開始してから数日で1万を超える署名が集まった。驚きよりも納得の方が大きかった。詩織さんの件で、何かやりたいけど何をしたらいいのか分からないという人たちはたくさんいるだろうという確信があったのだ。安心して声をあげられる場所、方法があれば本当はみんな声をあげたかったんだなと感じた。
署名に対する反応のほとんどは、詩織さんへの感謝・応援・連帯を示すものがほとんどだった。コメント欄で、自身が過去に経験した被害について語る声もあった。
少なくなかったのが、「私は男ですが、この事件についてとても憤慨しております」というような「私は男ですが〜」で始まるコメント。まだまだ性暴力の問題が「女性問題」だと考えられていることを痛感した。性暴力の被害者には男性もいる。自分自身じゃなくても、自分の大切な人、パートナーや兄弟、子供、友達が被害に遭うかもしれない。それに残念なことだが、性暴力事件の加害者は多くが男性だ。性暴力は「女性問題」ではなく、みなで考えなければいけない「社会問題」なのだ。
「詩織さんへ渡す署名では意味がない」という声もいくつかいただいた。おそらく、性暴力の問題について真剣に考えている人ほど、そう感じたのではないかと思う。何かを具体的に変えていくためには、制度や法律を変えていかなければいけない。だから、集めた声を詩織さんに渡すのでは何も変わらないじゃないかと。
私はそうではないと思う。もちろん、最終的には制度や法律を変えていかなければいけない。しかし、社会の認識を変えていくこともそれと同じくらいとても重要なことだ。いくら法律が変わっても、社会のみんなの認識が変わらなければ、文化や、私たちの日常生活はなかなか変わらない。それに、社会の認識を変え、「性暴力って絶対許しちゃいけないよね」という雰囲気作りをすることができれば、性暴力の予防や、被害に遭った人を救うことにもつながるはずだ。
また、社会のみんなの認識が変わっていけば制度や法律を変える際にも追い風が吹く。気がついている人たちが声をあげ連帯し社会の認識を変えていくことは、制度や法律を変えるための下準備でもあるのだ。それが私の性格に合ったやり方だということもある。自分の能力を最大限に活かせるであろう、自分に合ったやり方でやるのがいいだろうと考えたのだ。
この署名を開始してから数カ月が経ち、いよいよ詩織さんに署名を提出しようという段階になった。また、ネクストアクションとして、ハリウッドで立ち上がった『Time’s Up』や基金の設立のような変革を起こせるプロジェクトも立ち上げたいとも考えていた。そんな私の思いを知ったchange.orgの武村若葉さんが、ちょうど同じタイミングで詩織さんへの応援や性暴力について、なんらかのアクションを起こそうと考えていた女性ジャーナリストの会と私をつないでくれた。そして、詩織さんをはじめとした発起人となるメンバーが集まり、#WeToo Japan発足へと至ったのだ。現在すでに、小島慶子さんをはじめとしてさまざまな著名人の方から賛同の声をいただいている。
3月3日(土)に都内で開催する『#WeToo Japan』スタート記念イベントのテーマは、『声をあげた人を一人にしないために、今自分ができること』。ツテや人脈のなかった私でも、詩織さんの会見を見て抱いた怒りや悔しさの勢いのまま始めてみたら、数万の署名を集めること、詩織さんと共にプロジェクトを立ち上げることができた。それぞれが、自分に合ったやり方で、あまり無理をせずに「今、自分ができること」を少しずつでもいいから、息長くやっていくこと。それこそが、私たちの「これから」を変えていくための近道なのではないかと思う。
また語弊を恐れずに言えば、声をあげるのは”軽い気持ち”でもいいのだと思う。例えば、自分のパートナーや自分の兄弟、子供、友達などがセクハラ、パワハラ、SOGIハラ、性暴力で苦しんでいたら……と考えたときに、少しでも「それはいやだな」と思うのであれば、もうそれだけで声をあげる充分な理由だと思う。
#WeToo Japanは、3月3日(土)に都内で行われるスタート記念イベント『声をあげた人を一人にしないために、今自分ができること』を皮切りに、今後、シンポジウムや署名、情報発信などを通じて、こうした問題に関心や意識を持ち、行動してもらうきっかけ作りをしていく予定だ。
(もにか)
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