中村獅童の本業は歌舞伎ですが、父親の廃業で歌舞伎界での後ろ盾がなく、30歳を前に映画『ピンポン』への出演を機に映像俳優として知名度を得たことはよく知られています。
実際映画ではとても良い演技で楽しませてくれるのですが、若い頃に役に恵まれなかったせいか、歌舞伎俳優としては実はかなり力不足。また歌舞伎以外の舞台への出演も、作品のセレクトのセンスが良いとは正直言えません。着物姿での動き方の綺麗さはさすがでしたが声が聞き取りづらく、少しがっかりしかけたのですが、女中を相手に意固地になってふざけた言い方や演技が、まさかのハマリ具体。『新選組!』でもお調子者の役でしたが、三谷が見出した獅童の舞台での魅力は、喜劇俳優としてだったようです。
松岡=チャラッとしてるけど熱血漢
そして獅童以上に、あてがきに納得だったのが松岡昌宏でした。時代劇ドラマの主演経験もあるものの活躍の主戦場はバラエティで、お世辞にも演技派とは言えない印象ですが、ただ、本人そのまま。動きがとにかく「ウネウネ」しており、江戸っ子らしく肩で風を切る、ではなくテレビで見る彼の動きそのままのクネっとした歩き方と喋り方でした。
発見したのは、前回の当欄「森田剛をはるかに凌ぐ「ジャニーズイチの演技派」岡本健一の世界が認める才能!」とは逆の、ジャニーズには珍しい長身という松岡の武器の説得力。スタイルの良さが際立っていて(情けない男である海舟と似ているという設定のはずが)色っぽく、恋人の女中が平次の浮気を疑い西郷の前で騒ぎ出した時もキスひとつで黙らせられる、というお約束の場面でも、イイ男にしか見えないので思わず納得。世間的な松岡のイメージは「ぱっと見はチャラいけど熱血漢で男らしい」だと思っているのですが、あまりにもそのまますぎて、果たしてこれは演技と言えるのだろうか、という疑問も一緒に湧いてしまったことは否めません。
偽者の画策が露呈し、改めて会談した両者は、幼少時に犬に噛まれたせいで睾丸がひとつしかないという、海舟の身体的特徴を披露することで本人だと確認し合います。荒唐無稽という騒ぎの物語ですが、そんな細かい史実もしっかり盛り込んであらすじを編んでいくのが、三谷脚本の巧みさの理由。でも、にぎやかでむちゃくちゃな珍騒動は、やはり映像ではなくナマで観るからこそ、一番楽しめるものだと感じるのです。
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