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絵本作家のぶみが描いてきた、母と子の無条件の愛への疑問

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「おこらせるくん」KADOKAWA

 これまで多くの作品をリリースし、『ママがおばけになっちゃった』(講談社)の“ママおばシリーズ”が大ヒットした絵本作家・のぶみ。今年2月に、作詞した「あたしおかあさんだから」という歌の歌詞が母親の自己犠牲を賞賛している内容だとして“炎上”し、一方で「私は共感する」という声も寄せられるなど賛否両論の議論を巻き起こした。筆者は“否”の立場をとるが、ではのぶみ氏がこれまで描いてきた様々な作品群での母親像とはどのようなものなのか、興味がわいた。

 今までに『このママにきーめた!』(サンマーク出版)と『ママがおばけになっちゃった!ぼく、ママとけっこんする!』(講談社)を拝読したが、それ以外の作品も手にとってみた。そしてわかったことは、彼が母と子の絆を固く信じているということである。

涙ながらに「だいすき」

 2017年発売の『おこらせるくん』(KADOKAWA出版)では、ママを怒らせてばかりの幼稚園男児・おこらせるくんに対して、ママが「だってあたしがあんたをうんだんだもん」「いのちよりたいせつなこどもよ」「だいすきすぎるからおこるにきまってんじゃない!」と涙ながらに語るストーリー。『ママおば』にも同様のセリフがあるが、“子どもにママ(保護者)の気持ちを知ってもらうための絵本”なのだろう。ちなみにおこらせるくんのパパは登場しない。

 販売サイト上の内容紹介にも<なんでママはおこるの?ほんとは怒りたくないのに~おこるのには「大きな愛」がある。日本中のママの「怒ってしまう理由」を詰め込みました!>とあり、実際、大人が子どもを怒るのは愛情があるから、という言い方はポピュラーだ。愛情があるから、大好きだから、期待しているから……などなど、家庭のみならず学校でも便利に使われてきた。

 しかし『おこらせるくん』の中でおこらせるくんがママを怒らせている場面は“朝幼稚園の支度をしない”のみに尽きる。確かに大人にとってはイライラする局面ではあるけれど、むしろ大人の都合で怒られているように見える。「大好き! 愛情!」というオチを出しておけば泣ける絵本になる? そんなことはない。

 私自身は母親として、「怒る」と「叱る」を区別している(適切に使いこなせているかは別としても)。単純に自分が「ムカついて」「イラっときて」子どもに文句を言うのは怒る、危ないことや迷惑なことをした時に注意するのは叱る、だと。感情的に怒るにせよ、冷静に叱るにせよ、それが「愛情」由来、「大好き」由来なのかと言われると、正直わからない。子どもを養育する者としての責任もあるし、一緒に生活する者として困るというのもあるし、一緒にいれば軋轢が生じ人として「私はこういうことされたくないからしないで」と抗議することだってある。親から子どもに向けた「怒り」の感情は、それ以外にも様々な場面であるだろう。すべて愛情由来だからOKとは思えない。子どもにとっては理不尽な理由で「怒られて」いることも実際は多いのではないだろうか。

 2016年発売の『ママのスマホになりたい』(WAVE出版)は、子ども視点で描かれているが、こちらは“ママに子どもの気持ちを知ってもらうための絵本”であり、やはり大人が読むための絵本となっている。幼稚園男児・かんたろうは、ママがスマホ(およびテレビと赤ちゃん)ばかり見ていることに傷心し、幼稚園の発表で「ママがスマホばかりみてるから、ぼくはスマホになりたい」「ママがみてくれないと ぼくはいなくてもいいようなきもちになっちゃうよ」と言い、ママが心を入れ替えるストーリー。パパは登場しない。

 スマホを悪者にし、母親の罪悪感を煽りまくる一冊である。なぜ「スマホ」? たとえばそばにかまってほしがる子どもがいる時の母親の行動として、スマホを見るのはアウトで、愛情と栄養がたっぷりの料理を作るのはセーフなのだろうか。幼い赤ちゃんの世話に意識と行動が向くのもやむを得ないことでは。同作のラストでママは「かんたろうのまえでスマホみるのやめる」と約束するが、現実のママはそうもいかず、罪悪感を募らせることにならないだろうか。

 両作品に共通しているのは、終盤、母親が子どもに対して涙ながらに「だいすき」と伝える描写。“母と子の絆”は、泣きたい読者にとって鉄板なのかもしれないが、やや特別視しすぎのきらいがある。のぶみ自身も既婚・2児の父親なのだが、2012年発売の子育てエッセイ漫画『毎日のんびり子育て パパは絵本作家』(PHP研究所)においても「ママっていうのはパパがどんなにがんばってもかなわない、圧倒的な存在なのだ」「ママってスゴイよな」「ママにしかできないことがあるんだ」「子どもがさママすきって言ったら僕はそれで子育て成功だと思ってるよ」とある。子どもにとってママは特別な存在だと信じ、そこに一切の疑いを持っていないようだ。

