今年上半期、俳優・松坂桃李(29)は目覚ましい活躍を見せた。今年4月に公開された主演映画『娼年』は、その過激な演出は観客をどよめかせた。『娼年』で松坂桃李が演じたのは“リョウ”という娼夫。R18指定映画ならではの濃厚なラブシーンで殻を破った。濡れ場を堪能できるとあって、映画館には連日多くの観客が詰め掛け、女性客限定での応援上映まで催されたことは記憶に新しい。サイリウムを光らせ太鼓を鳴らしながら「がんばれー」とリョウの成長を応援するという、新しい形の濡れ場鑑賞だ。
そもそも松坂桃李はノースキャンダルで、週刊誌に追われてもお一人様焼肉を激写されるような好青年キャラクター。しかし朴訥な好青年役オンリーには収まらない役者としての広がりを持っている。その向上心が、今年はどんどん表に出ている。娼夫役で衝撃を与えた松坂桃李は、5月公開の『孤狼の血』で新人刑事・日岡秀一役を演じた。R15のバイオレンスな作品で、役所広司(62)が演じる黒い噂が絶えない刑事・大上章吾とタッグを組み、大御所俳優たちとがっぷりよつで挑んだ。同作での松坂桃李はストロークが広い。日岡は正義感の強い一流大学出の刑事だが、違法捜査をも辞さない大上の影響で「正義」に対する固定観念を崩されていく。ストーリーの進行と共に移ろう日岡の心情を、松坂桃李は見事に表現し切っていた。
さて、快進撃はまだ続く。7月から始まる連続ドラマ『この世界の片隅に』(TBS系)にメインキャスト・北條周作役で出演するのだ。こうの史代による同名漫画が原作の、いわずと知れた注目作。2016年に公開されたアニメーション映画は「第40回日本アカデミー賞」の最優秀アニメーション作品賞を受賞した。「第21回 文化庁メディア芸術祭」アニメーション部門の大賞にも選ばれ、2018年現在でも劇場での上映が続くロングラン作品となった。
アニメ映画としての『この世界の片隅に』はとにかく評価が高く、原作同様の綿密な人物描写が特徴。劇場版の監督・片渕須直氏は「第21回 文化庁メディア芸術祭」の受賞作品展内覧会で、「映画の中では、18歳の主婦・すずさんの生活が描かれています。その生活のディテールはどうだったのだろう? どんな家に住んでいて、その家には何があったんだろう? ということを考えました」と語っていた。ちなみに、すずの声を当てたのは能年玲奈。彼女のみずみずしい演技はすずに魂を吹き込んだ。
『この世界の片隅に』は2011年夏にも日本テレビ系で実写ドラマ化されたことがある。当時、すずを演じたのは北川景子で、その夫である北條周作は小出恵介だった。このドラマ版は残念ながら、のちのアニメ映画ほど評価されたとは言い難い。再びの実写ドラマ化に当たって、制作陣へのプレッシャーは大きいと見られる。
ただ、アニメ映画版では端折られたところもある。周作と過去に関係のあった娼婦・りんが、すずと交流するくだりだ。やはりわずか2時間という尺で、原作3巻分を表現しきることは困難を伴う。だが今回の連続ドラマ版では、そのパートも含めて丁寧に描かれていくことになるだろう。りん役は二階堂ふみだ。必然的に、周作の心の動き、周作とすずの深まる絆も描かれることになっていくはずだ。
日本にとって、嫌が応にもあの戦争を振り返ることになる季節・夏。この夏に『この世界の片隅に』を3カ月かけて届けることは大きな意義を持つだろう。主人公のすずにはまだ色の付いていない女優・松本穂香(21)が抜擢された。同作の舞台は広島・呉市であり、登場人物たちは“呉弁”を喋ることになるが、松坂桃李は制作発表時の囲み取材で「呉の人たちが聞いても“ちゃんと喋ってるな”と言ってもらえることを目指して、方言指導の方と向き合っていきたい」と語っている。また『孤狼の血』で役所広司らの呉弁に触れていたことも彼の強みだ。今とは違う時代、だけれどそこに確かに彼らがいたーーその圧倒的なリアリティを感じさせる作品を、スタッフ・キャスト一丸となって作り上げることだろう。撮影は5月上旬から快調に進んでいるという。放送開始を楽しみに待ちたい。
(ボンゾ)