実子の親権剥奪・養子縁組
デジャはランダル一家に歓迎され、ランダルの妻、二人の幼い娘とも徐々に打ち解けていく。しかし母親の素行は改まらず、デジャは心の置きどころがなくなり、一度は深い絆を育んだランダルを憎むことさえする。複雑な生い立ちを背負った多感な年頃の子供を育てることの難しさを、ランダルは実感する。
そんな中、デジャの母親の親権剥奪裁判が進む。
アメリカでは親が育児をおこなえない場合、日本の児童相談所にあたる組織(行政により名称はさまざま)が子供を保護下に置き、子は里子となる。その間、親は更生を促され、家庭裁判所が更生を認めると子供との生活を再開できる。だが、ある期間を経ても更生の見込みがないと判断されると親権が剥奪される。親権が剥奪されると法的に親子ではなくなり、子は養子となれる。時には親本人があきらめ、自ら親権放棄をするケースもある。
日本の養子縁組には産みの親との関係を残す「養子縁組」、残さない「特別養子縁組」の2種があるが、アメリカではそうした区分はなく、また、子の年齢も関係なく、養子縁組が成立すると養親が子の唯一の親となり、産みの親との法律上の縁は完全に断たれる。
ただし、産みの親の親権が剥奪された子供全員に養子先が見つかるわけではない。新生児や幼い子供は見つかりやすく、デジャのようなティーンエイジャーや障害のある子供は成人年齢に達するまで見つからず、里子のままで終わることも多い。
里子と養子の人口
以下は筆者が住むニューヨーク市(人口850万人)の児童相談所ACSの2017年度のデータより(ランダルはニューヨーク市勤務だったが、住居は隣接するニュージージー州の高級住宅地という設定。里子斡旋は居住地区ごとにおこなわれるため、デジャもニュージャージー州在住の設定)。
里子数:8,966人(18歳未満の子供の0.5%=1,000人に5人に相当)
里子ではなくなった人数:3,359人
・実家に戻った子供:2,082人
・養子となった子供:899人
・親族に引き取られた子供:378人
データが無く、もっとも気になるのは “Aged out” (18歳の誕生日を迎えて里子システムから追い出され、独立を余儀なくされること)した人数だ。ソーシャルワーカーによると、多くの子供が教育・学歴の欠如、および精神的なサポート、経済的なサポートを無くして犯罪を犯し、刑務所行きとなるか、もしくはホームレスになるとのこと。
ソーシャルワーカーになる
ランダルのふたりの娘は恵まれた家庭に育ち、性格もおおらかで、デジャをこころよく受け入れる。だが、小学生の長女テスはデジャと父親の絆が深まるようすを目の当たりにし、不安を覚える。
そんな長女に対し、ランダルは自分が父親として長女をいかに愛しているかを真摯に語り、長女に安心感を取り戻させる。
第2シーズンの後半、若い黒人女性のソーシャルワーカーが、幼い黒人少年と白人の養親カップルを引き合わせる短いシーンがある。このソーシャルワーカーは、ランダルの成長した長女、テスなのである。
アメリカでは今秋、第3シーズンが始まる。デジャの母親の親権剥奪、デジャの行末、ランダルの思い、テスがソーシャルワーカーとなった理由……『THIS IS US 36歳、これから』第3シーズンは、養子と里子に限定してもなお、見所は無数にある。
(堂本かおる)
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