 また、のぶみ氏が描く母親像は、庶民的だ。穏やかで綺麗好きで料理上手なお母さんというわけではなく、ずぼらだけれども子供に対する愛情は誰にも負けない。そんな母親が、のぶみに氏とっての理想の母親像なのかもしれない。

 一方でのぶみ氏自身が子育てをママにまかせきりというわけではない。『毎日のんびり子育て パパは絵本作家』には、のぶみ氏自身の子どもとの向き合い方もあり、父親として子育てをすること自体は当たり前と捉えている。ならばなおのこと、なぜ「ママ」をそこまで特別視するのだろう、と疑問が募る。

 2012年発売の『あたし、パパとけっこんする!』(えほんの杜)は、自身と娘の体験をモチーフとして描かれた絵本。パパが大好きな女の子アンちゃんが誕生日に教会でパパと結婚式を挙げ、それからパパは仕事から帰るのが早くなり、帰れない時は交換日記をするようなった、というもの。2017年発売の『ママがおばけになっちゃった! ぼく、ママとけっこんする!』(講談社)に出てくるエピソードと似ている。

 前出の『毎日のんびり子育て パパは絵本作家』に、娘の3歳の誕生日にのぶみの実家の教会で娘と結婚式を挙げたエピソードが描かれている。のぶみ氏は「ホントごっこなんだけどさ もうめちゃくちゃ感動した」と振り返っており、娘が本当に結婚して結婚式を挙げる時には、3歳の娘と自分の結婚式の映像を流したいという。また「親はただ子どもが生きているだけで感動なんだ」とも語っている。

 2016年発売の『いのちのはな』(KADOKAWA)は、ドキュメンタリー番組『情熱大陸』(TBS系)と一緒に作ったという絵本で、主人公のチューリップ・プーは、のぶみ氏自身がモデル。ストーリーは、プーの育て主の子ども・かんたろうが病気になってしまったため、プーは水をもらえずうまく育たなくなり、バラのバーバラから「あなたはクズだからもらえない」など暴言を吐かれたりもするが、めげずに苦難を乗り越え花を咲かせる、というものだ。

 プーは意地悪をされても「でもだれかをうらむんじゃなくて、じぶんのはなをさかせるちからにかえて」頑張って、そして花を咲かせるとこれまでの苦難をすべて「よかった」と涙ながらに喜ぶ。意地悪なバラのバーバラのことさえも「だいっきらいなバラにあえてよかった」と振り返るのだから、一見すると感動的なイイ話かもしれない。主人公にわざわざ苦労を与えて乗り越えさせ感動を呼ぶ“感動ポルノ”のようにも読めてしまう。

 いくつかの著作から、のぶみ氏が愛情深い人柄であることはよく伝わる。これらに「感動」できない自分自身に歪みがあるのではないかと思わなくもない。しかし、母親は子に無償の愛を注ぎ、子も母親に無垢な愛を送るという関係性ばかりが描かれており、母子関係を特別視、あるいは崇拝しているように感じられることは否めない。それほどに母子関係とは美しく特別なものなのだろうか。現実の世界にある母子関係は必ずしもそうとは限らないのだと、自分と母親の関係、そして自分と我が子との関係を省みて、私は思うのだ。

 まず私から見て自分の母親は、幼少期からことごとく価値観がぶつかる相手であり、何でも話せる関係でもなければ精神的な支えでもなかった。何歳ごろからかは記憶が定かでないが、母親とは気が合わないと気づき、あまり好きな相手だとは思えなかった。母親に対して主に経済的な面での養育責任を果たしてくれることだけを望んでいたのだから、少なくとも子の立場としての私は、母親に無垢な愛など注いでこなかったといえるだろう。

 では年月が経ち、現在母親になった私はどうかというと、3歳になる子どもに対して自分が常時、無償の愛を注いでいるという実感はない。むしろ“責任”や“義務”を感じる瞬間が多い……というのが正直なところだ。また、甘えたり主張したり要求したりしてくる我が子に対して、この子はいつだって私に無垢な愛を注いでいるのだ……とも思わないし、我が子に無垢な愛を求める気にもなれない。というのも、3歳の子供にとって私という存在は「愛着関係が形成された母親」というだけでなく、そもそも生存するのに必要不可欠な大人なのである。子供は保護者がいなければ生きていけない。そして私自身の経験から、大人が子供に対して無垢な愛を求めるのはフェアではなく、ムチャぶりだと思うのだ。

 そんな私から見て、のぶみ氏の描く母子がとことん愛し合い許し合う世界観はリアリティがないだけでなく、母親は無条件に子どもに愛情を注いでいけるという母性神話の再生産、さらには子どもに対して“母親はこんなにもあなたを愛しているのだ、わかってほしい”と押し付けているように感じ、それが脅しのようにも見える。

中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

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kodomoe(コドモエ) 2018年 06 月号 (付録【1】ノラネコぐんだん プールBAG 【2】別冊24P絵本「ぽめちゃん」(柴田ケイコ))