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中谷美紀が貫禄の『黒蜥蜴』、美輪明宏のイメージを塗り替える

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中谷美紀と井上芳雄の絡み! チケットぴあ

 劇場へ足を運んだ観客と演じ手だけが共有することができる、その場限りのエンターテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、時に舞台では、ドラマや映画などの映像作品では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。

 映画化や何度も舞台化されている名作でも、新しい演出家やキャストに手によって、まるで別の作品に生まれ変わったかのような新鮮な感動と驚きに出会えることがあります。その一期一会の出会いは、ライブである演劇の醍醐味のひとつ。演者にとっても、戯曲を熟知している観客が多いであろう定番作は、作品への理解や力量をよりシビアに見定められるため、挑戦のしがいがあるものでしょう。

 現在上演中の「黒蜥蜴」は、演劇界隈にとどまらず原作小説ファンも多い、まさにシビアな目にさらされる演目です。主演は、舞台の印象はあまりないであろう中谷美紀。しかし中谷は、本数こそ多くないものの出演すれば軒並み舞台ファンをとりこにする、名舞台女優でもあるのです。

「黒蜥蜴」は、江戸川乱歩の原作を三島由紀夫が晩年に戯曲化した作品で、舞台の初演は1952年。三島と親交の深かった美輪明宏が丸山明宏名義で主演し、三島本人も出演している深作欣二監督の映画版で特に知られています。さまざまなアレンジで上演されており、変わったものでは宝塚歌劇団の花組公演「明智小五郎の事件簿黒蜥蜴」(2007年)や、2016年にはオペラにもなっています。昨年末には、歌舞伎をモチーフにした作風で人気の小劇団「花組芝居」が、白塗りや隈取り姿で演じた公演も魅力的でした。

たたずまいひとつで、説得力を

 今上演の演出を手掛けたのは、ウエストエンドやブロードウェイでも演出しているデヴィット・ルヴォー。1988年に「危険な関係」で初来日して以降、コンスタントに日本でも活躍しており、2016年には歌舞伎俳優の中村七之助が出演した「ETERNAL CHIKAMATSU ―近松門左衛門『心中天網島』より」を演出するなど日本文化にも造詣が深く、「黒蜥蜴」自体は2006年にも行っています。

 世界的宝石商・岩瀬のもとに愛娘・早苗の誘拐の脅迫状が届きます。警護を依頼された私立探偵・明智小五郎と犯人である女賊・黒蜥蜴が、お互いを出し抜き合いながらも、双方の美意識と知性に共感しあい、悲しくも美しく愛を成就させる物語で、岩瀬氏の得意客の緑川夫人こと黒蜥蜴役はもちろん中谷。明智は、「ミュージカル界のプリンス」と称される人気ミュージカル俳優で、昨年のNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」にも出演している井上芳雄が演じています。

「黒蜥蜴」は、原作の江戸川乱歩の耽美主義はそのままに、三島作品の特徴ともいえる死のイメージそのもののエロティシズムの強調が魅力の作品です。ルヴォーも制作発表などでそのエロティシズムを目指すと述べていましたが、実際に舞台を観て強く印象に残ったのは、黒蜥蜴と明智が恋に落ちる過程やその心情の描き方の丁寧さ。黒蜥蜴がいかにカリスマ性に溢れた絶世の美女であるかを、その内心に抱えた孤独の深さとともに、中谷は佇まいひとつで説得力を与えていました。

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フィナンシェ西沢

新聞記者、雑誌編集者を経て、現在はお気楽な腰掛け派遣OL兼フリーライター。映画と舞台のパンフレット収集が唯一の趣味。

twitter:@westzawa1121

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