念があるのだが、気にならないものだろうか。ハンドメイド作品(子供が保育園や学校で使うレッスンバックやコップ袋など)の格安オーダーもかなり多い。ただ、中には安くない価格設定のものも見受けられ、こちらのほうが健全のように思えてくる。というのも、多くの商品が「スキルの大安売り」になってしまっている印象を受けるからだ。

 『あさイチ』の特集では、実際にスキルマーケットで特技を売っている人が2人紹介された。いずれも女性で未就学児を育てる身だ。

 1人目は、「2歳の娘を育てる傍ら自分の特技で稼いでいる」という主婦・美由貴さん。特技とは絵を描くことで、美由貴さんは「ココナラ」に登録して、注文を受けると似顔絵やイラストを描きデータで提供するという作業を“売って”いる。価格は1,000~3,000円ほどだが、美由貴さんいわく「予想より儲かっている」そうで、1年に50件ほどの依頼を受けているという。美由貴さんのイラストを依頼・購入した1人である薬局経営の女性は、薬局のチラシやブログに掲載するためのイラストを美由貴さんに依頼。価格は2,500円で、ここからサイトの利用手数料を差し引かれた金額が、実際に美由貴さんに支払われる。たとえばココナラの場合は、販売価格から手数料25%+税が差し引かれ、この手数料はシステム利用料+決済手数料(クレジットカード等の決済システム利用料)とされる。

 薬局経営の女性は、以前プロのイラストレーターに依頼した時は30,000円かかったが今回は大幅にコストダウンでき、イラストの出来栄えにも満足し嬉しいと語る。美由貴さんも「自分の特技で得たお金は何にも代えがたい喜びがある」。子供に気兼ねなく月に1回雑誌を買ってあげられたり、一緒にパン屋さんに行っていいものを食べたり、心の潤いとお財布の潤いどちらも兼ねているのだそうである。

 2人目は、「ネットで自分の特技を売ることを自分のステップアップになると考えている」飯島さん。もともと子供を対象に体育の個人指導をしていたという飯島さんは、出産育児で4年ほど仕事を休んでいるが、スキルマーケットで「運動が苦手な子供にかけっこや鉄棒を教える」というサービスを販売中だ。直接指導するのではなく、メールで保護者とやり取りを行い、練習方法などをレクチャーするのである。飯島さんは、こういった活動の積み重ねで自分のスキルを磨き、仕事復帰の感覚を戻したいと考えている。

 2人ともスキルマーケットで自分の特技を売ることで自己実現欲求を満たしている様子が見て取れる上、購入者もコスパのよさに満足・感謝していて、一見スキルマーケットは素晴らしいサービスの在り方のようにも見える。少なくとも『あさイチ』ではそのような捉え方で紹介されており、売り買いをする際の注意事項(個人情報に十分気をつける、個人間の取引なので基本は自己責任、購入の時は利用者数・口コミ・評価を確認する、気になることは購入前に問い合わせ納得してから購入する、プライバシー情報提供は慎重に)を説明し、「自分に合った形で利用いただければ楽しいと思います!」と結論付けられていた。

 しかし疑問なのは、たとえば美由貴さんがイラストを描くにあたって要した時間や手間や材料費などのコストに対して、美由貴さんが実際に手にした報酬は見合った金額と言えるのか、という点だった。少なくとも私には美由貴さんが提供するサービス(つまり労働ともいう)が「2,500円」というのは安すぎるように見えた。逆にプロのイラストレーターが提示する「30,000円」が“高すぎる”のだろうか? しかし美由貴さんや飯島さんをはじめ、低価格でスキルを売る人たちが、そのスキルで自活しようとした場合、そんな低価格で提供することは出来ないだろう。

 お小遣いを得たり自己実現をしたいアマチュアと、安くサービスを受けたい消費者のマッチングは、当人同士が納得しているならそれでよし、という考えもあるだろうが、市場の適正価格を安易に下げてしまうことにつながりかねない。作成に要した時間や手間やコストおよび実際に出来上がった作成物のクオリティにも見合わないような低価格で提供する……つまり労働に見合っていない取引があちらこちらでまかり通ってしまう現状は、フリーライターとして働く自分にとっても他人事ではない。クラウドソーシングに掲載されている案件の多くがブラック企業をはるかにしのぐような低い報酬額だったことを思い出す。

 いわゆる“プロ”でなくとも何かしらのサービスを売ることが可能な土壌はすでに出来上がっており、未熟なスキルであっても「安値なら買いたい」層も確実にいる。対面せずオンラインのやりとりだけで完結するサービスの需要も多い。育児期の主婦に限らず、既存の仕事の枠にはまらない、自由度の高いやり方で働く道が広がり続けていること自体は、悪いことではない。最初は低価格でサービス提供していても、経験を重ねて顧客がつき、徐々にプロに近い価格帯まで値上げすることも可能だろう。とはいえ、売り手には最低でもコストに見合った価格を提示してほしいし、買い手もそれに納得してほしい。修行中の身だから、未熟だから、プロではないから……だからといってタダ働き同然でも“仕方がない”とは思わないでいたいものだ。

中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

バナナ&ストロベリー

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