ちなみに昔は原因もはっきりとはわかっていなかったので、進行してから発見されることが多かったのだとか。情報がその時代からアップデートされていない人がいれば、〈子宮頸がんの手前と診察されたけど、自然治癒した〉という話が、まるで奇跡のように感じられてしまうかもしれません。
※「自然消滅がよくある」=「予防をしなくていい」という意味ではないのでご注意ください。参考記事「子宮頸がんになったらどのような治療をするかご存じですか? 子宮頸がん検診とHPVワクチンの目的は違います」
タビトラ:ですから経過観察をしている間に、その人が何かしらの健康的な努力をして、「私はこれをしたから消えた」という発言をすることは自由にできますよね。ただし異形成という、がんの前段階からの自然治癒ではなく〈頸がんが治癒〉と謳っているサイトがあるのであれば、誇大広告などの違法性があると言えます。
以前BuzzFeedでも書いたのですが、皆と同じことをしていて問題にぶつかった(病気になった)のだから、普通じゃないことをしなくてはならないと思ってしまうのかもしれません。また、メディアなどに〈今の生活が異常だ〉と刷り込まれてしまうことも、特別なことをしたくなる原因のひとつでしょう。
呪いが盲信を生む構図
現代女性は過緊張、内臓の冷えはこんなに怖い、表面には表れずとも環境汚染で体内はボロボロ老化が加速etc. 呪い級の「脅し」は、日々さまざまな記事に出現していますので、自然治癒を謳う〈布教者〉たち自身が、おかしな〈お手当〉を盲信したのも、ある意味致し方ないのかなとすら思えてきます。
タビトラ:だからといって、好き勝手に根拠のない希望を持たせていいことにはなりませんけどね。その人はたまたま子宮筋腫や子宮頸がんの初期異形成が自然消滅したかもしれませんが、他の人が同じことをして消えるとは限りません。しかもそうしているうちに、病気が進行してしまう可能性もありますから。
最後は、冒頭でも紹介した、『ちつのトリセツ』の自然治癒エピソードです。当連載で取り上げた際には、「あくまで自己判断だろ~? とツッコませていただきましたが、タビトラ先生の指摘はそれ以上。なんと、ただの「いぼ痔」である可能性が高い、と言うのです。い、いぼ痔~!
タビトラ:直腸瘤は、要手術レベルになることはあまりありません。直接診ていませんから何とも言えませんが、単なるいぼ痔ではないでしょうか。膣ケアと直腸瘤は関係ないと思いますし。いぼ痔の自然治癒は、よくあることです。たとえば妊娠中に多くの妊婦がいぼ痔を経験しますが、大きくなった子宮で血流が圧迫されることで起こるので、産まれたら自然に治ります。運動であれば骨盤底筋を鍛えることで、ある程度改善する可能性はあるでしょう。
「治療」とは何を指すのか
一応『ちつのトリセツ』では、骨盤底筋を鍛える運動もセルフケアのひとつとして紹介されていますが、直腸瘤のエピソードについては「スーパー便秘(直腸瘤)は、初期であれば手術をしなくてもオイルケア入浴と会陰マッサージで治る! と確信しています」と語られていました。
タビトラ:治療というのは、そもそも手術だけを指すものではなく、ご自身で行なっているものも治療になります。生活習慣病の人が食べ物に気をつけることも治療の一環。「自然治癒」派は、薬や手術だけを治療だと勘違いしている可能性もありますね。ただし運動と同じで、おまたケアだの子宮の声だの「やっていて楽しい」と感じる分には、大いに結構です。逆に「これをしちゃいけない」という強迫観念のほうが問題かもしれません。それでも医師の立場から健康上やらないほうがいいと言えることは、避妊せず複数の人とセックスをしたり、喫煙や過剰な飲酒をしたりすることくらいでしょうか。