社会

視聴率激減でも膿を出し切る!〜 #MeToo /社会問題一色の第90回アカデミー賞

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ハリウッドの黒人パワー

 ラッパーのコモンとR&Bシンガーのアンドラ・デイは、現在、各種社会運動のテーマ・ソングとなっている「Stand Up for Something」(何かのために立ち上がれ)をパフォーマンスした。

 冒頭、コモンは2月14日にフロリダ州で起きた史上最悪の学校乱射事件と、銃規制に強行に反対するNRA(全米ライフル協会)について語り、またトランプに「便所」と呼ばれたアフリカとハイチ、トランプが甚大なハリケーン被害後も放置している米領プエルトリコの名を挙げた(トランプ「ハイチとアフリカは便所」発言〜「小学4年生」レベルの人種差別主義者)。

 ステージには#MeTooムーブメントの創始者であるタラナ・バーク、ブラック・ライブズ・マターの共同創始者にしてクイア活動家のパトリッセ・クロース、爆撃下のシリアからツイートを続けた8歳のバナ・アラベド、ハリケーン後のプエルトリコに食事の配給を続けたホセ・アンドレス、サンディフック小学校乱射事件の被害者の母親のニコール・ホックリーなど多くの社会活動家が招かれ、佇んだ。

 今年のアカデミー賞の大きな話題のひとつは、昨年の大ヒット作『ゲット・アウト』の監督、ジョーダン・ピールが最優秀作品賞、同監督賞、同オリジナル脚本賞の3つにノミネートされたことだった。黒人監督としては初の快挙である。

 ピールは最優秀オリジナル脚本賞を受賞したが、過去に同賞にノミネートされた黒人脚本家はピールを含めて4人、受賞したのはピールが初だ。先の女性監督グレタ・ガーウィグの件と合わせ、ハリウッドがいかに白人男性中心主義であったかが分かる事象だ。

 しかし、昨年はゲイの黒人を少年期から成人期まで描いた繊細な作品『ムーンライト』が最優秀作品賞を受賞した。NASAの黒人女性数学者3人を描いた『ドリーム』も最優秀作品にノミネートされた。今年はピール監督の『ゲット・アウト』の複数ノミネート。そして今、劇場公開中の黒人スーパーヒーロー・アクション『ブラック・パンサー』は記録的な大ヒットとなっている。

 スーパーヒーローものがアカデミー賞の対象にならないことはよく知られており、今回も稀な女性スーパーヒーローものとして大ヒットした『ワンダーウーマン』はまったくノミネートされなかった。その伝統が踏襲されるなら、来年のアカデミー賞に『ブラック・パンサー』はノミネートされないことになる。しかし、同作主演のチャドウィック・ボーズマン、パートナー役のルピタ・ニョンゴ、主役を喰うほどの存在感を見せた女戦士役のダナイ・グリラ(『ウォーキング・デッド』のミショーン役)は今年のアカデミー賞に招待されていた。

 来年、ノミネートされるか否かとは別に、ニョンゴとグリラの存在には特別な意味がある。かつてハリウッドで活躍できた数少ない黒人女優は、そのほとんどがライトスキン(肌の色が薄い)だった。2001年に『モンスター・ボール』によって黒人女優として初めて最優秀女優賞を獲得したハル・ベリーもそうだ。

 しかし、2011年に『ヘルプ 心がつなぐストーリー』でダークスキン(肌の色が濃い)の実力派女優、ヴァイオラ・デイヴィスが最優秀女優賞にノミネートされ、以後、事態は変化しつつある。2013年、やはりダークスキンのルピタ・ニョンゴが彗星のように現れ、『それでも夜は明ける』によって最優秀助演女優賞を獲得した。ニョンゴは黒人性を非常に重要視し、髪を人工的なストレートにはせず、ナチュラル・ヘアを貫いている。そのニョンゴと、ジンバブエ系アメリカ人でダークスキンのダナイ・グリラがアカデミー賞のレッドカーペットを闊歩し、ファッションも含めて大いに注目を浴びたのだ。黒人女優への門戸が今、大きく開きつつある。

劇的に下がった視聴率

 このように社会性の面で大いに注目された今年のアカデミー賞だが、視聴率は昨年比マイナス20%と激減した。先に挙げた『ワンダーウーマン』だけでなく、『スターウォーズ 最後のジェダイ』など劇場で大ヒットした娯楽大作がことごとくノミネートされず、したがってスター不在となったことが大きく影響していると思われる。

 だが、視聴率激減の理由はそれだけではない。1月のグラミー賞同様、#MeTooがフィーチャーされること、トランプ政権の移民政策やフロリダの高校での乱射事件を受けて銃規制法問題が批判されること、さらには『ゲット・アウト』や『ブラック・パンサー』のヒットから黒人問題もフィーチャーされるであろうことが予測され、「エンターテインメントの場でめんどうなことはごめんだ」という視聴者がチャンネルを合わせなかったのだ。

 アカデミー賞側もそれは見越していたはずだ。それでも敢えて大量の社会問題を盛り込んだのは、まずは#MeToo問題を引き起こした映画界としての自省があったものと思われる。自分の膿は自分で出してしまわなければならないのだ。なによりこれだけ多くの大物女優が声を上げた以上、それに応える義務がアカデミー賞側にはあった。たとえ今年は視聴率が低迷しても、この波を乗り越えなければハリウッドに未来はないことを、アカデミー賞側は賢明にも理解したのだと思いたい。

 来年の第91回アカデミー賞に期待を寄せよう。
(堂本かおる)

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堂本かおる

ニューヨーク在住のフリーランスライター。米国およびNYのブラックカルチャー、マイノリティ文化、移民、教育、犯罪など社会事情専門。

サイト:http://www.nybct.com/

ブログ:ハーレム・ジャーナル

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