H「アトピーなのにステロイドを使わず、自然派のお手当で対処しているおうちの赤ちゃんは、可哀相なくらいお肌がグッシュグシュでしたね。乳腺炎も、おたふくの腫れも、打ち身もすべて、熱を持っている部分には、ジャガイモや里芋など食品で作った湿布を充てるようアドバイスされます。医療用の湿布は化学薬品がいっぱいで、経皮毒になるので絶対使ってはいけないのだとか。私は芋の湿布を試しましたが、真っ赤にかぶれたのでやらなければ良かったです」
アンチワクチンがデフォルトいうサークルに所属しつつ、Facebookからも情報が上乗せされていったといいます。
H「看護師の友人が自然崇拝になったので、さらに深みにはまっていきましたね。その友人は、看護師仲間が『玄牝 –げんぴん–』という自然派出産を賞賛する映画にハマったことがきっかけだと言っていました。そして『自分もこんなに恐ろしいもの(ワクチン)を、処置として行っていたのかと思うと震える』なんて語るんです。私はそれを〈医療従事者からの注意喚起〉、要は内部告発のように感じてしまい、ますますアンチワクチンどっぷりに。ネットで調べれば調べるほど〈水銀は確実に脳を毒化させる!〉とか怖い内容の言葉がどんどん出てくるし、アンチの声しか聞こえなくなっていく感じ。耳にしたことのない病気のワクチンは必要ないのでは? 今こんなにワクチンの量が増えたのは、やっぱり製薬会社と医者の儲けのため! だなんて視野狭窄になっていったんです」
その頃のHさんのバイブルは、『まちがいだらけの予防接種―子どもを愛するすべての両親へ』 (藤井俊介著/いのちのライブラリー)、『自然流育児のすすめ―小児科医からのアドバイス』(真弓定夫著/地湧社)。さらにアンチワクチン仲間から、ワクチンの副反応で脳性麻痺や重篤な状態になった子をもつ親の手記などが送られてくるので、それも熱心に読んでいたそう。
そんなアンチワクチン仲間は、拒否する必要性を強調するために、なんと〈放射能〉も引き合いに出してきます。
H「3.11当時、私は仕事の関係で関東圏にいて、そこからさらに関東の実家へ里帰りしていました。そのことについて、『わざわざ関東に里帰りして出産するなんて、放射能に汚染された子どもを産むということ』『子どもを被ばくさせただけでなく、さらにワクチンで毒を体に入れるのか』と言うんですよね。被ばくについては『そんなわけあるか!』なんて思いつつ、『ワクチンの真実を知り、次男には打たなかった』『必要なものだけを選んで打った』などをママ友から聞くと、やっぱりワクチンを否定する気持ちは消えませんでした」
目が覚めたきっかけ
そんな「ワクチンは恐ろしい」にどっぷりだったHさんの考えが一転したきっかけは、医療機関の行った丁寧な指導。子どもの検診でワクチンの未接種を指摘されたHさんは、アンチワクチン仲間に教えてもらったとおり「万が一何かあったら」を主張。すると、病院から「しっかりエビデンスを出すので、もう一度夫婦で来院を」という申し出があったそう。
H「そこで丁寧に説明されたのは、ワクチンを打った場合と打たなかった場合の将来的な損失の差や、将来の職業選択の幅が狭くなる可能性があること。現状の日本にはない病気でも海外から飛行機でやってくる可能性は少なくないこと。ワクチンの未接種は自分の子どもの問題だけでなく、感染症になった子どもが他の誰かに移し、重症化する人がいるなどです。そんな話を聞き、徐々に正気になっていきました。ワクチンを打っていないことを医者は一度も怒りませんでしたし、疑心暗鬼になっている私の気持ちも受け止めてくれました」
Hさんが最も不安に感じていた〈副反応〉は急速に出るものが多いので、接種後30分は病院の別室で子どもの様子を見守ってくれるという対処をしてくれ、帰宅後もし不安なことがあれば、すぐに電話して構わないといってくれた病院。さらに副反応についても、さらに勉強するし、ワクチンの打ち間違えやヒヤリハットがないように徹底するなど、これからの対策も語ってくれたと言います。すっかり安心したHさんは、子どもへ接種をはじめることに。
H「友人の自然派ママにワクチンを打ったことを伝えると、『そっか。やっぱりわからないんだね』と言われ、前橋レポート※やら何やら、いろいろな資料がLINEで送られてきました。それを既読スルーしていたら、そのうち音沙汰なくなりました。別口から来た感染パーティへの誘いは、自己負担でワクチン打ったので必要ないと伝えると、『子どもを自閉症にするつもりなんだね!』という捨て台詞とともに、完全に縁が切れました。ちょうどその頃、自然育児サークルでは子宮系女子やらおまたぢからにハマる人が出てきて、さすがについていけず、すっかり冷静になることができたという感じです」
※前橋レポート/インフルエンザワクチンは効果がないということを示す報告書であるが、調査方法に問題があると指摘されている。
今では、子どもへもワクチンの必要性をしっかり説明しているというHさん。「君が病気にならず元気でいることで、他の子が病気になる可能性も減らすんだよ」と伝えているそう。姉妹篇である「身内がトンデモになりまして」の取材では、親のいないところで子どもへトンデモな考えを吹き込まれたという話も少なくなかったので、必要性をきちんと伝えることは、私自身もぜひ見習いたいものです。