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生活保護費の減額検討と、シングル親子世帯が直面している現実

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Photo by Laura Gilchrist from Flickr

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 今、その動向が注目されている「生活保護基準の見直し」。先日、政府は生活保護で支給される食費などの生活扶助について、来年秋からの3年間に総額で160億円程度減らすことを決めた。

 厚生労働省による生活保護基準の見直しは5年に1度行われており、前回の見直しでは20138月以降の生活保護費の段階的な引き下げが決定し、これによって生活保護費は平均6.5%の減額となった。そして今回の見直しでは、そこからさらに最大5%の引き下げを行うという決定が下され、来年秋から段階的に実施していくという(当初の検討案では最大13.7%の減額とされていたが、専門家会議委員らの反対を受けて修正された)。

 厚生労働省は、今回生活保護費を引き下げる根拠として“生活保護受給世帯以外の低所得層の消費水準・生活水準が低い”という調査結果を挙げている。だが、そもそも低所得層の中には生活保護受給対象となり得るのに生活保護申請していない世帯も少なくないであろうこと、生活保護基準の引き下げは最低賃金の引き下げにつながりかねないことなどが指摘されており、今後、負の連鎖が起こる可能性に筆者は危機感を覚える。

 生活保護費は、生活を営むにあたって必要になってくる各種費用に対応して扶助が支給されるというしくみになっているのだが、今回の見直しでは以下の方針が固められた。

●日常生活に必要な費用(食費・被服費・光熱費等)である「生活扶助」の基準を見直し、最大5%の引き下げ

●ひとり親世帯等を対象とした「母子加算」の減額
→現行では平均21千円/月であるところを、平均17千円/月に(ちなみに現行では、児童1人の場合22,79019,620円・児童2人の場合24,59021,200円・3人以上の児童1人につき加える額が920780円/すべて月額)

●中学校卒業前の子供を養育する世帯を対象とした「児童養育加算」を、高校生まで広げ、一律1万円に
→現行では02歳が15千円/月、3歳~中学校卒業までが1万円/月であるところを、0歳~高校終了まで1万円/月に

 つまり、今回の生活保護基準の見直しは、生活保護受給中の子育て世帯にとって、より厳しい方向性を示している。秋の衆議院選挙であれほど子育て支援を打ち出しておいて、なぜ、こうなるのだろうか。「父親・母親・子供たち」が揃い、生活保護受給対象にならない程度の世帯収入がある家庭のみが“子育て支援”の的なのだろうか?

年収200万世帯の親子たち

 たとえば<東京23区内在住/母(30)・子供(2)/賃貸住まい/養育費なし/全額支給>という条件で、現行基準での生活保護費の試算をしてみよう。1カ月の支給額は以下の通り。

 生活扶助基準額:107,790円、母子加算:22,790円、児童養育加算:15,000円、住宅扶助基準額:64,000円……合計209,580円。つまり、少なくとも現行制度において、東京23区内の賃貸住宅で母子2人(母(30)・子供(2))が“健康で文化的な最低限度の生活”を営むためには少なくとも209,580円必要であると判断されているのだ。年間に換算すると2,514,960円となる。

 ちなみに、生活保護と児童扶養手当の併用は可能で、ただしその場合児童扶養手当は収入として認定されるため、毎月支給される生活保護費はひと月分の児童扶養手当が差し引かれた金額となる。児童手当は、児童養育加算があるため支給対象外である。医療費負担はなし。国民年金は申請すれば免除される(40年間全額免除だった場合、受給額は2分の1になる)。そのほか賃貸住宅の契約更新にあたっての扶助、自治体によっては水道代基本料金免除などもある。

 上記支給額などを見て、「働かないのに、ずるい」と思う非・生活保護受給者は少なくないのだろう。心身が健康で、扶養家族もいない30歳の単身者が、月収入で手取り20万円以上を稼ぐことは、正直に言って、今の日本において困難だと思う。2017101日に改定された東京都最低賃金は時間額958円(全国最高)だ。

 ここで、また試算を行ってみる。先ほどの<東京23区在住/母(30)・子供(2)/賃貸住まい/養育費なし/全額支給>の母(30)が、生活保護を一切受けず、<時給958円/勤務時間917時(実労働7時間、休憩1時間)/週5日勤務(月~金)/土日祝は休日>という条件で就労したとする。958円×7時間=1日当たりの賃金は6,706円、1カ月間のうち20日勤務したとしても、月収入は額面で134,120円にしかならず、年間にして1,609,440円となる。ここから、税金や保険料も差し引かれる。さらに2歳の子供をたった一人で育てているとなると、子供の体調不良などで欠勤・早退・遅刻せざるを得ない日があることは十分に予想され、そうなった場合、収入はさらに減る。

 就労以外の収入として、児童手当15,000円/月が12か月分で180,000円、児童扶養手当(満額支給の場合)42,290円/月が12カ月分で507,480円。これらと、先の試算で打ち出した年間収入1,609,440円を合算すると、2,296,920円となり、前述の生活保護費に近くなってくるが、子の教育資金などを想定して収入を上げたければ、1日の労働時間を延ばすか、深夜や早朝に別の仕事を入れるか(俗に言うダブルワーク、トリプルワーク)、より条件の良い職場へ転職するかなどの選択肢が出てくる。だがそのような策を講じれば講じるほど、子供とゆっくり過ごす時間も母親自身の休息時間も取れなくなる。まさに時間の貧困である。保育園を利用するとしても、日曜祝日や年末年始は預けることができない園が多く、出勤は厳しい。おのずと平日日中勤務の職場に限定されてくる。

 マザーズハローワーク、教育訓練給付金制度、自立支援教育訓練給付金、高等職業訓練給付金等事業など、シングルマザーの就労を支援するための政策・制度はあるにはある。ただ、シングルマザーの8割以上は就労している、けれどシングルマザーの就労収入は平均200万円にとどまっているのである(厚生労働省の平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告より)。

 厚生労働省が発表した「平成28年賃金構造基本統計調査」によると、月額賃金の平均は男性335,200円、女性244,600 円。女性の賃金は過去最高、男女間賃金格差は過去最小だったものの、依然として女性は男性の7割程度の賃金しか得ていない。実際に出回っている求人情報を見ても、男女の賃金格差は歴然としている。

 シングルマザーの貧困率が高い(なぜ女性はシングルマザーになると貧困状態に陥りやすいのか)背景には、そもそも女性の賃金が低く設定されていること、妊娠・出産後にそれまでの職場で仕事を続けられない場合が少なくないことなどがある。もちろん有能であったり効率的な働き方を実現できていたり、寝る間も惜しんで働いていたりで、シングルでも上記試算より多く稼いでいる母親はいるだろう。しかし前述のようにシングルマザーの就労収入は平均200万円となっているわけで、ひとりで子供を養育しながら「健康で文化的な最低限度の生活」を営むだけの収入を得ることは、多くの人にとって困難だ。根本的な問題から目を背けてはいけない。

中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

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