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日大アメフト部の反則タックル事件、日本大学側が頑なに説明を避けることで組織は崩壊する

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Thinstock/Photo by 8213erika

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 56日に行われたアメリカンフットボールの定期戦で、日本大学の選手が、関西学院大学の選手に対して反則行為にあたる激しいタックルをした件が大きな波紋を広げている。特に争点となっているのは、日大選手の反則行為に監督の指示があったのか? ということだ。日大の内田正人監督は519日付で辞任、大学側が徹底して明言を避ける中で、反則行為を行ったとされる日大選手(20)が22日、日本記者クラブにて記者会見を行った。大学の部活動で起きた不祥事について、選手が実名や顔を公表して記者会見を行う事態は異例だ。しかも、弁護士は同席するが、日大関係者はノータッチだ。

 一連の経緯を振り返りたい。56日、東京・調布市で行われたアメリカンフットボールの定期戦で、無防備だった関学大選手の背後から日大選手が激しくタックルし、関学大選手は全治3週間のケガを負った。当該日大選手はその後も反則を繰り返し、3度目の反則では相手選手を殴り退場となった。試合後、日刊スポーツの取材に応じた日大の内田正人監督は「うちは力がないから、厳しくプレッシャーをかけている。待ちでなく、攻めて戦わないと。選手も必死。あれぐらいやっていかないと勝てない。やらせている私の責任」と答えていた。

 510日、関東学生アメリカンフットボール連盟は、反則を繰り返した日大選手への対外試合出場禁止、および内田監督への厳重注意を発表。日大アメフト部は「事態を厳重に受け止め、これまで以上に学生と真摯に向き合い指導を徹底する」とコメントし、一方の関学大は同日、日大の部長、監督宛に正式な見解と謝罪を求める抗議文書を送付している。

 512日、関学大は会見を行い、6日の定期戦で日大選手が行ったタックルは生命に関わる危険のあるものだったと指摘し、日大側の対応次第では来年度以降の定期戦を行わない意向を示す。さらに517日、関学大が記者会見で日大から届いた回答書の内容を公開。日大の回答書では反則行為について「意図的な乱暴行為を行うこと等を選手へ教えることは全くございません。弊部の指導方針は、ルールに基づいた『厳しさ』を求めるものでありますが、今回、指導者による指導と選手の受け取り方に乖離が起きていたことが問題の本質と認識しており、指導方法に関し、深く反省しております」というもので、具体的な経緯の説明はなかった。

 関学大の鳥内秀晃監督は「なぜあのプレーが起きた時『そういうプレーをしようと言ったのではない』と言えなかったのか」「(昨年はルールを守っていた日大の選手が)なぜ突然、このような意図的で悪質な行為に及んだのか」と疑問を呈し、また日大側から直接の謝罪もないため「誠意ある回答とは言えない」としている。

 519日、日大の内田監督が、ケガを負った関学大の選手と保護者に直接謝罪し、報道陣の取材に対して、監督を辞任する意向を発表。日大選手の反則行為について「私の責任」としながらも、反則行為の指示の有無については語らず、現在務めている日本大学の常務理事については「それは違う問題ですので」と辞任しない意向を示している。

 521日、日大側が19日付で内田監督の辞任届を受理したと発表。こうした経緯を経て、同日、負傷した関学大選手の父親が会見を開き、今回の件で警察に被害届を提出、受理されたことを発表。内田監督の会見について「加害者がなぜあそこまで追い込まれたか、一言言っていただきたかったです」と語った。

 そして522日午後、反則行為に及んだとされる日大選手が会見を行うに至った。20歳を過ぎたばかりの選手が実名も顔も公表して経緯を説明するという異例の事態について、会見冒頭、代理人弁護士が「一言でいうと、顔を出さない謝罪はないだろうという本人や両親の考え」からこのようなスタイルでの会見になったことを説明。弁護士によると、本件について、510日の関学大アメフト部からの抗議文書を受け、511日に本人と両親は個人として直接謝罪をしたい旨を内田監督に伝えるも、内田監督から止められたという。その一方で、部から事実関係について聞き取りが行われることはなかった。

 515日、個別にでも謝罪したいが認められない、加えて「事実について報道を見る限りは、監督・コーチからの指示があったということは否定されている」「本人が指示がなかったと否定しているというような報道」さえあり、「このままでは事実が明らかにならない、本人が勝手に突っ込んでケガをさせたことになってしまう」として、父親が弁護士に相談。

 517日に本人、父親、弁護士で日大総務部の事情聴取に応じた際も「部としての聞き取りではない」と明確に言われ、大学と部は違う団体であり、あくまで「大学として」の聞き取りだったという。21日時点で、部からの聞き取り調査はないとのことだ。

 会見で日大選手が説明した経緯からは、コーチがはっきりと「相手のクォーターバック(以下QB)をつぶせ」と選手に告げていることがわかる。以下が日大選手による説明だ。

 まず53日、日大選手はプレーが悪かったとコーチから練習を外され、監督から「やる気があるのかないのかわからないので、そういうヤツは試合に出さない。辞めていい」と言われた。

 54日の練習前には監督から「日本代表に行っちゃダメだよ」と、今年6月に開催される大学世界選手権大会の日本代表を辞退するように言われ、監督に理由を確認することはとてもできず「わかりました」と答えた。

