当時を思い返し、自然育児サークルは次のような特徴があったとHさんは振り返ります。
・「高齢ママ」が少ない地域で、同年代のママが集うコミュニティが限定される
Hさんの住む地域では、20代半ばで出産する人が多いそう。30代半ばになると2、3人の子どもを連れているのが当たり前の光景だと言います。一方、自然育児サークルに来ているメンバーは、30代で第1子というパターンが大多数。
H「友達に赤ちゃんのことを相談したくても、同級生はみんな小中学生の母親なので『赤ちゃんなんて可愛いだけだよー』と美化した感想やアドバイスしかもらえません。小さな子どもを育てている〈高齢ママ〉たちのコミュニティが、極端に少ないんです。私自身も、歳が同じくらい、もしくは上のママ友ができて安心しましたから、他のママたちもそうなんじゃないでしょうか。私より年上のママはいっぱいいるじゃん! 私だけじゃないじゃん! とホッとしたことを覚えています。だからなのか、サークルは年上になるほどハマりまくる感じでした。若い人は、引っ越してきて友達がいない人という感じでしたね。そして圧倒的な専業主婦率」
・「高齢出産」への偏見が強い地域で、不安を感じやすい
周りのママたちが若いことに加え、親世代からも「私が今のお前の歳の時には、もう中学に上がっていたのにねぇ」なんて嫌味を言われることも多いそう。そんな状況の中で高齢出産のリスクに関する情報が入ってくると、さらに敏感になってしまうとHさん。
H「自然育児でリスク軽減! みたいな雰囲気に流され、出産年齢の負い目をプラマイゼロにしようと思った経緯もあります。というか、アンチワクチン関係の人はそう言って寄ってきます。『ママが高齢出産というだけで子どもが障害を負うリスクは高いのに、さらにワクチンで障害者にするつもりか!』と」
・「自然が一番」=「ありのままの自分でいい」という刷り込み
自然派がメンタルの話をする時によく使われるのが「ありのまま」という言葉。それが、意外にも劣等感を癒すことにも繋がったといいます。
H「今考えると、自然じゃないからという理由でミルク育児や帝王切開を否定されたのにおかしな話ですが、その時にサークルで言われた『自然が一番』という言葉の響きは、ありのままの自分とありのままの子どもでいいのだと認められた感じがして、とても耳触りがよかったんですよね」
正解のない育児に疲れていた
さらに、自然育児サークルには2人目不妊で悩んでいたり子どもが食べ物のアレルギーやアトピーだったりする人が多かったため「こんなに大変なお母さんもいるのね」と優越感にひたっていた部分もあると言い、複雑な感情が入り乱れていたことが伝わってきます。
H「他にもたくさんありますが、皆正解のない育児に疲れていたんでしょう。学歴が高い方も多かったことを考えると、学業や仕事はがんばりや結果が目に見えたけど、育児は努力が結果としてなかなか形に現れません。そんな時に、こうしたらいい子に育つ! みたいな「正解」をズバリと謳うスピや自然派は、すがりつく対象として都合がいい。手厳しいことも言いますが、基本的には皆〈いい人〉風な人ばかりでしたし」
Hさんが在籍していた自然育児サークルは、人一倍不安を抱えたママたちが引き寄せられるコミュニティだったよう。そこへ気持ちを共有して寄り添って「正解はコレ!」と強気に指導するトンデモが入り込むのは容易いことだったでしょう。過去の記事でもさまざまな人が指摘していますが、育児系のトンデモは基本的に、母親の〈子どものため〉という気持ちにつけこむものが多いもの。Hさんの体験も、まさにそのど真ん中です。
不安な気持ちを煽るようなメディアの報道やや孤育てになりがちな状況を作る社会の問題もありますが、〈ちょっと特別感〉のある育児法を実践中の方は、居心地のよさや耳触りのよさを優先にして、おかしなお説を鵜呑みにしていないかどうかを再確認してみては、いかがでしょう。