「半陰陽・両性具有」と、DSDs(体の性の様々な発達:性分化疾患/インターセックス)
用語について詳しく書きだすと2万字を超えそうな勢いですので、ここでは、すでに20年近く前から「Hermaphrodite:ハーマフロダイト・ヘルマフロディーテ」、日本語で「半陰陽」や「両性具有」など「男でも女でもない・男女以外の性」を意味する表現が、医学的には「性分化疾患」に変更され、海外の人権運動でもかなり以前から「スティグマ的で誤解を与えるもの」とされていることを指摘しておきます。
先程も書いた通り、DSDs(体の性の様々な発達:性分化疾患/インターセックス)とは、女性・男性の外性器が一般的平均的だとされる形状や大きさと異なる体の状態や、女性の生まれつきの子宮の有無など、広く様々な体の状態が含まれる包括的概念です。それを「男女以外の性別」とは定義できないということもあります。
また、たとえば卵巣や精巣などの性腺に「本当の性別」があるという19世紀以降の厳格に過ぎるビクトリア朝的固定観念を元に、女性に精巣があるなんて聞くと、すぐさま「両性具有」みたいなものを思い浮かべる人もいるかもしれません。
ですが、DSDsの領域では性腺と言っても内臓器官の一部に過ぎず、現実にはヒトの「両性具有・半陰陽」(男性女性の完全両方セット)というのは起こり得ないものだという生物学的事実もあります。「両性具有・半陰陽」といった「男でも女でもない性」というのは、基本的には神話やファンタジーの世界の話なのです(このような古い強迫的な社会生物学的固定観念については、また改めて記事を書こうと思っています)。
今でもメディアでは、DSDsを持つ人々の中でも自分を「男でも女でもない」とする人がセンセーショナルに取り上げられがちです。ですがそれ以上に、現実の大多数の当事者や家族のみなさんは自分が女性・男性であることに微塵の疑いを持ったこともなく、むしろ完全な女性・男性と見てもらえないのではないかと、誤解や偏見に怯えて耐えて生きているという事実から、「男でも女でもない性」を意味する言葉は侮蔑的で誤解を与えるものとして使われなくなっているのです。子宮を失った女性や、ペニスのサイズに悩んでいる男性に、「男でも女でもない」と励まそうとする人の場面を思い浮かべてみてください。もちろん相手の心を傷つけることでしょう(詳しくは世界で初めて同性婚を合法化した人権先進国オランダの公的な調査報告書を御覧ください。日本語訳をしています)。
病や障害に投影されるスティグマ(聖痕)の問題
この用語の問題は、LGBTの皆さんの歴史・文脈で言えば「オカマ・ホモ」といった言葉を使うSOGIハラに近いかもしれません。ですが、「Hermaphrodite(両性具有・半陰陽)」の問題は実は更に深いものです。これは広辞苑さんだけではなく、今でも社会全体に根深く残る問題で、以前ダウン症候群が「蒙古人痴呆症」と呼ばれていたことや、デビッド・リンチの映画『エレファント・マン』など、ある種の病いや障害・違いに社会的に投影される神秘的・悪魔的イメージ(スティグマ化・神話化・聖痕付与化)の話が関係してきます。大きくは優生思想の問題にもつながるでしょう。
とにかく、さすがにもう「Hermaphroditism(半陰陽・両性具有)」という用語は、学術的には、蝶や魚、それこそ家畜などの人間以外の生物にしか使われなくなっています。
日本では「インター”セックス”」という用語は「性行為」を連想させるため、DSDsを持ちかつLGBTQ等性的マイノリティの人々以外には,大多数の当事者家族には好まれていません。まだ小さなお子さんのご家族もいらっしゃいます。また脱医学化の議論は日本の当事者家族のみなさんからはそれほど出ていないため(それよりも「より良い医療の実現」の方がよほど問題になっています)、人間を対象には、「性分化疾患:染色体、性腺、もしくは解剖学的に体の性の発達が先天的に非定型的である状態」の項目を増やし、「半陰陽」の項目は、古語と人間以外の生物を対象とした用語とする方がいいと思います。
確かに単純な間違いの訂正というレベルではないため、難しいことは承知しています。ですが当事者家族のみなさんの中には、診断のショック後しばらくしてから、インターネットや家にある辞書などで調べて、更にショックを受けたという経験をした人が少なくありません。どうか岩波書店の担当者の方に、多くの当事者家族のみなさんの挙げられない声が届くことを祈ります!
(ネクスDSDジャパン ヨ・ヘイル)
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