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女性専用車両は差別か。時間・場所ともにきわめて限定的な現実を見る

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Thinstock/Photo by Cebas

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 女性専用車両は、男性差別だと訴える団体がある。216日に東京メトロ千代田線沿線で、複数の男性に女性専用車両への乗り込みがあり、「お客様トラブル」のため遅延が発生した件は記憶に新しい。女性専用車両へ乗り込んだ男性たちの主張は、女性専用車両は乗客への任意協力の要請に過ぎず、男性の乗車を断るのは不当であるという理屈だ。「女性専用」の名称であっても実際には男性が乗車することを拒否してはいないことを公にすべきだ、という主張でもある。

 痴漢被害に遭った経験から、男性客が多く混雑した車両には恐怖心などから乗車困難になってしまう女性もいるだろう。女性専用車両と明示された車両を利用することでその不安感から解放され、公共交通機関での移動が可能になる。少なくともそこに痴漢はおらず、仮に問題が発生しても周囲の乗客に異変を伝達しやすい環境下だ。通勤ラッシュの時間帯に電車を利用する子供や、身体不自由な人、怪我や病気の人にとっても、他の車両と比較すれば混雑状況の緩和されていることの多い女性専用車両は助けとなる。

 では実際のところ、首都圏の鉄道各社における女性専用車両の実施状況はどうなっているか。基本的にはどの路線においても、混雑する区間・時間帯、いわゆる「ラッシュ」に限定した上で実施されている。1本の列車につき1両のみであることがほとんどで、10両編成の電車なら全車両の10%、8両編成なら全車両の12.5%に過ぎない。

 京王電鉄では、平日(朝)は「新宿・新線新宿駅に730分〜930分に到着する特急・準特急・急行・区間急行」に「全区間」で、平日(夕方・夜・深夜)は「新宿駅を1800分〜034分に発車する特急・準特急」に「新宿駅〜調布駅間」で、いずれも「新宿寄りの1両」と定めて設置されている。

 JR東日本の、「最も痴漢被害が多い」と言われる埼京線・川越線では、「川越から大崎」区間 が「大崎方面に向かう全列車」の「平日/新宿発 730分~940 10号車(最前部)」、「大崎から川越」区間が「川越方面に向かう全列車」の「平日/新宿発 2300分~終電まで 10号車(最後部)」と、平日朝の上りと平日深夜の下りに絞って設置されている。そのほか、中央線・青梅線・五日市線、常磐線各駅停車、総武線各駅停車でも設置されているが、いずれも平日朝のラッシュ方向のみ、最後部もしくは最前部の車両と限定されている。

 東京メトロはどうか。日比谷線では、「全区間(北千住から中目黒まで)」の「中目黒方面に向かう全列車」、「平日/北千住発 730分~900分」まで、1号車のみに設置。東西線では、「西船橋から大手町まで」の 「中野方面に向かう全列車」、「平日/西船橋発(妙典始発含む) 657分~ 900分」まで、10号車のみに設置。

 千代田線では、「全区間(綾瀬から代々木上原まで、代々木上原から綾瀬まで)」の 「代々木上原方面及び綾瀬方面に向かう全列車」、 「平日/綾瀬・代々木上原発 710分~930分」まで、1号車のみに設置。

 有楽町線では、「全区間(和光市・小竹向原から新木場まで)」の「新木場方面に向かう全列車」、「平日/始発~930分」まで、1号車のみに設置。

 半蔵門線では「全区間(押上〈スカイツリー前〉から渋谷まで、渋谷から押上〈スカイツリー前〉まで)」の「渋谷方面及び押上〈スカイツリー前〉方面に向かう全列車」、「平日/始発~930分 渋谷方面行き列車は押上発920分」まで、10号車で実施。

 副都心線では、「和光市・小竹向原発 渋谷まで」「渋谷発 池袋まで」区間の「渋谷方面および和光市・小竹向原方面に向かう全列車」で「平日/和光市・小竹向原発 始発~930分」「平日/渋谷発 池袋まで 始発~930分」、1号車のみに設置。

 このほか、小田急電鉄の小田急線、西武鉄道の池袋線・西武有楽町線と新宿線、東急電鉄の東横線と田園都市線、相模鉄道の相鉄線などでも女性専用車両が導入されているのだが、やはりいずれも平日の朝や夕方や深夜といったラッシュ時間帯、混雑する区間や方面で1車両のみと、限定的なものである。また、京王井の頭線やJR南武線、東急大井町線など車両数が少ない(57両編成)路線では、女性専用車両が設置されていないことも多い。

 あらためて見てみても、女性専用車両は時間・場所ともに限定的だ。限定的ゆえに女性専用車両は痴漢対策にならないという批判的意見もあるが、それでも前述のように被害経験者には安心感があるものだろう(もちろん、電車内での痴漢は混雑車両に限らず、逆に空いていて人の目の少ない車両で悪質な犯罪をする人間もいることは留意しておく必要がある)。

 しかしながら私は、上京から10年以上、東京近辺に住む「若い女性」であり、通勤ラッシュを利用していたこともあるが、女性専用車両に乗る機会は多くなかった。最寄り駅、あるいは目的地の駅の改札から、女性専用車両は一番遠いケースが多く、効率良い移動方法を考えた時に選択しなかったのだ。わざわざホームを長く歩いて(ラッシュ時は駅ホームも大変混雑して歩きづらい)専用車両まで移動するのは手間だと思っていた。単純に効率よく移動するなら、また急いでいるときなど、女性専用車両を利用せず階段やエスカレーター付近の一般車両を利用したほうが(大変混雑しているにしても)早い。だから女性専用車両は男性差別だという訴えに対しては、むしろ「痴漢に遭いたくない」と専用車両を利用せざるを得ない人のほうが、上記の面を見れば不利益を被っているようにすら思う。

 幸運なことに私自身はこれまで電車で痴漢被害に遭った経験がない。ただ一度だけビクッとしたことがあった。数年前に京王線のひどく混雑した車両に乗り立っていた時、気づいたら四方八方全員が背の高い男性で、視界が遮断された。車内の電子掲示板も見えない。そのとき、仮にこういう状況下で痴漢被害に遭っても、自分から抗議することは不可能かもしれない、恐怖心を覚えたことを記憶している。一度でも痴漢という性暴力を受けた経験のある女性であれば、そうした状況が起こり得る混雑時間帯の一般車両に怖くて乗車できなくなっても不思議ではない。

 男性がそこに乗車していないこと、および一般車両よりは混雑していないことで、女性専用車両の乗客は安心感を覚えたり、危険を伴わずに目的地まで辿りついたりできる。異常に混雑している現状の通勤ラッシュにおいて、女性専用車両が必要な措置であることは疑いようもない。

中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

バナナ&ストロベリー

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