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オバマとミシェル肖像画の「謎解き」~低俗な中傷にも品位を保ち続けた夫妻

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バラク・オバマ大統領肖像画 画:Kehind Wiley http://www.kehindewiley.com/
ミシェル・オバマ・ファーストレディ肖像画 画:Amy Sherald http://www.amysherald.com/

 2月中旬、アメリカはオバマ夫妻の肖像画にまつわる「謎解き」に躍起になった。一般人もメディアも絵に隠された「秘密のメッセージ」を読み解こうとし、複雑な分析記事やSNSへのコメントが玉石混合状態で飛び交った。

 まずは2枚の肖像画をご覧いただきたい。

 いずれも斬新かつモダンな作品だが、歴代大統領の肖像画史上、これほどの騒動は初めてではないだろうか。オバマ夫妻は引退してなお、アメリカ社会と歴史に一石を投じ続ける。

オバマ夫妻が名指したふたりの画家

 2月12日、スミソニアン博物館のナショナル・ポートレイト・ギャラリーに展示されるバラク・オバマ前大統領と、ミシェル・オバマ前ファーストレディの肖像画が公開された。

 アメリカの伝統として、歴代大統領の肖像画はホワイトハウスとスミソニアン博物館にそれぞれ異なる作品が収蔵される。大統領任期の後期に画家が選定されて制作に取り掛かり、引退後に公開される。アメリカという国で大統領がいかに大きな存在であるかを物語る伝統だ。

 話はややずれるが、現役の、または歴代の大統領について子供に教える本や絵本も出版されている。私も3歳児くらいが対象の絵本(各大統領がかわいい二頭身のイラストで描かれている)と、中学生あたりが対象の、各大統領のバイオや業績が詳しく書かれた本を購入して持っている。これもやはりアメリカにおける大統領の重要性ゆえだ。

 それでも肖像画がこれほどまでの話題になろうとは。理由は画風の斬新さだけでなく、背後にある人種問題だ。

 オバマ大統領の肖像画はキハインド・ワイリーが描いた。米国美術界ではすでに名の知られた画家だ。ワイリーはヒップホップ・ファッションのアフリカン・アメリカンの若者を、古いイギリスの壁紙の柄を背景に描くことで知られる。米国と英国。現代と伝統。ストリートと上流階級。まさにミスマッチの極地だが、そこにはワイリーにしか描けない世界が広がる。精緻に描かれた壁紙の花柄と、見る者を引きつけてやまない黒人青年の眼差し。さらにはナポレオンを描いた古い名画を、黒人男性に置き換えて描くことすらしている。つまりワイリーは、ストリートの黒人青年をノーブル(高貴)に描くことに挑戦し続けているのだ。

 ミシェルを描いたエイミー・シェラルドは今回の肖像画までワイリーほどの知名度はなく、したがって大抜擢だったと言える。シェラルドは出身地の米国南部から東部のボルティモアに移り、インナーシティと呼ばれる貧困都市部を目の当たりにしたことから、以後、アフリカン・アメリカンのみを描き続けている。精緻に描き込むワイリーとは対象的な単色の背景にグレーの肌とカラフルな衣装でこちらをまっすぐに見つめる眼差しの人物を描く。

こんな大統領の肖像画は初めて!

 ワイリーとシェラルドはまったく異なる画風を持つが、どちらも伝統的な大統領の肖像画とはまるで異なるタッチだ。それが見る者にショックを与えた。

 ワイリーはいつもの古い壁紙の代わりに、緑の葉でオバマ大統領の背後を埋め尽くした。いくつか描かれた花は、大統領の父の国ケニアのアフリカン・ブルー・リリー、大統領の出生地ハワイのジャスミン、政治家としてのスタートを切り、今ではオバマ家の地元となっているシカゴのキクだ。

 大統領は微笑んでいない。何かを思索する深い眼差しだ。大統領時代からトレードマークのほがらかな笑顔の背後で常に思考思索をおこなうオバマの側面を描いたのだ。

 シェラルドが描いたミシェルは、一部で「あまり似ていない」と評された。しかしシェラルドが描いたのはミシェルその人であり、かつミシェルが体現する「すべての黒人女性」ではないだろうか。奴隷の子孫として生まれ、貧困から勉学によって身を起こし、ファーストレディとなったミシェル。ミシェルはある演説で「ホワイトハウスは奴隷の手によって建てられました」と語ったことがある。初期の大統領には奴隷主だった者がいる。現在の大統領は人種差別主義者だ。こうした歴史と現状を考えると、シェラルドによるミシェルの肖像画はアメリカのすべての黒人女性の未来の反映なのだ。

 ただし、ミシェルの「有名な腕」はしっかりと描かれ、いかにもミシェル好みのドレスの存在感も大きい。ちなみにドレスはMillyというブランドのオーナー・デザイナー、ミシェル・スミスのデザインによる。

 余談になるが、シェラルドは31歳で心臓病が発覚し、39歳で心臓移植をおこなっている。前後して家族に不幸が続いたこともあり、数年間、筆を置いた時期がある。再度描き始めるも、数年前まではウェイトレスをして生活費を得ていたと言う。しかし45歳の今、これ以上はないと思える “モデル” に恵まれ、画家として世界的な名声を得た。夢と意志さえあれば、どんな障壁も乗り越えられると証明したのだ。

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堂本かおる

ニューヨーク在住のフリーランスライター。米国およびNYのブラックカルチャー、マイノリティ文化、移民、教育、犯罪など社会事情専門。

サイト:http://www.nybct.com/

ブログ:ハーレム・ジャーナル

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