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プリキュアが示した多様性と他者の尊重 『HUGっと!プリキュア』で名言「人の心をしばるな!」

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『HUGっと!プリキュア』東映アニメーション公式より

『HUGっと!プリキュア』東映アニメーション公式より

 放送中のアニメ『HUGっと!プリキュア』(テレビ朝日系)が俄かに話題となっている。610日放送の第19話「ワクワク!憧れのランウェイデビュー!?」が、子供たちを覆うジェンダーの抑圧に直接的に切り込む内容だったためだ。

 今年2月より放送中の『はぐプリ』こと『HUGっと!プリキュア』は、女子中学生の野乃はなたちが、悪の組織・クライアス社から逃れて未来からやってきた女の子の赤ちゃん・はぐたんを育てながら、「プリキュア」に変身して組織と闘うストーリー。

 2004年に始まった「プリキュア」シリーズの第15シリーズ目となる『はぐプリ』のテーマが「子育て」と知った時、個人的には、なぜ今になって「子育て」がテーマ? と疑問がないわけじゃなかった。「プリキュア」といえば強い女ヒーロー、でも子育てしているお母さんってそんなに強い存在だろうか? 母性礼賛に陥ってしまいかねないのではないか? と。

 しかし、『はぐプリ』のキャッチコピーは「なんでもできる! なんでもなれる! 輝く未来を抱きしめて!」であり、女児の未来を“優しいお母さん”と決め付けているわけではもちろんない。いわゆるワンオペ育児を賛美したり、ジェンダーロールを強化するような描写とならないよう配慮もされている。

 そんな『はぐプリ』第19話の内容は、名台詞のオンパレードだった。

 第19話でメインとなるのは、プリキュアの3人ではない。野乃はなの妹の同級生で過剰な心配性の少女・愛崎えみる、クライアス社の人類管理用アンドロイドでプリキュアの秘密を探るため野乃はなたちに近づいたルールー、美形の男子フィギュアスケーター・若宮アンリという、いわばサブキャラの3人だ。

 えみるとルールーは、アンリからファッションショーに出ないかと誘われる。“大和撫子とパリジャンのダブル”で海外生活経験もあるアンリは、学校の制服のネクタイをリボン結びにするなど自分らしいスタイルで過ごす少年で、そのことをえみるの兄・愛崎正人に咎められるが<そんな校則あったっけ?>と意に介さない。正人はそんなアンリに敵対心を抱き、<女子みたいだよ、君の格好><男子の中で浮いている>とバカにする。正人は祖父から「男は男らしく、女は女らしく」という価値観を植え付けられた少年で、妹えみるがギターを弾くことにも反対している。

 プリキュアを応援しているファッションデザイナー・吉見リタは、<プリキュアはアンビリバボーなヒーローだもの! とげとげした気分が大暴れした後のようにすっきり! 女の子だって力いっぱい活躍できるのよ!>と言い、ファッションショーのタイトルを『女の子もヒーローになれる!』に決める。このタイトルそのものにも嫌悪感を抱く正人は、<おかしいよね。ヒーローって男のための言葉だよ。女の子は守られる側だ。言葉は正しく使わなきゃ><女の子はヒーローにはなれない>と妹えみるを連れて帰ろうとする。

 元々「女の子だって暴れたい」から始まった「プリキュア」シリーズだが、こうも露骨に女性ヒーローを否定するようなキャラクターは初ではないだろうか。野乃はなは、<誰の心にだってヒーローはいるんだよ! 人の心をしばるな!>と反論。ショーのために白いドレスをまとったアンリも、毅然と<すごく素敵だって思ったからだ><ボクは自分のしたい格好をする。自分で自分の心に制約をかける。それこそ時間…人生のむだ>と言ってのける。実に清々しい。ジェンダーロール概念に限らず、他人に価値観を押し付け心を縛ろうとすることも、他人の目ばかり気にして自分で自分を縛ることも、“人生のむだ”なのだ。『プリキュア』の中心視聴者であろう未就学~小学校低学年女児たちが数年後思春期を迎えた時に、誰にも心を縛られず、また誰かの心を縛ることなく成長するための指針になるような言葉である。

 クライアス社に目をつけられ怪物オシマイダーとなった正人。オシマイダーに捕まったアンリの元に変身したプリキュアたちが駆けつけると、アンリは<遅いよ、ヒーロー。これ、ボク、お姫さまポジションになっちゃってない?>。するとキュアエール(はな)は<いいんだよ! 男の子だってお姫さまになれる!>と力強く言い、オシマイダーに立ち向かうのだった。

 女の子だって暴れたいし、女の子だってヒーローになれる。歴代の「プリキュア」シリーズで一貫して伝えられてきたメッセージだったが、今回は非常に直接的だ。

 また、オシマイダーの素体が正人だと悟ったアンリは、こうも言う。

そうか、君も苦しいのか…。ごめんね。けど、ボクは君のためにボクをかえることはできない。誰に何を言われたってかまわない。ボクの人生はボクのものだ。ボクはボクの心を大切にする。だってこれがボク、若宮アンリだから。君も君の心をもっと、愛して

 相手には相手の苦しみがあることを理解する、だからといって相手のために自分を変える必要はないのだということだ。他者と考えがすれ違い、イライラしたりウジウジしたりすることは大人も子供もあるだろう。友達でも恋人でも家族に対しても、好きな相手に対しても嫌いな相手に対しても。自分と相手の違いが受け入れられず苦しくなることもある。けれどそんな時、相手を尊重し、かつ自分の心も尊重すればいいのだと知っていたら、少し楽になるだろう。子供たちに「自分を大切にして」「人のことも否定しないで」とダイレクトに伝えたことの意義は大きい。

 若宮アンリは「お姫さま」と言われたけれど、守られるだけの存在というわけでもない。自立し、自分の心と自主性を大事にしている少年だ。彼もまた、かっこいい存在である。「女の子だって、暴れたい」し、「男の子だってお姫さまになれる」という多様性を打ち出した今回の『プリキュア』が、多くの子供たちの心に残ってほしい。

中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

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