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絵本作家のぶみが説く『かみさま試験の法則』は自己責任論につながっている?

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「かみさま試験の法則 つらい時ほど、かみさまはちゃんと見てる」青春出版社

「かみさま試験の法則 つらい時ほど、かみさまはちゃんと見てる」青春出版社

 人気の高い絵本作家のぶみ氏がこれまでリリースしてきた絵本の内容には、子どもに対する脅しや、母性神話の再生産が含まれていることは、これまでにも何度か触れた。そこで次に、3月に発売した大人向けの著作『かみさま試験の法則 つらい時ほどかみさまはちゃんと見てる』(青春出版社)を読んだ。大人向けに書かれた“幸福論”とのことだが、そこにのぶみ氏の作品群にこめられたメッセージの源流があった。

 この本でのぶみ氏は、「かみさま」が人に与える「かみさま試験」について説く。のぶみ氏が考える「かみさま」とは、<1人ひとりひとりの頭の上>にいて、<自分のことを見てくれている“何か”>であり、自分の過去も未来も<全部知っている>。そしてそんな「かみさま」が与えるのが「かみさま試験」だ。

 「かみさま試験」とは、<困難な出来事>や<キライな人あらわれたりすること>などで、そんな時は<イヤイヤでも「かみさま試験」をやろうとすることが大切>。「かみさま」は<できないことを試験として出さない>。「小さいかみさま試験」は、<人にやさしくする瞬間を逃す>とか<ゴミが落ちてたのに入れなかった>などで、<クリアすればいいことが必ず起こる>。

 「大きいかみさま試験」は、<病気>や<ケガ>をしたり<大切な人を失ったり>、<仕事で大失敗>することなどで、それも<かみさまからのメッセージ>。たとえば病気やケガも<感謝を学ぶため>という解釈になる。ちなみにのぶみ氏は、「かみさま試験」を解き続けたことによって「かみさま感度」が高くなり、鎌倉のお寺で妖精に、出雲大社でかみさまに会うという稀有な体験をしているそうだ。

 なぜ「かみさま試験」があるのかというと<やっぱりぼくたちは成長するために生きてるから>だという。のぶみ氏の経験上、<成長以外のことをすると、するとダメなことが起こるような気がする>そうなのだ。怠けると<かみさまからビンタされるようなことが起こってくる>。これは強烈な自己責任論の匂いがする。

 結局のところ“日頃の行いが悪いといつか痛い目遭うよ”といった戒めであり、自己責任論であり、脅しであるように思える。小・中学校の道徳や部活動でも似たような説話を聞いた気もする。<かみさまは何か起こった時、「即行動」で「即解決」しようとする人が一番好きなんじゃないか>というが、だとすると「かみさま」のストライクゾーンは狭い。

 「かみさま試験」をクリアすれば<うれしいことが起こる>とのぶみ氏は語る。しかし、「かみさま試験」をクリアしたはずなのにいいことが起きないこともある。それはつまり、<がんばる方向が間違ってる>という「かみさま」からのメッセージなのだそうだ。このように何でもポジティブに解釈し自己啓発するやり方は好きずきで、本人が物事をどう捉えるかというだけのことだ。しかし決して看過できない問題もあった。それは彼のメイン読者層である母親層に向けた育児論である。

 世のお母さんたちが子育てで悩んだりイライラするのは詰まるところ<子どものことが好きすぎるから>とのぶみは語る。もちろんそういう側面もあるかもしれないが、子育ては1から10まで“愛情”由来でできているわけじゃない……と私は思ってしまう。そしてのぶみ氏お得意の<子どもはママを喜ばせるために産まれてきた>も漏れなく書かれているのだが、やはりというか、“胎内記憶”の話に展開していくのである。

 「第5章 かみさまの声を聴く方法」では、のぶみ氏が出会った胎内記憶を持つ子供たちの話を紹介している。子供たちは「雲の上でママを選んだ」と言う。空の上で生まれる順番を待ち、そこには<1人でっかいかみさまみたいなのがいて、お母さんのお腹に入る前に「どういう人生にする」ってそのかみさまに聞かれる>。

<それで自分で大体人生のあらすじを決めて紙に書くらしいんだよ。ぼくだとしたら「いつ生まれて何歳で結婚して絵本作家になります」みたいなことを書くんだけど、もっと詳しく人生のあらすじを決めてるらしい。だけどそれは厳密に「ここでこういうことをしゃべります」とかまでは書いてないらしいのね。人生の台本じゃないんだよ。あくまであらすじ>

 その話を根拠に、<実は「かみさま試験」でいうかみさまっていうのは、どうやら自分の決めてきたあらすじのことかもしれない。かみさまってなんでもわかるみたいに言うけど、それは全部自分が決めてきたことだからなんだよ。言ってることわかるかな? ここ、伝わるといいな。「自分で決めてきたこと」がかみさまなの>と説いていく。やはり自己責任論に回帰しているのだ。

 このようなのぶみ氏の思想が非常によく伝わる『かみさま試験』。前回の記事で紹介した母子の愛と絆を特別視する傾向や、理不尽な困難を乗り越える『いのちのはな』の内容は、この思考法に由来しているのだろう。ツライことやキライな人の存在などをもたらす「かみさま試験」は<ある意味チャンス>。そして子供たちはママを選んで生まれてきた(パパのことも選んでいるのだろうか?)。ようやくのぶみ氏の作風の根拠が理解できたように思う。

中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

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