こんなふうにネットニュースを起点にして考えを巡らせていたら、昔の職場で、いつも弁当持参の既婚男性(Oさん)が居たことを思い出した。
Oさんのお弁当はいつもシンプルで、ご飯&炒め物1品とか、容器を別々にした麻婆丼とか。それに対し、同じく弁当持参の独身男性Aさんは、いつも凝った弁当を食べていた。たくさんのおかずに鮮やかな彩りも考えて詰めたであろうAさんのお弁当は、同棲している恋人のフリーター女性がいつも作ってくれるのだと言っていた。
Aさんの鮮やかな弁当を見て、Oさんが「いいよな~お前の弁当はいつも手がこんでて。俺なんかコレだよ」と苦笑いをしたことがある。Aさんが「でも奥さん頑張ってくれてんでしょ~?」と返すと、Oさんは「いやいや完全に手抜きでしょコレ」とピシャリ。
でもOさんの奥さんはフルタイム勤務で、当時まだ小さな子供が居ることを職場のみんなは知っていたから、「弁当作ってくれるだけですごくないですか!?」と私が言うと、他の女性社員たちも「そうだよ! 何だと思ってんだ!」「じゃー自分で作れ!」とOさんを叱った。
するとOさんは、「そうだよな~。奥さんも大変なんだもんな、理解してあげないとね」と、わかったような感じで言っていた。何てことない流れに思えるが、そもそも理解うんぬんの話ではない。当時の私はそれ以上気に留めなかったが、今思い返せば、Oさんにもっと言いたいことが山ほどある。
Oさんは終業後しょっちゅう飲みに行ってたし、連休があれば趣味のスノボに没頭していた。奥さんがメインで家事・子育てをしていたのは容易に想像できる。奥さんもフルタイムで仕事しているのに、夫は家事も育児もしないで、奥さんに丸投げで……さらに弁当まで毎日用意してくれるスゴイ妻なのに、Oさんはそのことに感謝もしないで文句垂れ流し。挙句の果てに「理解してあげないとね」とは何事か。Oさんは一体、何様なんだろう。
男も女も皆、頑張りましょう。但し、女は男の世話も頑張りましょう
日常会話の中でも、既婚独身問わず、男性が料理や家事をすると話すと「へぇ~! 偉い!」と誰かが褒める。偉いもなにも、自分のことを自分でやっているだけであって、言われた男性が「いやいや、俺立派な大人なんですけど。バカにしないでもらえます?」とならないのが不思議だ。
私は1歳の息子が片づけしたり自分の洗濯物をちゃんと洗濯機に放り込んだりすれば「偉い!」と褒めるけれど、夫がたまに掃除機をかけたり洗濯物を干したりしたからといって「偉い! すごい!」とはどうしても言えない。周囲からは「男は褒めると伸びるんだから~!」とか言われるけど、どうしてもそんな気になれない。そもそも偉くもすごくもないからだ。褒めてしまった時点で“男性はやらなくて良い“というルールを暗に認めてしまう気がする。
だから少なくとも私に取っては前出のDAIGO&北川景子夫婦のような称賛系記事は本当に困る。何度も言うが、もちろん当事者同士それがベストで女性側も“女房稼業”と言われるようなことを好きでやっているのなら問題自体は何もない。今では少数派ではあろうが、専業主婦家庭で役割をさっぱり割り切って上手くいっている夫婦なら、夫が洗濯機の使い方すら知らなくたって問題ない。
だが、共働き家庭において、「古風な妻」を全うすることが褒めそやされるような風潮は、絶対に変えないといけない。だってそうしなければ、頑張りすぎてしまう女性もいるし、古風な妻の役割はしないと決めた女性だって理不尽な肩身の狭さを味わうことになる。
メディアの影響力は絶大だし、ましてやDAIGO夫妻のようにあらゆる世代からの認知度が高ければ、それだけ世間に与えるイメージは大きい。単に「二人はこう生きている」の紹介文なら良いが、まるで「これが素晴らしい妻」「古風な女房が円満の秘訣」かのような提示の仕方は本当にやめてほしい。
男性含む世間一般の認識と、実際に現代を生きる妻の事情には大きな差があると言うのに、そこを問題視する人が男女問わず少ないのが本当に不思議だ。
多くの妻は不満こそ抱いているものの、女同士憂さ晴らしして終わり、みたいな風潮もあるし結局女性側も「まぁ~そうは言っても仕方ないよね、こればっかりは」と諦めているのだろう。「もうね、仕方ないんだよ。脳が違うんだから」とか「男は一生子供だから」とか、皆それなりの解釈をして容認しているようだ。
私は諦められない。絶対に。自分のことは自分でやる。助けてもらったら自分も助ける。幼いころから誰しもが学ぶことだろう。それに「男女共に自分のことを頑張った上で、女は男の世話やサポートもしなければならない」なんて誰が決めたのか。
一切の容認もなし、ここまで頑なだと「器の小さな女房だ」とかで片づけられたりして(女はドンと構えて献身的に家庭を支えるのが良き妻だから)、結局誰も本質部分まで行き着こうとしない。そこまで含めて、結局これは日本を取り巻く空気の問題だと思い至る。空気を変えるのは大変だ。でも、風向きが変われば一気に動かすことも出来るかもしれない。自分に吹かせることができるのは微風でしかなくとも、全力で抗っていきたい。
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