 55日、実践練習を外された選手はコーチから「監督にお前をどうしたら試合に出せるかを聞いたら、相手のQB1プレー目でつぶせば出してやると言われた。『QBをつぶしに行くんで、僕を使ってください』と監督に言いにいけ」と言われ、さらに「相手のQBとは知り合いなのか」「関学との定期戦がなくなってもいいだろう」「相手のQBがケガをして、秋の試合に出られなかったら、こっちの得だろう。これは本当にやらなくてはいけないぞ」と畳み掛けられたという。

 コーチは選手と同じポジションの先輩にも「1プレー目からQBをつぶせと言っておけ」と命じており、実際に選手はそう伝えられた。この時、選手は「相手をつぶすくらいの強い気持ちでやってこいという意味ではなく、本当にやらなくてはいけないのだ」と思い、追い詰められ、悩んだという。

 そして56日、試合前の練習時にコーチに「今行ってこい」と言われ、監督に「相手のQBをつぶしに行くので使ってください」と伝えた。監督からは「やらなきゃ意味ないよ」と言われた。さらに試合前の整列時には、コーチからも「『できませんでした』じゃすまされないぞ。わかってるな」と念を押された。そして選手は反則タックルを実行した。

 その後、2回目、3回目の反則行為についても選手は説明。「相手がつかんできてもおとなしすぎる」「やる気がない」と言われていたため、「向かってきた相手選手にやられっぱなしにできないと思って、意識的に行った行為」と認めた。試合後、監督はチームメンバーに対して「こいつのは自分がやらせた。こいつが成長してくれるんならそれでいい。相手のことを考える必要はない」という話をした。また、退場後に事の重大さに気づき泣いていると、コーチから「優しすぎるところがダメなんだ。相手に悪いと思ったんやろ。」と言われ、さらに気持ちが追い詰められたという。

 58日には監督や2人のコーチと話す機会があったが、選手が「もうフットボールはできない」と言うと、監督は「罰退になってお前の処罰は終わっているんだからいい。世間は監督を叩きたいだけでお前じゃない。気にするな」と言い、2人のコーチからは退部を慰留されたが、事実関係の確認はなかった。59日にはヘッドコーチから三軒茶屋のキャンパスに呼び出され、「辞めるべきじゃない。フットボールで返していくしかない。監督が厳しく言ったことを、そのままお前に伝えたコーチに責任がある」と言葉をかけられた。

 511日、監督とコーチ、選手、両親で面会した際、父親が「相手方選手と家族に謝りに行きたい」と申し入れたところ、監督に「今はやめてほしい」と止められる。また父親は、監督・コーチから選手に対して対戦校のQBにケガを負わせろと指示を出し、選手はそれに従っただけである旨の公表を求めたが、断られた。その後も紆余曲折があったが、結局、518日に選手と父親は、ケガを負わせた選手とその両親、関学大小野ディレクターと面会し、直接謝罪した。

 内田監督はどんな存在だったのかという質問に、選手は「いくら監督、コーチからの指示があったとはいえ、僕がやってしまったことについては変わらない」と前置きした上で、「日本代表に行くなって言われた時もそうですし、『なぜですか』とかいう意見を言えるような感じではなかった」と答えた。また、監督の指示が自身のスポーツマンシップを上回ってしまった理由については、「監督、コーチからの指示に自分で判断できなかったという、自分の弱さ」と語り、逆に言えば監督コーチがそれだけ怖い存在であったということかとの問いには「はい」とだけ答えた。

 この会見を受け、「真実を明らかにすることが償いの第一歩だと決意」し、実名・顔出しで会見に臨んだ選手を「立派」だとたたえる世論が湧いている。監督やコーチの指示に対し、理由を問うたり意見を言える立場、環境ではなかったにもかかわらず、このような会見に挑んだことは、確かにとても勇気ある行動だ。しかし一方で、その組織に属している以上、声を上げることのできない部員たちがおり、無邪気な称賛で、告発することのできない立場の人々を追い詰めることになってはいけないという危惧もある。

 選手の会見後に日大広報部は公式コメントを発表。かなり短いものであった。そこでは<コーチから「1プレー目で(相手の)QBをつぶせ」という言葉があったことは事実>としながら、<ただ、これは本学フットボール部においてゲーム前によく使う言葉で、「最初のプレーから思い切って当たれ」という意味です。誤解を招いたとすれば、言葉足らずであったと心苦しく思います>と説明。そして選手と監督・コーチの<コミュニケーションが不足していたことにつきまして、反省いたしております>と締めている。つまり、コミュニケーション不足による誤解が大本の原因だという見解だ。

 では、選手が会見で説明したその他の言葉についてはどう捉えているのだろうか。組織として事実を説明しようとはしなかった。コーチから掛けられたという「相手のQBとは知り合いなのか」「関学との定期戦がなくなってもいいだろう」「相手のQBがケガをして、秋の試合に出られなかったら、こっちの得だろう。これは本当にやらなくてはいけないぞ」。そこには明確に“相手のQBにケガをさせ、秋の試合にも出られないようにしてやれ”という意図があるのではないか。さらに試合後、相手選手が負傷し、日大選手が反則行為で退場になっているにもかかわらず、監督は「こいつのは自分がやらせた。こいつが成長してくれるんならそれでいい。相手のことを考える必要はない」という話をしたという。日大が組織として選手を、そして、それこそ監督や部を守る気があるのなら、詳細な経緯についてこそ丁寧な説明が必要だ。

中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

バナナ&ストロベリー

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