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「生理が来ないほうがマシ」北朝鮮女性兵士たちの嘆き 生理用品は社会を計る指標

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Photo by Fjölnir Ásgeirsson from Flickr

  今から15年前の『週刊文春』(2002125日号、文藝春秋)に、ジャーナリストの菅野朋子さんによる「北朝鮮女性の化粧・下着・SEX」という記事が掲載された。この記事のなかで脱北女性たちは、「韓国に来て、最も感激するのは実は生理用品のナプキンの存在」で、「韓国に来るまでこんなに便利で快適なものがあることを知りませんでした」「食糧ももちろん大事だけど、北朝鮮の女性たちの苦痛を和らげるためにもまずナプキンを送ってほしい」と語っていた。彼女たちは生理のとき、ガーゼや着古した下着の端切れを当て、経血量が多い日はそれらを何枚も重ねたり、ビニールを当てたりしていたという。

 北朝鮮に関するニュースは毎日流れているものの、一般の人たちがどのような生活を送っているのか、ましてや女性たちがどのような経血処置を行っているのかについてはなかなか伝わってこない。経済制裁も厳しくなり、かつてより状況が悪くなっていることは確かだろう。そんなことを考えていたら、先週BBCニュースが配信した脱北女性のインタビューのなかに、生理用品について触れたくだりがあった(1)。

 インタビューを受けた女性は、食べ物に不自由しないだろうという理由で17歳のときに志願して軍隊に入り、約10年間兵士として過ごした。2008年に脱北。現在41歳とのことなので、軍隊で生活していたのは『週刊文春』の記事の時期と重なる。

 軍隊での生活は、食事も十分に与えられず、快適とはほど遠いものだった。兵舎はコンクリート臭がし、もみ殻でできているベッドのマットレスは汗を吸収して常に臭った。シャワーも浴びることができず、川にホースをつないで水を浴びたが、ホースからカエルやヘビが出てくることもあったという。

 栄養不足と激しい訓練、男性兵士からの性的暴行などのストレスから、この女性のみならず女性兵士の大半は生理が止まってしまった。しかし、「あまりにひどい状況で、これで生理になったら、もっとひどいことになっていたから」、お互いに「生理が来なくなって良かった」と話していたという。なにしろ軍は生理用品を支給しなかったので、女性兵士は、「しばしば生理用ナプキンを再利用するしかなかった」。

 「ナプキン」と言っても日本で使われているような使い捨てナプキンではない。

「北朝鮮の女性は、今でも昔ながらの白い綿のナプキンを使っている。男性が見ていない時に毎晩洗わなくてはいけないので、女性たちは早起きして洗っている」

 かつての日本がそうであったように、生理用品が未発達な地域では、得てして生理に対するタブー視が強い。タブー視が強いために生理用品を改良しようという声が上がらないのである。また、女性蔑視が強いことも、生理用品の進化を阻む要因のひとつである。北朝鮮では、日本よりもさらに性別役割分業意識が強く、軍隊内でも料理や洗濯は女性兵士の担当だという。

 今もインドなど月経タブー視が強い地域では、経血処置に使った布を洗濯したところで堂々と天日干しすることもできない。おそらく北朝鮮も同じではないだろうか。繰り返し使用する上に物陰にしか干せない布は、不衛生で感染症の原因にもなる。

 現在の日本では、「環境にやさしい」「体にやさしい」といった理由で、布ナプキン使用者が増えつつあるが、衛生を保ちながら繰り返し使用するということは、気持ちにも時間にも余裕があって初めて可能なことなのである。

 2015年に、北朝鮮の女性は7年間の兵役に就くことが義務付けられた。それと同時に女性兵士に「デドン」という生理用品が支給されるようになったと言われているが、情報が少なく、実態はわからない。

 北朝鮮についての著書があるジェウン・ペク氏は、「デドン」の支給について、「女性を取り巻く環境が劣悪だったのは周知のことなので、過剰対応して修正しようという発表だったかもしれない。あるいは士気を高め、多くの女性に『ああ、私たちのことを考えてくれている』と思わせるのが狙いだったかもしれない」(2)と述べている。

 たしかにそれまでの状況を考えると、「デドン」の支給は女性兵士たちの「士気を高め」たかもしれない。しかし、女性たちにとって必要不可欠な生理用品を支給することは、本来当たり前なのである。当たり前のことを「過剰対応」と見なされてしまうほど、北朝鮮の女性兵士、そして人々は酷い状況に置かれているのだ。

 生理用品以前に、生理が来ない女性の割合も増え続けているのではないだろうか。

 生理用品を取り巻く環境には、その社会の月経観や女性観のみならず、政治や経済も反映される。北朝鮮の様子を見ていると、生理用品が社会を計る指標の1つだということを痛感せずにはいられない。

(1)(2)「強姦は日常的、生理は止まり……北朝鮮の女性兵たち」

田中ひかる

1970年東京生まれ。著書に『月経と犯罪――女性犯罪論の真偽を問う』(批評社)、『「オバサン」はなぜ嫌われるか』(集英社新書)、『生理用品の社会史――タブーから一大ビジネスへ』(ミネルヴァ書房)など。

田中ひかるのウェブサイト

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生理用品の社会史: タブーから一大ビジネスへ