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『おっさんずラブ』が私たちに教えてくれた大切なこと

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『おっさんずラブ』公式Instagramより

『おっさんずラブ』公式Instagramより

 視聴率こそ振るってはいないが、今期もっとも話題になった連続ドラマは『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)だろう。サラリーマンの男性間の恋愛模様をコミカルに描き、SNSを中心に大反響を巻き起こした。面白いのは、小難しい言葉で説明することなく、「恋愛は異性間だけのものじゃない」ことをすんなり理解させ、視聴者が腑に落ちるつくりになっていることだ。「なよなよした男」「オカマ」「オネエ」といったキャラ付けをした「男を好きになる男」は登場しない。一般的なサラリーマン男性たちが恋愛感情をぶつけあう。派手な柄の服に身を包んで腰をクネクネさせて女言葉を使ったりしない、普通に普通の一般的な男性たち。『おっさんず』ラブは創作だが、現実もそうであるはずだろう。だから視聴していて違和感や引っ掛かりがなく、恋愛模様そのものをピュアに楽しみのめりこむことが出来た。

 そのうえで、『おっさんずラブ』はいまどき珍しいほどストレートな恋愛ドラマだ。既婚者だった黒澤武蔵(吉田鋼太郎)は、勤務先の部下・春田創一(田中圭)への恋心を募らせて離婚。妻・蝶子(大塚寧々)は大変なショックを受けるが、武蔵の真剣さと乙女心を知り、春田との恋を応援する。しかし同僚の営業部員・牧凌太(林遣都)も春田に告白し、結局、異性愛者だったはずの春田は牧の気持ちを受け入れて交際することに。傷心の武蔵。

 しかし牧と春田の恋愛もすんなりハッピーエンドに向かわず、繊細で気遣い屋の牧と、優しいけれど鈍感な春田の気持ちはすれ違う。最終的に、春田の母親と会った牧は「普通に女の子と結婚して子供を持ってほしい」という母から息子への何気ない希望を聞いて、身を引く決意を固めた。春田も牧のことが好きなのに、牧は頑なに別れの気持ちを告げる。なんて切ない……。蝶子さんが見ていたらきっと号泣している。

Instagram「武蔵の部屋」より

Instagram「武蔵の部屋」より

 と、切なさやキュンキュンポイントも満載なのだが、なんといっても最初に注目を浴びたのは役者と演出のギャップからくる「笑い」だった。なにしろ重厚なコワモテおじさんの吉田鋼太郎が、乙女なヒロイン役なのである。第一話、武蔵を演じる吉田鋼太郎の舞台演劇で鍛えられた声量をいかんなく発揮した愛の告白で視聴者の度肝を抜き、スピーディかつコミカルに物語が展開。飽きさせることなくあっという間に最終回まで到達してしまった。主人公“はるたん”こと春田を演じる田中圭の顔芸、牧の健気な性格を的確に表現した林遣都の芝居、牧の元カレである主任・眞島秀和のド真面目な顔でおかしなセリフ……すべてがパズルのピースのようにぴたりとハマッていた。これはひとつの奇跡だ。特に林遣都の芝居は秀逸で、恋ってこんなにせつないものだったんだよね……と忘れかけていた感情を思い出させてくれた。

 第6話のラストで牧と破局した春田。しかし一年後には、なぜか……武蔵と同棲という運びになっている。牧と別れて傷心の春田を、武蔵はその大きな愛でもてなし、癒し、甘やかし、手料理で手なずけ、念願の恋人同士となったのだろう。この展開に、牧と春田カップルの幸せを願っていた視聴者は衝撃を受けている様子だったが、まだ最後の最後までわからない。今度は牧の「ちょっと待ったぁぁーーーーーー!」コールが入るかもしれないのだ。そして最後に必ず“誰かと誰かがくっつく”のだけが恋愛ドラマのセオリーでもない。『東京ラブストーリー』を思い出してほしい。どんなふうに物語が幕を閉じるのか、事前予想してもナンセンスだ。今はただ最終回の放送を待ち、放送後はその余韻を噛み締めよう。そして幕が閉じても彼らの物語は続く。

(清水美早紀)

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