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性別適合手術、ついに保険適用へ いま考える「性の自己決定」とは?【第20回:トランス男子のフェミな日常】

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 永年の悲願だっただろう。今週の水曜、「性別適合手術に保険適用」のニュースが全国をかけめぐった(性同一性障害の人の「適合手術」、保険適用を議論へ

 体を変えたいトランスたちにとって「高額な医療費」は人生の細部にまで入り込んでくる厄介な事象のひとつとして、ずっと君臨し続けていた。トランスの学生たちは就職活動よりも前にオペがしたいと電卓をたたき、生活保護を受けているトランスはこのままでは「本来あるべき姿」なんて一生手に入らないかもしれないと落胆してきたのだ。人が病院でカネを払うというのは娯楽でもなんでもない。その負担が何十万円も軽くなる。うれしくないわけがない(胸を取る手術にも適用してほしかった!)。

 保険適用がなされるということは、今後国内で性別適合手術を行う病院が増える可能性も大きいということだ。手術費の安価なタイに飛んでオペをしてから帰国後に腹部に膿が溜まったり、おしっこが二つの穴から出てきたりした当事者がいる。かれらはこれまで国内でアフターケアを受けることが難しかった。その問題もやがて解消されていくかもしれない。

 とはいえ実はこの件、大きな懸念もある。トランスにとっての医療は、昨今では「望む体を手に入れる」「身体違和を解消する」以外の意味も持つようになってしまっていることだ。

 性別適合手術の中でも特にトランス男性が受ける子宮・卵巣の摘出手術については、見えない部分の手術である。この手術は、性同一性障害特例法の中で定められた戸籍の性別を変えるための必須要件になっているから「こそ」やるという人たちが少なくない。

 就職差別をさけるためや彼女との結婚のために。あるいは自分は男なのにいつまでも「女」という性別欄がついてまわる人生に辟易したという理由で、トランス男性たちは法律に体を合わせることが少なくない。保険がおりて、これまでよりさらに断種しやすくなったら、ますます法律に体を合わせる人が出てくるかもしれない。これって望ましい社会のあり方なんだろうか。

 長らく日本のGID(性同一性障害)をめぐる医療は貧困ビジネスのようになっていた。貧困というのは、単にカネがないということではない。湯浅誠氏の言葉を借りれば、それは「貯め」がないことである、トランスたちは仕事や夢、仲間、情報、きちんとした医療資源がしばしば見つけられなかった。そのような中で、ある人は職場で嫌がらせにあった後に視野狭窄気味なままタイに飛び、帰国してから更年期障害に苦しんだ。あっせん業者は副作用の説明を丁寧にはしてくれなかったという。歌舞伎町にあった劣悪な美容外科の手術台の上で、二度と還らなくなった人もいた

 このように追い詰められた者が性別適合手術を選ぶことは自己決定とは呼ばない。自己決定のためには真っ当な医療と、手術の有無にかかわらず真っ当に生きられる社会の両輪が必要だ。

 世界保健機関は2014年に、トランスジェンダーの法的な性別変更に手術要件を定めることは、事実上の「強制断種」にあたるとする非難声明を各国に出している。言ってみれば、日本は「より断種しやすい国」へと舵を切ることになったわけだ。現在、各国では法的な性別変更から手術要件を外したり、そもそもトランスジェンダーたちを性同一性障害という疾患とみなす考え方を見直したりという議論が進んでいる。日本国内でも、特例法の手術要件の廃止についてもいよいよ本腰をいれて議論していくときが来たのだろう。

遠藤まめた

1987年生まれ、横浜育ち。トランスジェンダー当事者としての自らの体験をもとに10代後半よりLGBT(セクシュアルマイノリィ)をテーマに啓発活動をはじめる。主にLGBTの若者支援や自殺予防に関わる。著書に「先生と親のためのLGBTガイド 〜もしあなたがカミングアウトされたなら」(合同出版)ほか。

twitter:@mameta227

サイト:バラバラに、ともに。遠藤まめたのホームページ

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