社会

白人家庭に養子として迎え入れられた黒人の子 『THIS IS US』にみる養子・里子、そして人種

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黒人の養子・白人の養親

 ランダルを初めて見た日から1年以上も経ち、レベッカとジャックはようやく養子認定を受けるために家庭裁判所に赴く。待ちに待った日だ。ところが、判事は認定を保留してしまう。保留の理由が分からず、戸惑うレベッカとジャック。

 年配の黒人男性である判事は、黒人の子供が白人に育てられることを良しとしないのだった。アメリカには奴隷制に基づく白人と黒人の間の緊張感、人種差別が延々と続いている。判事は自分が子供の時に白人からNワードで呼ばれた体験を語り、白人の親では子供の差別体験を共有できないことを示唆する。また、日常生活における文化の違いもある。小学生となったランダルは両親の影響でアメフト・ファンとなっているが、他者から「黒人だからバスケ・ファンだろう」と思い込まれるシーンがある。

 これは80年代の話であって、異人種間養子も盛んにおこなわれている現在、異人種を理由に判事が養子縁組を阻止することはない……と思われるが、異を唱える声は、実は今もある。

ボクは養子。

 ランダルは新生児で養子となり、その瞬間の記憶はもちろんないが、人種の違いから自分が養子であることを自覚している。両親はランダルが幼い頃から事実を語り聞かせた上で、ほかの二人と区別なく育てている。

 アメリカでは養子であることを隠すことは少なく、たとえ同じ人種の新生児養子であってもソーシャルワーカーは子供に事実を伝えることを勧める。理由は、子供の「知る権利」の尊重だ。

 友人知人などが養子を迎えたと知った場合、実子出産の場合と同じく「おめでとう!」と祝福するのが定型だ。養子本人もある程度成長したのちは、日常会話で必要がある場合には、躊躇なく「私は養子だから」と説明する。それに対して聞き手も「あ、そうなんだ」と答えて終わる。

産みの親を求め続ける

 養親のレベッカとジャックを親として心から愛するランダルだが、産みの親を求める気持ちは抑えられない。人間の本能ともいえる部分だろう。子供なりに方法を考え、ひそかに親を探し、失敗して傷付く幼いランダル。だが36歳の誕生日に、ついに実父を探し当て、やがて再会を果たす。

 成人したランダルが実父を見つけるのは第1シーズンの第1話だ。以後、『THIS IS US 36歳、これから』のランダルに関する部分は、実父および養子・里子をキーに進む。つまり養子であるランダルにとって実親を見つける/見つけたことが、人生のとても大きな部分を占める物語なのだ。

里子のシステム

 実父と再会したランダルは、そのために養母レベッカとの関係に深刻な亀裂を招く。レベッカはランダルが幼い頃に実父を探し当て、ひそかに会うことすらしていたのだった。しかし、実父の存在をランダルには隠し続けていた。36年間の全人生を通して実父を追い求めてきたランダルは実父からその話を聞き、あれほど愛していた母レベッカに対して激怒する。人が肉親および自身のルーツを求める本能の強さを物語るシーンだ。

 だが、レベッカの「あなたを取られることが怖かった」という告白を聞き、ランダルはやがてレベッカを許す。血が繋がっていなくとも、人種が異なっていても、母親としての愛情に違いはないことを示すシーンだ。

 時間をかけてすべてを乗り越えたランダルは、養子を迎えることを決める。恵まれない環境ゆえに捨て子となった自分と同様に、親を、家庭を必要としている子供を救おうと考えたのだった。

 結果的にランダルと妻のベスは新生児の養子ではなく、問題を抱えたティーンエイジャーを里子として迎えることに決める。里子となる黒人の少女、デジャの人生も並行して描かれる。

 デジャの母親は16歳でデジャを産む。幼く未熟な母親に子育てはできず、デジャは里子に出されてしまう。デジャは里親による虐待も体験し、異なる里親宅を転々とするが、いったんは更生した母親の元に戻る。しかし母親の無責任な行動は収まらず、デジャはランダルとベスの家庭に再度、里子として預けられる。

 アメリカでは養護施設よりも家庭に近い環境の里親宅が子供の生育によいとされ、里親システムが浸透している。里親になる人物にはいろいろな動機があり、ランダルのように恵まれない子供を支援するため、または養子の前段階としてまず里子というパターンがある。しかし、複数の里子を預かり、行政からの助成金を受け取って生活する、または生活資金の足しにする人々も多い。これは「金目当ての子供の利用」ではなく、行政が施設の代わりに民間人による里親制度を導入している以上、必然のことである。子育てはボランティアでできることではない。

 そもそも里子の数が多いことから、助成金がなくとも育児できるほど豊かな人物に限定しては必要なだけの里親を確保できない。一般家庭と同様、豊かでなくとも助成金も含めて安定した収入があれば、里親として十分に機能できる。

 多くの里親は、可能な範囲で精一杯の子育てをする。ただし実子でも養子でもなく、永久に育てるわけでもないことから、子供にとってはあくまで仮の宿と言える。仮の宿となる理由は複数あり、態度や素行がどうしても手に負えない子供、里親との折り合いがつかない子供は里子返上とされることがある。ほかに里親の転職、転居、病気、時には死亡などで里子解消となることがあり、これが里子が「いくつもの里親宅を転々と」しなければならない理由だ。ただし、中には子供が成人年齢に達するまで実子のように育て続ける里親も存在する。この場合も成人に達した時点で助成金が打ち切られ、そのほかの行政支援もなくなるため、里子/里親は解除される。

 問題は助成金のみが目当てで里親となり、子供に最低限の愛情も示さず、児童虐待すらおこなう者がいることだ。これを阻止すべく、先に書いた養子準備期間中の家庭と同様に里親家庭にもソーシャルワーカーが定期訪問する。デジャの里親宅にもソーシャルワーカーが訪れ、デジャの態度の異変に気付くシーンがある。現実世界では、残念ながら定期訪問でも虐待が見抜けず、時に子供の死亡にまで至るケースがある。

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堂本かおる

ニューヨーク在住のフリーランスライター。米国およびNYのブラックカルチャー、マイノリティ文化、移民、教育、犯罪など社会事情専門。

サイト:http://www.nybct.com/

ブログ:ハーレム・ジャーナル

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