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絵本作家のぶみが再生産する母性神話、「あたしおかあさんだから」炎上で考える

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のぶみ『ママがおばけになっちゃった』

のぶみ『ママがおばけになっちゃった』

 人気絵本作家・のぶみが作詞を手掛け、『おかあさんといっしょ』(NHK Eテレ)で11代目うたのお兄さんを務めた歌手・横山だいすけが歌う曲「あたしおかあさんだから」の歌詞が炎上している。母親の自己犠牲を美化し、母子双方に対する呪いとして機能してしまう歌詞ではないか、という批判だ。“だいすけお兄さんが歌う”点もまたショッキングで、炎上を誘発した側面があるだろう。ハッシュタグ「#あたしおかあさんだけど」を付けて、母親だがこんな風に生きている(≠自己犠牲)と主張するツイートも相次いでいる。

 「あたしおかあさんだから」は、育児中の女性が、母親になる前の自分および母親になってからの自分のことを、我が子に語りかけるような歌詞となっており、“おかあさんへの応援ソング”。母親になる前は一人暮らしでおしゃれを楽しんだり外で働いたり自分中心にやってきたけれど、母親になってからは爪も服もテレビも食事も子ども中心、仕事はパート、眠くても5時に起きるし、新幹線の名前も覚える。だって「あたしおかあさんだから」。大好きなおかずを分けるのも苦手な料理を頑張れるのも怒れるのも「あたしおかあさんだから」「いいおかあさんでいようって頑張るの」。夜遊びやライブを全部やめたけど「あたしおかあさんになれてよかった」。ポップな歌詞でありながら、次から次へと母の我が子への献身と自己犠牲精神が語られていく。

 のぶみは25日付のFacebookで、「あたしおかあさんだから」の歌詞は『おかあさんたち』に取材をして書いたものであり、「ママおつかれさまの応援歌」であると説明している。母親のリアルを描いて応援するといえば、たとえば昨年炎上したユニ・チャームのCMも同様で、当事者が後から振り返って「あれで良かった」と自己肯定するならばともかく、困難の渦中に「その時間は宝物なんだよ」と言葉をかけられても何も緩和されないどころか神経を逆撫でされ追い詰められるものだ。

 「あたしおかあさんだから」を聴いて共感したり、肯定されていると感じて涙する「おかあさん」は勿論大勢いるはずで、その人たちを否定するわけではない。のぶみの取材を受けた母親たちの声によって生み出されたのが「あたしおかあさんだから」の歌詞なのであれば、「あたしおかあさんだから」と自分に言い聞かせ、子供を優先し頑張っている母親たちがそこには確かにいるのだ。今回の歌詞への異議を唱える人々も、誰もそうした母親たちを批判する意図ではないと思う。ただ、母親が「おかあさんだから」自己犠牲を余儀なくされる子育て界隈の現状を見たときに、それは賛美するものではなくて、問題視されるべきものではないだろうか。

 『ママがおばけになっちゃった!』(講談社)などの“ママおば”シリーズにしろ、『このママにきーめた!』(サンマーク出版)にしろ、のぶみは“母と子の絆”を強固に捉えている。その特徴は、笑えて泣けるエンタメ絵本だ。しかし「母と子」のつながりを神聖視しすぎるあまり、父は蚊帳の外になり、おまけに絵本でありながら「子」の視点はほとんどない。のぶみは、「おかあさんだから頑張る」ことに、疑問はないのだ。

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中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

バナナ&ストロベリー

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