社会

増加し続けるストーカー被害の背景にあるのは、被害の軽視と加害意識の薄さ?

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「事件がないと(対策の改善は)後押しされない」

 ストーカー規制法が施行されたのは2000年11月24日。この法律が制定されるきっかけとなったのは「桶川ストーカー殺人事件」の通称で知られる、凄惨な事件だ。

 この事件では、被害者の猪野詩織さんが被害を訴えていたにも関わらず、警察がきちんと対応をしなかったり、告訴状を改ざんしていたことが発覚している。被害者が刺された位置などを、ヘラヘラと笑いながら説明する上尾警察署の記者会見の映像をみたことがある人もいるだろう。ストーカー規制法は猪野さんが殺害されてから、約11カ月後に施行された。

 事件の詳細はジャーナリストでこの事件の真相究明に奔走し、警察の不祥事も暴いた清水潔さんの著書『桶川ストーカー殺人事件―遺言』(新潮文庫)で知ることができる。筆者はこの本を読み、ストーカー行為の卑劣さと凄惨さに愕然とした。そして「日本の警察ならちゃんとしてくれるだろう」という信頼が吹き飛んでしまいそうになる思いがした。

 ストーカー規制法は2016年に改正されている。この改正もまた、ある大きな事件がきっかけだった。

 2016年5月、東京都小金井市でアイドル活動をしていた冨田真由さんがファンの男に刺されるという事件が起きた。冨田さんはそれまでに男からのブログやTwitterへの執拗な書き込みについて警察に相談していたが、当時ストーカー規制法ではSNSは対象外だったため真剣に取り合ってくれなかったという。この事件を受けて、規制対象行為にSNSを追加するなどの改正が2016年に成立した。

 このように、ストーカー規制法は時代に合わせて少しずつ改善されていっている。しかし、こうした対応はすべて大きな事件が起こってからのもので後手後手になっている。2017年9月に行われた京都府警の警察官を対象にした講演会で、猪野詩織さんの父親の憲一さんは「事件がないと(対策の改善は)後押しされない」と語っている

ストーカー被害を軽んじる風潮

 被害者の殺人にも発展する危険性のあるストーカー被害。しかし、その実態とは裏腹にストーカー被害を軽んじる風潮もあるのかもしれない。

 先月28日に亡くなった月亭可朝さんを紹介するデイリースポーツの記事にはこのような記述があった。

“その後も国政選挙への出馬と落選、ストーカー事件で逮捕されるなど破天荒な生きざまを貫いた。”

““騒動”には事欠かない人生でもあった。(中略)08年には知人女性へのストーカー規制法違反で逮捕された。「コンプライアンス」という言葉がまだない時代に“エロ”で笑いを巻き起こした芸人だった。”

 月亭可朝さんがストーカー行為をしていたことを引き合いに、それを「破天荒な生きざま」「騒動」などと表現している。ストーカー被害を軽んじているとしか思えない。彼自身がどのような行為を行ったのかに関わらず、ストーカー被害の実態を知っていればこのような表現はできないはずだ。

 前述の冨田真由さんは2017年2月に東京地裁立川支部で行われた裁判員裁判での意見陳述で、このように述べている

“犯人からのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)への書き込みは3年前の6月に始まりました。犯人がライブ会場に来て、「結婚してください」「じゃあ、友達になってください」としつこく言ってきたあたりから、犯人の書き込みも意識するようになり、それからは、去年の5月21日に事件が起こるまで、不安や恐怖が無くなることは一度もありませんでした。”

“傷を保護するテープを毎日張り替えているため、毎日傷つけられた身体を見なければなりません。その度に、SNSで執拗(しつよう)な嫌がらせをされたことや事件の日のことが思い出されてしまい、何でこんなことになってしまったのかと何度も何度も苦しくなります。”

“私の身体をこんなにめちゃくちゃにした犯人に腹立たしさを感じて、頭がおかしくなるんじゃないかと思うくらい悔しくて、毎日気がつけば泣いています。”

 先述の通り、ストーカー被害の相談件数は年々増加している。増加傾向にあるのは、どういったものがストーカー被害に当たるのかなどの認知が広まり、被害者が「警察に相談してもいいことなんだ」と思えるようになったことも要因のひとつだろうと考えられる。それだけではなく、SNSの普及によりストーカー行為を行いやすくなったという側面もあるだろう。SNSに投稿された写真などから居場所を特定したり、SNSを使って相手に向けて大量の書き込みをしたりすることができるようになったのだ。

 実際、TwitterなどのSNSでは、芸能人・一般人に限らず、投稿された写真などの情報で住んでいる地域を特定するなど様々な粘着行為・嫌がらせが日常茶飯事といっていいほど行われている。ストーカーには、被害が軽んじられるだけでなく、「このくらいなら許される」という加害意識の薄さも存在するのではないだろうか。

 被害の数も多く、取り返しのつかない大きな事件に発展することもあるストーカー被害。その被害を軽んじることのない社会、そして大きな事件への発展を未然に防ぐことのできる法律や体制が、新たな被害者が生まれる前に整えられていくことを心から願う。
(もにか)

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