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是枝裕和の樹木希林への信頼。『万引き家族』で果たした樹木希林のあまりにも大きい役割

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『万引き家族』公式サイトより

 是枝裕和監督の最新作『万引き家族』が第71回カンヌ国際映画祭で最高賞となるパルムドールを受賞した。日本人監督の作品がパルムドールに輝いたのは、今村昌平監督『うなぎ』(1997年公開、第50回カンヌ国際映画祭にて受賞)以来の快挙であり、日本映画界に喜びの声が広がっている。『万引き家族』は、祖母・柴田初枝(樹木希林)の年金を当てにしつつ、足りない分の生活費を万引きによって補っている、治(リリー・フランキー)と信代(安藤サクラ)夫婦、信代の妹・亜紀(松岡茉優)による家族の物語である。

 現地時間514日に開かれたカンヌ国際映画祭公式記者会見のなかで、是枝裕和監督が樹木希林の存在について語るのを聞いていた松岡茉優が突如涙を浮かべる一幕があり、マスコミでもそこが大きく取り上げられたが、その是枝監督の発言とはいったいいかなるものだったのか。

<僕はやっぱり自分がつくるものを、希林さんに出ていただけるものにするために努力をします。努力をしないで甘いまま彼女の前に立つと見透かされるので、希林さんの前で恥ずかしくない監督になりたいと思うんですね。そういう役者がいることはすごい大切なことで、監督にとって>

 これに続けて是枝監督は、この作品で一番最初に撮った夏の海のシーンでの樹木希林のアドリブが作品の方向性を決定づけたことに感謝。そして、作品をつくる過程において「いち役者」以上の関わりをしてくれるからこそ、何度も彼女と仕事をしたくなるのだと述べていた(『そして父になる』『海街diary』『海よりもまだ深く』など、樹木希林は彼の映画には欠かすことのできない是枝組の常連である)。

<演出の指針も与えてもらいました。そういう作品への関わりをサラッとですね、台詞のなかで、演技のなかでしてくれる存在というのは、本当に監督にとっては大きな存在です。なので、『もういいんじゃないの?』って言われながらも、繰り返し繰り返し希林さんにオファーをするのは、彼女の作品に向き合う姿勢に本当に助けられていますし、頭が下がる思いでいっぱいです>

 「SWITCH」(スイッチ・パブリッシング)2018VOL.36 NO.6に掲載された是枝裕和と樹木希林の対談では、これに加えてさらに踏み込んだ会話がなされている。

 是枝監督はいつも、書いた脚本を樹木希林に渡し、そこで彼女から出た<なんでこういう人がいるの?><この人はこういう人じゃないんじゃない?>といった意見から考えを深めて、それを脚本に反映させるというプロセスを取るという。

 今回の『万引き家族』はいつも以上にその要素が強く、樹木希林演じる初枝のまわりの家族は彼女の意見を受けてブラッシュアップするかたちでつくりあげていった。そのため、前述した夏の海のシーンでは、監督の頭の中ですら映画の全体像が固まっていない状態だった。樹木希林が共演者に<これ、撮るけど残らないかもしれないよ>と話しかけている状況に、監督は<出てくれる人たちにこんなふうに思われていたら申し訳ないな>と感じていたそうだが、この撮影での樹木希林のアドリブが、後の映画づくりの方向性を決定づけたわけで、結果的には大成功だったといえる。

 単なる役者としてではなく、作品全体を客観的に見ながら作品づくりに参加していくこの姿勢と能力は、役者としてたくさんの作品に関わり、いろいろな役を演じてきたからこそ身に付いたものだと樹木希林本人は語っている。「AERA」(朝日新聞出版)2017515日号では、このように述べていた。

<全体をぱっと見てつかむ、俯瞰でものを見る癖はふだんからついているわね。それがないと役を演じられないのよ。私は脇が多かったでしょう。主役はいいの。話がずっと描かれているから。でも脇は出番がぼこっとあって、その前後の人生が描かれていない。だから自分の役の立ち位置を考えないと演じられないのよ>

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