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女性専用車両への抗議トラブル、「痴漢は多くの男性にとって無関係」の認識が背景に?

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『モーニングショー』(テレビ朝日系)HPより

 227日、『モーニングショー』(テレビ朝日系)が、女性専用車両についての抗議問題を取り上げていた。今月16日に東京メトロ千代田線の遅延発生原因にもなった、女性専用車両に反対する団体による抗議の問題だ。

 16日の件についてはwezzyでも取り上げた(女性専用車両に反対する男性たちの主張への、裁判所の判断)。同団体は以前よりこうした活動を行っており、24日には、渋谷駅モヤイ像前で、この団体とカウンターが衝突するという出来事も起きていた。

 『モーニングショー』は、この団体の主張を「男性が女性専用車両に乗るのは違法ではない」「トラブルを起こす意図はない。1000回以上乗ったが、遅延したのは数回」「電車が遅延するのは駅員が降ろそうとするから。悪いのは鉄道会社」「女性専用車両に男性が乗れることを広く伝えたい」とまとめ、鉄道会社側(JR東日本・東京メトロ)が「女性専用車両に男性が乗ってはいけないという制限はつけていない。マナーの一つとして協力をお願いしている」と考えていることを伝えた上で、wezzy記事でも紹介した、「女性専用車両」の違法性を否定した判例を紹介する。

 しかし同放送によって痛感したのは、女性専用車両が男性差別に当たらず違法性はないという判例を踏まえた上でもまだ、賛否両論ある“問題”として回収されてしまう、ということだ。番組コメンテーターたちは、女性専用車両に反対する団体の主張には一部であれ肯定的であり、<でも、やり方が悪いよね>と咎めるにとどまった。

 例えばコメンテーターの青木理氏は「(団体のいう)男性差別だって(主張は)理屈としてはあるんだけど、わざわざトラブルを起こさなくてもいい」、MCの羽鳥慎一は「問題提起は大事。乗り込む男の人たちの言うこともわからなくもないけれど、一緒に乗った人たちが遅刻したらたまったもんじゃない」と述べた。

 また弁護士の菅野朋子氏は「あくまで痴漢をする加害者が悪い。(女性専用車両だと)男性対女性になってしまう。ほとんどの人(=この場合、男性)は(痴漢を)しない。その人(男性)達を敵にしてしまう問題がある」と「女性専用車両」の問題を指摘した上で、「女性専用車両で痴漢を防止できるのかというと難しい。(前述の)裁判も、女性が快適に乗れるようにすることが(女性専用車両の)目的であって、痴漢を減らせるのかは疑問。ひとつの手段ではあるが根本的な手段になってはいけない。防犯カメラや、痴漢したくなくてもしてしまう人のケア、満員電車でないと痴漢できないので満員電車をどうにかしなければいけない」といった意見を述べる。

 その後、痴漢問題について語られる際に必ずといっていいほど指摘される痴漢冤罪に話は切り替わる。

菅野「痴漢冤罪を恐れている男性もいて、男性専用車両を作ってくれという人もいる。痴漢冤罪は多いから」
玉川徹「男性専用車両があってもいいかもしれない。ぼくも怖いからね。両手をこうやって(両手を上げるジェスチャー)ね」
羽鳥「万歳して乗っている人いっぱいいる」
青木「ぼくも基本的にお酒飲んだら乗らない」

 前述の女性専用車両の違法性を否定する判決は、「痴漢犯罪の被害を受けるおそれのある女性の乗客に対し、少しでも安心、快適な通勤通学環境等を提供するために行われていると解せられ、これは目的において正当というべきである」というものであり、菅野氏の言うとおり、痴漢防止の効果を認めるものではない。女性専用車両によって痴漢が完全に防止できるものではなく、防犯カメラの導入や満員電車の解消など、他の手法を取ることも必要になるだろう。また、痴漢を依存症として捉え、痴漢を減らすために加害者をケアするアプローチも唱えられているのは事実だ。

 一方、「満員電車でなければ痴漢できない」というのは事実誤認だ。確かに乗客同士が密着する空間で痴漢は発生しやすいかもしれないが、満員電車でなくガラガラに空いた車両でも痴漢は発生する。女性専用車両の導入によって痴漢が完全に防止できないのと同じように、満員電車の解消によってあらゆる痴漢が完全に防止できるわけではない。

 また、青木氏と羽鳥氏は、「同団体の手法に問題がある」と考えているように見える。もちろん青木氏は「同団体の理屈も通ってはいるけれど」と留保しており、羽鳥氏に比べると同団体に距離を置いているのだが、青木氏、羽鳥氏にしろ、あるいは玉川氏にしろ、痴漢冤罪の話題になった途端に饒舌になった様子を見ていると、痴漢が性犯罪であり、性暴力であることをどこまで認識できているのか疑問を抱いてしまう。痴漢冤罪は男性である自分たちにとって大事な問題だが、痴漢そのものは関係がない、という意識でいるということはないだろうか。「女性専用車両が男性差別かどうか」を考えるためには、まず「女性専用車両」が導入されるきっかけとなった痴漢の問題を考えなければならないはずだ。

 菅野氏は「女性専用車両は、男性対女性にしてしまう」と指摘していたが、お決まりの痴漢冤罪への盛り上がり方を見ていると、女性専用車両があろうがなかろうが、痴漢の問題は、「痴漢被害者(多くは女性)VS痴漢冤罪恐怖者(多くは男性)」という構図に収まってしまうように感じられてならない。問題は、女性専用車両の導入が、加害者でない男性を敵にまわしてしまうことにあるのではなく、痴漢問題に対して“加害者でない男性”が向き合わないことにあるのではないだろうか。

 痴漢行為などしたことも、しようと思ったこともないという多くの男性も、電車を利用する以上は(そして冤罪が怖いと考えているならなおのこと)、痴漢問題に無関係な態度ではいられないはずである。痴漢によって生じる様々なトラブルが、加害者でない男性にも迷惑をかけていることは明らかであり、「自分には関係のない、女性の問題」と捉えているとしたらそれは誤りなのだ。そして、痴漢問題は女性の問題――つまり女性が解決すべき問題なのではなく、社会が手を取り合わなければ解決しようがないことも自明である。

 MCの宇賀なつみ氏は、学生時代は毎日、女性専用車両に乗っていたという。「周りでも一度も痴漢に遭ったことがない人なんて10人に1人。そういう人たちが安心して乗れるってだけでもありがたい」と言っていた。本来、ただ目的地に移動するための交通機関で不安と緊張を強いられること自体がおかしいはずだ。女性専用車両を「ありがたい」と思わせるような社会は、公共の場に危険が蔓延していることになり、誰にとっても望ましくない。

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