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20代以上が読む「姫嫁」もの、10代に刺さった『告白予行演習』/『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』著者・嵯峨景子インタビュー

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『告白予行演習』シリーズの成功と、少女小説レーベルの課題

小池 「姫嫁」ものに関して言えば、20代以上の女性のニーズには応えている反面、中高生の女の子に対しての訴求力はあまりなさそうに感じます。若年層を狙った少女小説で、近年の成功例というと何が浮かびますか?

嵯峨 それはやっぱり、KADOKAWAのビーンズ文庫でしょうね。10代の読者を戦略的に取り込みにいったレーベルの筆頭です。

小池 前回も少し出た話ですね。詳しく聞かせてください。

嵯峨 ビーンズ文庫は2013年に方針を代えて、若年層へのアプローチに力を入れ始めました。具体的には、VOCALOIDを題材とした小説や、「小説家になろう」作品の書籍化を手がけるようになったんですね。まず、このボカロ小説がすごく当たりました。特に、「Honey Works」(注釈入れる)が原案を務める『告白予行練習』シリーズは大成功だったと思います。2016年度の学校読書調査を見ると、中学生のランキングには『告白』シリーズが多数ランクインしていますから。

小池 リアルな中高生にちゃんと刺さったということですね。

嵯峨 2010年の『悪ノ娘 黄のクロアテュール』(PHP研究所)や2012年の『カゲロウデイズ』(KCG文庫)がヒットしていたように、ボカロ小説ブームはそれ以前からありました。ビーンズ文庫のボカロ小説への参入は遅く、立場的には後発レーベルです。しかし後発ながら「青春エンタメ」としてのポイントを押さえ、かつ「Honey Works」という、若年層のファンが多いクリエイターユニットをきちんと引っ張ってきたのがうまかったなと。

小池 これは少女小説に限らないですけど、いま若年層の心を掴みたかったら、無料の動画、ゲームといった他のカルチャーの人気コンテンツを引っ張ってくる戦略がかなり重要ですよね……。ネット小説ならともかく、ストレートな書籍の小説ってもう、若年層がお手軽に楽しむコンテンツとはいえないでしょうから。

嵯峨 なので、やっぱりほとんどの少女小説レーベルは縮小方向にあるんです。KADOKAWAは今言ったような青春エンタメ方面に力を入れたり、ビーズログ文庫もゲームのノベライズをはじめ10代読者を意識したビーズログ文庫アリスといった派生レーベルを作るなど若年層向けの模索を続けていますが。

小池 少女小説単体ではムーブメントを起こしづらい、というのは難しい点ですね。「Honey Works」みたいな、爆発的な人気を持つユニットや個人の出現を、ただ待っているだけというわけにはいきませんし。

嵯峨 そうですね。新規読者の獲得については、本当にどこも苦戦していると思います。

一般文芸や児童書などへと活動の場を移した少女小説作家たち

小池 既存の少女小説レーベルは、どこも縮小傾向にあると……。ただこれは、少女が小説を読んでいない、ということとイコールではないんですよね。たとえばライト文芸、児童小説、ネット小説など、「少女が読んでいる小説」自体はあちこちにある。

嵯峨 はい。集英社の場合は、ビーンズ文庫と違って「既存の読者とそのまま寄り添い続ける」という道を選びましたけど、2015年にライト文芸レーベルであるオレンジ文庫を立ち上げて、新たなパッケージングでも頑張っています。

小池 廃刊になってしまった講談社のティーンズハート文庫の場合、同社の児童向けレーベルである青い鳥文庫が人気作家さんたちの受け皿になりましたよね。倉橋燿子さんとか小林美雪さんとか。

嵯峨 小林深雪さんはティーンズハート時代、多作で有名な看板作家でしたね。彼女が今青い鳥文庫で展開している『泣いちゃいそうだよ』シリーズは、累計140万部を突破しているそうで、読書調査でもよく名前を見かけます。

小池 コバルト文庫黄金期の主力だった藤本ひとみさんも、青い鳥文庫やつばさ文庫の方でブイブイ言わせていますしね……。別名義で書いているものもあるし、原案者という立て付けになっているシリーズもありますけど、私は全部本人が書いているに違いないと思っています。だって著者名が藤本ネーミングすぎる!

嵯峨 (笑)。

小池 『KZ』シリーズがまさか20年ぶりに再開するとは思わなかったし、「漫画家マリナ」シリーズの亜種みたいな小説が、やはり20年ぶりに出現するとは思っていませんでした。まあつばさの方は今また止まっちゃってるんですけど……。ともあれ、黄金期の少女小説の蓄えたパワーみたいなものって、実は今けっこう別のジャンルに移動しているんじゃないか、とも思うんです。

嵯峨 ああ、それは言えるでしょうね。たとえば小林さんが最近出された『作家になりたい!』は、小説形式で「小説の書き方」を伝える内容になっていますけど、恋愛小説としてもキャラが立っているし、実用書としても丁寧だしで、啓蒙力のあるいい小説だなと思いました。こういう動向のことは、私も注目しているところです。

小池 富士見L文庫で人気の、『おいしいベランダ』シリーズの竹岡葉月さんもコバルト出身ですよね。あと、須賀しのぶさんもオレンジ文庫で青春小説を書かれているし、『また、桜の国で』が高校生直木賞(※1)に選ばれたりもしていました。少女小説に出自を持つ作家さんのノウハウは、今後もあちこちで発揮されそうだなと思います。

1直木賞の候補作のなかから、全国の参加校の高校生たちが最終候補作を選び、最終的に受賞作を決定するイベント。2014年より開催されている。

■第三回:「少女小説とケータイ小説の違い、10代の虚無感を映すケータイ小説文庫」に続く

嵯峨景子(さが・けいこ)
1979年生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。専門は社会学、文化研究。現在明治学院大学非常勤講師、国際日本文化研究センター共同研究員。単著に『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』(彩流社、2016)、共著に『動員のメディアミックス <創作する大衆>の戦時下・戦後』(思文閣出版、2017)など。

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小池未樹

ライター・漫画家。1987年生。大学卒業後、郷土史本編集、テレビ番組制作、金融会社勤務などを経て、2013年よりライター・編集者としての活動を開始。企画・構成に『百合のリアル』(著・牧村朝子)や『残念な政治家を選ばない技術—選挙リテラシー入門』(著・松田馨)、著書に『同居人の美少女がレズビアンだった件。』『家族が片づけられない』(井上能理子名義)などがある。最近猫が足りない。

twitter:@monokirk

サイト:http://mikipond.sub.jp

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コバルト文庫で辿る少女小説変遷史