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更年期うつ症状から回復した早苗さん・51歳「まわり道せず、適切な治療を受けられる女性が増えてほしい」

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更年期

向き合います。更年期世代の生と性

 40歳で寝汗と食欲の増加という体調の変化が現れ、そこから頻繁に起きる頭痛を予防するために頭痛薬に依存するように。甲状腺ホルモンの検査や脳外科でのCTスキャンを受けるものの、どこにも異常はないとの診断を受ける。やがて気分の落ち込みも伴うようになり、早苗さんは43歳で心療内科を受診。そこから3年間、処方された漢方薬を飲み続けるが、気分が落ち込む症状はまったく改善することはなかった。

 やがてすべてのことに対してエネルギーを失い……気分の落ち込みがピークに達したあと、突如家族に対して声を荒らげモノを投げるなどの行動に出た早苗さんは、その3日後には起き上がることさえ困難になった。

前編はこちら

 

「精神科に行きたい」――自ら申し出を

――眠れない、食べられない、体重はどんどん減少する。その状態からどのようにして抜け出したんでしょうか。

「食べない寝ないで働いていたわけですから、結局倒れちゃって。内科の病院に運び込まれて、点滴を打ったんです。それでも翌日にはまた仕事に行って、また倒れて。ついには三日三晩飲まず食わずで起き上がることさえできなくなり、また病院に」

――それは……あまりにも苦しすぎますね。

「最後に運ばれたときに、『私、この病院じゃないと思うので、ほかの病院に紹介状を書いてもらえませんか』って先生に申し出たんです」

――自らおっしゃったわけなんですね。

「ええ。そしたら先生が『どこの病院に行きたいの?』と。それで『精神科に紹介状を書いてください』ってお願いしました。48歳の頃のことです」

――何度も運び込まれた内科でも、女性ホルモンチェックはなかったんでしょうか?

「ないです。何年も通い続けた心療内科でも、結局一度もなかったですね」

――次は精神科を受診されたということですが、そこではどんな診断が?

「結局、どこにいってもはっきりと<うつ>だとは言われたことはなかったんです。精神科では、これまでの言動を先生に話して薬を処方してもらいました。安定剤です。お薬の説明書きを見ると『精神を鎮める』と書いてあったんですね。それを読んだ瞬間、『あぁ、もう私は社会からは精神がおかしい人と見られるんだ』と強烈に感じました。そこから『近所の人や知り合いに、この姿を見られるのは嫌だ』と、とにかく人から身を隠したいと思うようになりました」

――安定剤を飲んで症状は改善されたのでしょうか。

「まったく改善されませんでした。いまだからわかるんですけれど、私の不調やうつ症状の原因は女性ホルモンが減ったことにあるんです。でもそのときはまだ私も知識がなく、そこに気づけなかった」

――その年代の女性のうつ症状は、ホルモンが減少したことが原因で起きるいわゆる<更年期うつ>である場合もある。精神科のお医者様でも、その知識を持たれていない方もいらっしゃるんですよね。早苗さんも、巡り合ったお医者さまの中に誰かひとりでも知識があればもっと早くに症状も改善されたのに……と残念でなりません。

「当時のお医者様を恨む思いはありませんけど……。でも患者ってお医者さまの言うことを信じるしかないわけですよね、結局。あの頃の私の精神状態では、自分でなにかを調べてみるなんてことは不可能でしたし。病院に通い、言われるがままに処方された精神安定剤を飲み、そして次の診察で薬の効果を聞かれると正直に『なにも変わりません』と答えるわけですよ。そうすると薬の量が増えていくわけです」

――どんどん薬の量は増えるのに、症状はなにも改善しなかった――。

「そうです。安定剤を飲んでることを周囲に隠して仕事もして。でも日に日におかしくなっていくんですよね。判断力もなくなり、買い物にいっても簡単な計算さえできなくなる。『私どうなっちゃうんだろう』と不安でしょうがなかったです」

HRT(ホルモン補充療法)との出会い

――HRT(ホルモン補充療法)をされたことで症状に変化が表れた、と事前におうかがいしていますが、その状態でなぜ婦人科に行き着くことができたんでしょう?(※ホルモン補充療法についてはこちら

「誰にも会いたくないから友達関係もシャットアウトしていたんですが、数人だけメールや電話でやりとりをしている人がいて。そのうちのひとり、若い友人が『うちの母が、早苗さんと同じぐらいの年ごろによく似た症状になってたよ。ホルモン治療をしたら楽になったって』と病院名を教えてくれたんです。それがいまの主治医です」

――すぐに「ホルモンを補充してみよう」と決断できましたか?

