エンタメ

松坂桃李が『娼年』で放出した性。過激さだけでないコミュニケーションとしての性行為

【この記事のキーワード】
映画『娼年』公式サイト

映画『娼年』公式サイトより

「この『娼年』は明らかに僕の20代の最大値でしたね」

 今年の10月で30歳を迎える松坂桃李(29)は、「キネマ旬報増刊 キネマ旬報 featuring松坂桃李」(キネマ旬報社)のなかで、俳優としての20代のキャリアを振り返り、現在公開中の映画『娼年』をこのように語る。

 この映画は、大学もサボりがちで、人生に目的を見出せない森中領(松坂桃李)が、ふとしたきっかけで男娼の仕事を始め、その仕事を通じて成長していくという物語。

 映画のなかでは7人の女優との濡れ場が描かれ、それもいわゆる「朝チュン」ではなく、フェラチオであったり潮吹きであったり放尿であったりと、AV並みに激しい性描写が描かれている。

 この映画は、2016年に劇団ポツドール主宰の三浦大輔(43)による演出で公演した舞台を、同じく三浦が監督を務めて映画化したもの。舞台の『娼年』も松坂が主演しているが、公演当時も過激な性描写が大きな話題となった。

舞台『娼年』は観客の目の前で松坂と女優が激しい濡れ場を演じる過激な作品だったが、三浦は松坂に役をオファーする際「『娼年』をやるとイメージが明らかに変わるけど大丈夫?」と聞いたという。

 仕事を依頼する段になってわざわざそんなネガティブな質問をした理由を三浦は「松坂くんが役者として現状に満足しているなら、イメージががらりと変わるから出ないほうがいいと思ったんです」(前掲「キネマ旬報 featuring松坂桃李」)との配慮であったと語っている。

 しかし、当の松坂はそのオファーを「ラッキーだな」と思っていたと言う。ウェブサイト「CINRA」のインタビューで松坂は「僕がそれまでやってきた作品のテイストを考えると、なかなか自分のイメージからは遠い作品ではあったと思うんです。でも、自分が今後、役者の仕事を続けていく……今年で30歳になるんですけど、40歳、50歳、そしてそれ以降になっても続けるにあたっては、僕がいままで20代の前半でやってきたような仕事のスタイルでは、なかなか難しいだろうなって思い始めていたので」と語り、俳優という仕事を生涯続けていくものとするためには現状のようなキャリアの積み方では不足があり、どこかで脱皮を図りたいと感じていたと述べている。

 ここで三浦と松坂の思惑がぴったりと合致した。三浦はこれまでの作品のなかで最も俳優との「共犯意識」が芽生えたと語っており、ふたりはどんどん物語の世界に没入していった。その入り込み方はひとかたならぬものがあったようで、性描写に対する大胆さが麻痺していったことから、松坂は「舞台の稽古中はプロデューサーさんに「いや、これはちょっと……」と止められたりして」(前掲「キネマ旬報 featuring松坂桃李」)なんてエピソードもあったと話している。

 その結果、地獄のように大変だったと話す舞台の『娼年』は高い評価を受けて終了。そして今度は映画で再び『娼年』という作品を向き合うことになる。

コミュニケーションとしての性交を撮る

 松坂はこの仕事について〈撮影が終わったあとは矢吹丈のような状態でした〉(昨年10月投稿)とツイートしているが、その言葉は誇張ではないだろう。

 前述の通り、映画『娼年』でも激しい性描写が描かれ、松坂は男性器以外のすべての部分をカメラの前に晒しているし、快感に悶えて喘ぎ声を漏らす場面まで何度も登場する。4月6日放送『A-Studio』(TBS)にゲスト出演した際、松坂はAVを役づくりの参考に用いたことを告白したうえで、スタッフと共にホテルに宿泊しているときは、皆に見つからないように廊下のエレベーター脇にあるホテルの有料カードを買うのに苦労していたと笑い話を語っていたが、そんなエピソードが生まれるのもよくわかる。

 とはいえ、その性描写は決してAV的な演出ではなく、モノとしての性を「消費」するものとはなっていない。

『娼年』という物語のテーマは、人生そのものに退屈し心を閉ざしていた青年が、男娼という仕事を通じてたくさんの女性と接するうちに、だんだんと自らの心の壁を打ち破り大人になっていくというものだ。

 ゆえに、この作品のなかで登場する性描写は、「快感を貪る行為」ではなく、一貫して「コミュニケーション」として描かれる。

 映画の公式パンフレットで三浦は「セックスを会話を撮るように綿密に撮っていきたいと思いました」と映画内での性描写の撮り方の目標を語っているが、実際、映画では松坂や女優の裸体ではなく、松坂の表情の変化を丁寧に撮ることに比重が置かれている。あまり前例のない濡れ場の撮り方であるため、三浦は事前にセックスシーンの絵コンテをつくり、入念なリハーサルを行ったうえで撮影に入ったそうだ。

 その考えはもちろん松坂も共有しているもので、前述『A-Studio』で彼は「この作品はただセックスするっていうことじゃなくて」「身体のコミュニケーションのなかで生まれてくる会話というか、けっこう繊細なお芝居が必要」と、『娼年』における性描写の特殊性を語っていた。

 このように、『娼年』は松坂にとって大変な作品だったようだが、俳優としてのキャリアの壁を乗り越えるための試みは功を奏したようだ。来月12日公開『孤狼の血』では、暴対法成立直前の広島を舞台にヤクザと警察による癒着と抗争が描かれる。そこで松坂は、ヤクザと警察の関係性に疑問をもちながら仕事に飲み込まれていく大学出の新人巡査の役を演じた。

 これまた並々ならぬハードな役づくりが必要な役だが、それをこなす背景には『娼年』を乗り越えて得た知見があることは間違いない。今後の松坂桃李の活躍に期待が募る。

(倉野尾 実)

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

キネマ旬報 featuring 松坂桃李 (キネマ旬報増刊)