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『リメンバー・ミー』『ブラックパンサー』〜大ヒットの秘密は“隠れ女性映画”と“アンチ文化盗用”

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大ヒット・マイノリティ映画の文化の盗用回避

 『リメンバー・ミー』の舞台はメキシコで、登場するキャラクターはすべてメキシコ人だ。だがアメリカ企業のディズニー/ピクサーの作品であり、世界各国でも公開するとは言え、オリジナル版は英語となる。それではキャラクターのすべてがメキシコ人という特徴が出にくい。では、メキシコ色をどう出せばいいのか。答えは、吹き替え俳優を全員ラティーノ(ヒスパニック)にすることだった。

 主人公ミゲルの声は、ガテマラ系アメリカ人のアンソニー・ゴンザレス。ママ・イメルダはメキシコ系と米領プエルトリコのミックスのアラナ・ウバック。エレナばあちゃんはメキシコ系とイタリア系ミックスのレニー・ヴィクター。ココばあちゃんはメキシコ人のアナ・オフェリア・ムルグイア、ヘクターもメキシコ人のガエル・ガルシア・ベルナル。デラクルスはペルーとアメリカ白人ミックスのベンジャミン・ブラット。

 『リメンバー・ミー』のセリフは英語だが、ほとんどのキャラクターがスペイン語訛りで話し、時にスペイン語のフレーズも出る。実のところ、これはメキシコ在住のメキシコ人ではなく、アメリカに住むメキシコ系アメリカ人の言語パターンだ。だが、過去にオール・ラティーノ・キャストのアメリカ映画がほとんど存在しなかったことを考えると、快挙と言えるのではないだろうか。

 伝説のシンガー、デラクルスの吹き替えを担当したベンジャミン・ブラットは、刑事ドラマ『ロウ&オーダー』などで知られるペルー系アメリカ人俳優だ。普段は訛りのない英語で演技をしているが、本作についてのインタビューでは興奮気味に以下のように語っている。

「ラティーノ文化にこれほど光を当てた作品はかつてなかった」

「ラティーノ文化のユニークさと、家族を大切にするなど普遍的な部分の両方を世界に知らせることができる」

 ブラットが言うように、自分たちのカルチャーがディズニー映画のようなレベルで世界に発信されることに吹き替え俳優たちも大いに興奮した。それが作品の質と熱気、リアリティを高めたと言える。日本でもできれば字幕版で観てほしい理由だ。

アフリカ系俳優による、アフリカの物語

 話を『ブラックパンサー』に戻す。『ブラックパンサー』の舞台はアフリカの架空の国、ワカンダだ。登場キャラクターは英語を話し、ワカンダの公用語が分かるシーンはない。だが、登場人物はアフリカ訛りの英語を話す。アメリカ人(英語話者)の多くは、無数にあるアフリカの部族語のうち、どの言葉の訛りかを言い当てることはできないはずだが、少なくともアフリカ訛りであることは認識できる。

 だがナイジェリア人、ナイジェリア系アメリカ人の間で、登場人物の一人であるエムバクの訛りが「イボ語だ!」と評判となった。発音だけでなく、言い回しも「まさしくイボ人の男だ!」とウケにウケた。ちなみにナイジェリアでは約500言語が使われ、公用語である英語以外にハウサ語、ヨルバ語、イボ語が公式の場でも使用される。

 先に上げた親衛隊長のオコエは、コサ語を話すシーンがある。コサ語は南アフリカ共和国で使われている言葉だ。オコエがティ・チャラにコサ語で話し掛けたのを見たアメリカ人が、「彼女は英語を話すのか?」と尋ねる。オコエは流暢な英語で「話したい時にはね」と微笑む。英語を話さない者を見下す英語話者への軽やかなパンチだ。

 オコエ役のダナイ・グリラは、ジンバブエからの移民の両親のもとにアメリカで生まれている。ジンバブエで広く使われている英語とショナ語を話すが、コサ語は練習したようだ。インタビューで「本物のアフリカの言葉を劇中で使えて嬉しい」と語っている。

 『ブラックパンサー』はアフリカを舞台とした物語であるため、出演俳優をアメリカ黒人のみで固めると、極端な言い方をすれば文化の盗用にもなる。アメリカで400年間10世代以上にわたって暮らしてきたアメリカ黒人とアフリカ諸国人では、ルーツは同じであっても文化に違いがあるからだ。そこで本作のキャストは非常にデリケートに配置されている。

 主役ブラックパンサーを演じるのはアメリカ黒人のチャドウィック・ボーズマン、宿敵キルモンガー役もアメリカ黒人のマイケル・B・ジョーダン。ティ・チャラのパートナーのナキア役、ルピタ・ニョンゴはケニア人の両親からメキシコで生まれたケニア系メキシコ人。シュリ役のレティシア・ライトは南米ガイアナ系の英国人。先に上げたイボ語訛りの英語をマスターしたエムバク役のウィンストン・デュークはカリブ海のトリニダード・トバゴ出身で、9歳でアメリカに移住している。ヒット作『ゲットアウト』の主役、ダニエル・カルーヤも本作に出演しているが、カルーヤはウガンダ系英国人だ。つまり、アフリカ大陸から世界中に拡散したアフリカにルーツを持つ俳優たちが集まり、ワカンダ人を演じているのである。

 『ブラックパンサー』が全世界歴代ランキング10位という大ヒットとなったのは、スーパーヒーロー作品、アクション作品として飛び抜けて優れているだけが理由ではない。ハリウッドから長らく締め出されてきた「黒人による優れた作品」であることがキーだ。その証拠に、本作は全世界歴代ランキング10位の中で唯一の黒人監督作(ライアン・クーグラー)なのである。

 『ブラックパンサー』は公開前から驚くほどの熱気をもって黒人映画ファンに待ち望まれ、前売券の売上も記録的なものとなった。黒人国家を治める黒人王とスーパーヒーローの物語は、黒人の子供たちにもプライドと歓喜を与える。寄付金が募られ、小学校などの生徒全員を映画館に招待する“ブラックパンサー・チャレンジ”がおこなわれたのも、こうした背景による。

 映画を観終わると、多くの黒人が黒人であることのプライドによって胸がはち切れそうになり、劇中のワカンダ人のように胸のまえで腕を交差させ、こう叫ぶのである。

「ワカンダ・フォーエヴァー!」

(堂本かおる)

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堂本かおる

ニューヨーク在住のフリーランスライター。米国およびNYのブラックカルチャー、マイノリティ文化、移民、教育、犯罪など社会事情専門。

サイト:http://www.nybct.com/

ブログ:ハーレム・ジャーナル

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