「最初はそれがなんなのかもわからなくて。それでも、心のどこかに引っかかるものがあったんだと思います。すぐにネット検索をして病院のHPをみたら、更年期のことが詳しく書いてありました。環境的にも年齢的にも自分もぴったりあてはまる、とようやく気がついたわけなんです」

――それで、現在の主治医でもある婦人科を受診されたんですね。

「ここが私の行くべき場所じゃないか、と思えたんです。でも、実際に足を運ぶまでは少し時間がかかりましたね。その頃は家から出るのがとにかく怖くって。特に父と母に病院に行く姿を見られるのが嫌だった。でもやっぱりどうしても気になって……勇気を出して、ひとりで出かけました。誰にも言わずにそっと家を出て」

――病院ではすぐにHRTを試してみることになったんでしょうか?

「そうです。先生は『女性ホルモンの減少が影響している可能性が高い』とおっしゃって。『一度試してみて』と<エストラーナ>という貼り薬をくれました」

――女性ホルモンの一種であるエストロゲンを補充するお薬ですね。のぼせやホットフラッシュの症状には貼るとすぐに効果が表れる人も多いと聞きますが、早苗さんはどうでしたか?

「私の場合は、すぐには効果を感じられませんでした。そうそう、HRTって、基礎体温を測って毎日記録しないといけないでしょ?」

――そうですね。HRTを始めるからには基礎体温を測ることは避けて通れません。

「当時の私の精神状態では、それはとてつもなく高い壁で。途中で『もうこんなの続けられません』と、病院に電話したこともあるんです。でも他に行く場所も思いつかなかったし、探す気力もないし……看護師さんと先生に励まされながらなんとか頑張ったんです」

――精神科の通院も続けられていたんですか?

「はい、婦人科の先生からも精神科には通ったほうがいい、と言われていましたから。HRTをしながら安定剤も飲み続けていました」

――HRTの効果を感じられたのはいつ頃でしょう?

1年経った頃でしょうか、『私、安定剤をやめてみたい』と思ったんです」

――それは大きな変化ですね。

「一粒でもいいから薬を少なくしたいと。なにかをしたい、という欲望を持ったのはほんとうに久しぶりでした。たぶんそれは、HRTの効果が自分でも気づかないうちに出ていたからだろうと思うんです」

――基礎体温の段階で挫折しなくてよかったですね!

「ほんとうに(笑)。私の通っている婦人科は、サポートが素晴らしいんです。先生と看護師の皆さんがいつも温かく励ましてくれて、ときには厳しい言葉や叱咤激励も。私、不安や落ち込みのせいで看護師さんの前で声を出して泣いたこともあるんですよ。でも皆さん『大丈夫、続けていればきっといつか光が見える日がくるよ』と」

――早苗さんにとって、そこは単なる病院ではなく、心を許せる場所だったんですね。

「『あの場所に行けば、許してもらえる』と思ってました。ただ体調が悪くなっただけで、なにも悪いことをしたわけでもないんですけど……あの当時の私は罪悪感を背負って生きていたんですね。でも病院に行って、話を聞いてもらえることで、罪の意識がだんだんと軽くなった」

――40歳で体調の変化が出始めてから約9年。お辛い体験だったと思いますが、でも自分に合う病院が見つかって、不調の原因がわかってほんとうによかったですね。改めてお医者様や病院との巡り合いの重要性を感じずにはいられません。ところで、精神科はいまも通われていますか?

「いまは通っていません。薬を減らしたいと考え始めた段階で、ちょうど精神科の担当の先生が変わったんですね。新しい先生は話しやすい雰囲気のある方だったので、思い切って『一粒でもいいから薬を減らしたい』と相談したんです」

――先生はなんとおっしゃったんでしょう?

「『そうなんだ、じゃあ一粒だけ減らしてみる? 試してみてどうしても苦しいようだったら、診察の予約はいつでもとれるし、そこでまた考えればいいからね』と」

――その言い方はとても気持ちが軽くなりますね。

「婦人科の先生からもらった更年期の症状や治療法について書かれた資料を、精神科の先生に渡したことがあったんです。精神科の先生は資料を読んで『たしかにHRTで、精神的な症状がよくなる人はいます。特にあなたぐらいの年齢の人の場合』とおっしゃって。そんないきさつもあり、私も薬を減らしてみたいと思い切って相談できたんです」

――そこから徐々に減薬をして精神科に通うのをやめられた、と。

「精神科に通うのをやめたのは、約2年前かな。でも精神科でもらった薬はしばらく持ってました。怖くて捨てる勇気がなかったんです。それを思い切って全部捨てられたのは半年前のこと。でもいまも婦人科のほうで念のために安定剤はもらっています。たまに飲むことはありますが、常用はしていません」

――婦人科が開催されている勉強会にも参加されるようになったんですよね。

「はい、そこで薬についても更年期についても勉強するようになりました。だから、いまもたまに安定剤を飲むことがありますが、それはメリットもデメリットも承知の上。自分の判断で飲むか飲まないかを決めています」

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日々晴雨

都内在住のフリーライター、更年期ジャーナリスト。いくつかのペンネームを使い分けながら、コラム、シナリオ、短編小説などを執筆。コピーライターとして企業のカタログやHPなどのライティングに携わることも。2017年にメノポーズカウンセラーの資格を取得。

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