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有働由美子アナをハッとさせた篠田桃紅さん・104歳の恋愛、結婚、幸福観

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 「若者の恋愛離れ」「非婚社会」「官製婚活」などと聞くと、心がざわつきがちだ。規範づけられた恋愛結婚というものに乗れない人にとっては、恋愛や結婚のハードルは高い。そもそも恋愛観も恋愛のやりかたももっと自由でいいし、結婚(というか婚姻生活)のありようだって夫婦ごとに色々でいいはずだ。しかし、ある本を読んで、そんなモヤモヤに、ヒントをもらったような気がした。

 篠田桃紅(しのだ・とうこう)さん、104歳、1913年(大正2)生まれ、現役美術家である。父の「必ず結婚するように」という遺言に背き独身を貫いた桃紅さんは、195643歳で単身渡米、ニューヨークで水墨の抽象画が高く評価された。現在も1人暮らしをしながら創作活動を行っている。

 2014年に出版された桃紅さんの自伝『百歳の力』(集英社新書)には、幼少期のエピソードや、美術家として身を立てるまでの経緯などが綴られているのだが、戦前~戦中~戦後という激動かつ女性にこの上なく不自由だったであろう時代を、可能な限り自由に個人として生きようとする桃紅さんの姿はどこまでも清々しい。パワフルで逞しいのだが、たとえば“女だてらに”“男まさり”と形容されるようなものではなく、どこまでも軽やかでしなやかな生き方だと思ったのだ。その生き様に圧倒されるより、読んでいて心地よさが残った。

『人間は、個人というものをまず立てて、それからみんなで考えて、お互いに一緒にやるべきときはやったほうがいいし、個人としてやるべきことは個人がやる。合理主義的なやり方がいいですね』

 このような個人を尊重する価値観は、私にとっては耳障りが良い。一方で協調性を何よりも重んじる価値観の人には不愉快に感じたりもするのだろうが。

 5歳の頃から父に書の手ほどきを受けていた桃紅さんは、子供の頃から何となく社会への違和感を持っていた。小学校高学年になると『自分の考えで生きていきたいけど、それは「わがままな子」だって言われちゃうんだ』と気づき、女学校時代には『うんとひだの細かいスカート』を履いていることで先生に叱られた。いつの時代でもこういうことがあるものだ。社会に対する違和感をはっきり悟ったのは縁談の話が出るころで、桃紅さんは『くじびきみたいな結婚』から逃れるため、1人で暮らしていけるようになろうと書道を教え始め、やがて一軒家を借りる。年頃になれば結婚することが「普通」で「常識」とされていた時代、世間からの風当たりは弱くなかったのではないかと思ったが、そういった記述はほとんど見当たらず、むしろ『結婚してよその家に依って生きることが、ただ怖かった』という。

 桃紅さんが『ほんとうに解放された』と感じたのは、戦後だった。『ただ字を書いているというのが、つまらなくなった』『自分が感じるものを、目に見えるものにしたい』という思いから墨で抽象画を描くようになり、『自分で好きなものを描いて、好きなように発表できるようになった』。桃紅さんの作品は外国人に人気だった。アメリカで作品を出さないかと招待を受けた桃紅さんは43歳で渡米。当時を振り返りながら桃紅さんが次のように記している箇所が印象に強く残った。

『あの時代、よくもまあ、単身でアメリカへと、いまでも少し驚かれますけど、私は人生というものを、トシで決めたことはないです』

『年甲斐もなくとか、いいトシをしてとか、よく言いますね。そもそも、トシというのは、一体、いつからが、いいトシなんでしょう。いいトシなんだから、ちょっとそれはやめておいたほうがって、トシがものごとを判断する材料になっている』

 私自身、幼少期から現在に至るまで、「若いうちに○○しておきなよ」という言葉を繰り返しかけられてきた。若い頃にしかできないことはいっぱいある、若い時だけだよたくさん遊べるのは、今が一番いい時だと……などなど。そんなこと言われても、18歳までは自分で生活環境を選ぶことだって難しいのに、とうんざりだったのだが。そもそも「年齢」は不可逆だ。物事の判断基準として、元に戻ることなどありえない年齢が大きなウエイトを占めるような世の中は、窮屈で息苦しく、プレッシャーも強い。

 1214日放送の『あさイチ』(NHK系)で、桃紅さんへのインタビューが放送されていた。自身も独身である有働由美子アナウンサーから、(結婚や出産をしなかったことについて)寂しさを感じる瞬間はないのかを訪ねられ「人がいれば寂しくないなんてことはあり得ないですよ」「すべてが共感しあえるなんて、あり得っこないのよ。人間は絶対独りですよ。どんないい人と一緒にいても」「人間は何が一番いいか、いまだにわからない」と語る桃紅さんは、凛々しかった。

 さらに桃紅さんは「女の人はひとりで生きてたらかわいそう、だなんて、と~んでもないわよね」「うぬぼれているんですよ、日本の男の人って。自分たちは(女性を)幸福にできる力があると思っている」とも話す。有働アナが「私のほうがひきずられていますね。女性は弱くて男性に幸せにしてもらって(という考えを持っている)」と吐露すると、「本当にそういう自信のある人いるかしら。私は誠実な男性だったらいないと思う」「人が人を幸福にし得るなんて、どっちにしろ、女にしろ男にしろ無理ですよ」と、諭した。

 桃紅さんは「自分の生き方は自分にしか通用しない。お手本になんかなれない、私は」とも言った。確かにその通りだ。それでも多様なロールモデルの存在は、私たちを心強くさせる。

中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

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