エンタメ

宇多田ヒカルは小袋成彬をどのようにプロデュースしたのか

【この記事のキーワード】
宇多田ヒカルは小袋成彬をどのようにプロデュースしたのかの画像1

左『Fantôme』宇多田ヒカル、右『分離派の夏』小袋成彬

 宇多田ヒカル(35)が7枚目のオリジナルアルバム『初恋』を627日にリリースすることと、11月から12月にかけて幕張メッセや大阪城ホールなどを回る全国ツアーの日程が明かされた。彼女がアルバムをリリースするのは『Fantôme』以来、約19カ月ぶり。『初恋』というタイトルからはどうしても1stアルバム『First Love』を思い起こさずにはいられず、ファンは色めきだっている。

 2010年からおよそ6年間の活動休止を経て再始動してから、仕事の面では非常に順調な宇多田ヒカルだが、その一方で、プライベートでは2014年に結婚した8歳年下のイタリア人男性と離婚していたと47日に報じられた。離婚の原因や子どもの親権などについては公にされていないが、週刊誌でそのきっかけなのではないかと盛んに報じられた「新恋人(と言われている人物)」が、ミュージシャンの小袋成彬(26)だ。

「女性自身」(光文社)201851日号で、記者から直撃された小袋成彬は「彼女と会ったりしているか? それは全然ないっすね。(日本でアルバムの)プロモーション活動をしていて忙しいので」「彼女とですか? (交際は)ないっすね」と報道を全否定。実際のところどうなのかはわからないが、宇多田が小袋成彬の才能を買っていることだけは事実だ。

 宇多田ヒカルのファンには、「ともだち with 小袋成彬」(『Fantôme』収録)でのデュエットでおなじみの小袋だが、今月25日には彼の初めてのアルバム『分離派の夏』がリリースされた。このアルバムのプロデュースを務めたのが宇多田ヒカル。彼女にとっては初めての新人プロデュースとなるが、宇多田はミュージシャンとして小袋成彬を高く評価しており、『分離派の夏』リリースにあたり、「この人の声を世に送り出す手助けをしなきゃいけない」という強い思いがプロデュースを引き受ける理由であったとコメントしている。

 小袋成彬はこれまで、R&BユニットN.O.R.K.としての活動のみならず、水曜日のカンパネラや柴崎コウといったミュージシャンのプロデュースや楽曲提供により、音楽好きの間ではよく知られた存在だった。そんな彼を宇多田ヒカルはどのようにプロデュースしたのか。

SWITCH」(スイッチ・パブリッシング)20185月号掲載のインタビューで宇多田ヒカルは「プロデューサーって、全部ガチガチにコントロールしたがるタイプか、アーティストに好きにやらせて、ちょこっと手を加えるタイプの二つに分かれるよね」との雑談が小袋との間で交わされたというエピソードを紹介したうえで、「私は完全に後者でした。(中略)これまで私自身が自由にやらせてもらってきたので、創作について誰かに何かを言われる感覚も、自分が誰かに何かを言う感覚もわからないんです」と語っている。

 では、完全な放任主義をとっていたかというと、そんなことはなかったようだ。特に議論を交わしたのが「歌詞」だった。宇多田は小袋の歌詞に徹底的にダメ出しをしたという。

 そのプロデュースはなかなかにスパルタなものであったようで、ウェブサイト「Real Sound」のインタビューで小袋は「宇多田さんは歌詞にすごく厳しい方で、僕がメロディを適当にごまかしたり、歌詞の表現がユルいと、バシバシ指摘してくるんですよ。「これは最後まで考えてるの?」と聞いてくるんです。僕は完成したと思って聴いてもらっても「まだ」と言われたり。そういう押し問答がずっと続いて、嫌いになるんじゃないかという時期もあったんですけど(笑)」とまで語っているほどだ。

 小袋の歌詞は非常に個人的かつ内省的なもので、「ミュージック・マガジン」20185月号のインタビューでは「共感させたいと思って歌詞を書いてないし、むしろそういうものは排除したい人間なんです」とまで言ってのけるほど。

 そこに宇多田は「他者の視点」を入れた。前述「SWITCH」のインタビューで宇多田は「彼はこれまで自分の思いを“人に伝える”という観点を全く持ってこなかったんですね。だから制作の最初の頃は、自分が書きたいことを書けばそれが作詞、みたいな考えで。表現したいものはぼんやりとわかるんだけど、この書き方だと聴き手に響かないと思う歌詞がいくつかあったんです。それで、『ここだけわかり易くすれば全体が伝わるよ』とチョチョイと提案したり」と、自身がどのように助言していったかを語っている。

 これに続いて宇多田は「そのやり取りから後はものすごい速度で意図を吸収してくれたので、あとは下手に口出しをしないほうがいいと思った」とも証言しているが、先ほど引用したインタビューでの小袋による「押し問答がずっと続いて、嫌いになるんじゃないかという時期もあったんですけど(笑)」との発言と照らし合わせると、両者の認識の違いが浮き彫りになって面白い。

 そのように行われた宇多田のプロデュースに対し、小袋は前掲「Real Sound」のインタビューで「僕は彼女がいないと歌詞がここまでうまく書けなかったと思うし、独りよがりになっていたと思いますね」と感謝を述べている。

 こういった楽曲制作の経緯を知ったうえでアルバムを聴くと、色々と見えてくるものがある。特に、「Lonely One feat.宇多田ヒカル」での宇多田のパートの歌詞は、『分離派の夏』における彼女の仕事をまとめたような言葉に聴こえる(この部分の歌詞は宇多田によって書かれているという)。

〈上目遣いで/カメラに笑顔向ける少年/らしくだけでは/導き出せぬ数式半ば/一人では辿り着けぬ景色がまだ/僕らが大きくなるのを待っている〉

〈上目遣いでカメラに笑顔向ける少年〉を小袋のことだとするならば、ひとりよがりな考えでは〈導き出せぬ数式〉を解き明かすヒントを与え、〈一人では辿り着けぬ景色〉を見せたのが、今回『分離派の夏』で成し遂げた宇多田の仕事といえる。

 宇多田ヒカル初めての新人アーティストプロデュースはひとまず成功したようだ。彼女は前掲「SWITCH」で「そもそも人前に出るのがあまり好きじゃないので、裏方に回る仕事も並行してできたらという気持ちはずっとあったんです」とも語っており、もしかすると今後、このようなプロデュース業も増えてくるのかもしれない。彼女自身の歌手活動もさることながら、宇多田がこれからどんなアーティストを発掘し、育てていくかも楽しみだ。

(倉野尾 実)

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

分離派の夏