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ワールドカップで露呈した「オールジャパン」指向の排外主義的な危うさ

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Thinstock/Photo by Wavebreakmedia Ltd

 日本時間73日早朝に行われた、2018FIFAワールドカップロシア大会の日本とベルギーの試合。日本は2点先制しながらも、3点を返されて逆転負けを喫し、悲願のベスト8進出は夢と消えた。しかし、FIFAランキング3位の強豪(日本のランクは61位)を相手に善戦した日本代表選手らの姿は日本中に感動を呼んだ。

 そんななかで、試合内容や結果とはまた別のところで話題となっていることがある。

 この試合はNHKで生中継されていたのだが、試合終了直後、中継アナウンサーからこんな言葉が漏れたのだ。

<監督が代わってオールジャパンで挑んだ今大会です>

 また、試合終了直後に行われた西野朗監督へのインタビューでは、インタビュアーがこんな質問を投げかけていた。

<西野監督のもと、日本のスタッフで戦ったこの大会の意味、日本らしいサッカーとはどんなものでしょうか?>

 言うまでもなく、今大会のワールドカップの結果は「日本人だけ」でつかみ取ったものではない。ワールドカップ出場権を獲得したのは2015年に日本代表監督に就任したヴァヒド・ハリルホジッチ前監督による指揮のもとであった。20184月にハリルホジッチ前監督は突如解任されているが、西野監督体制になったチームにもハリルホジッチ前監督によって培われたものは確実に反映されている。

 それにも関わらず、繰り返し使われた「オールジャパン」や「日本のスタッフで戦った」といった言葉に視聴者からは疑問の声が多く起きた。たとえば、コラムニストの小田嶋隆氏は<NHKのアナウンサー「監督が代わってオールジャパンで挑んだワールドカップ」っていう言い草はないんじゃないか?>とツイートし、その表現に疑問を呈している。

 この「オールジャパン」なる言葉は、ここで初めて使われたわけではない。49日に行われた、ハリルホジッチ解任および西野氏の監督就任を発表する記者会見で、日本サッカー協会の田嶋幸三会長は<この危機をいい方向に持っていきたい。オールジャパンで。日本が団結していくチャンスにしたい>といった発言を残している。

 『オシムの言葉』(集英社インターナショナル)など、サッカーに関する書籍を多数出版しているノンフィクション作家の木村元彦氏は、「サンデー毎日」(毎日新聞出版)2018715日号に「ハリル前監督の“遺産”から目を背けるな」というコラムを寄稿。下馬評を大きく覆した成果に「結果オーライ」とするのではなく、ハリル前監督解任の真相についてきちんと検証すべきであると主張したうえで、前述した田嶋会長の「オールジャパン」発言について、このように綴っている。

<田嶋会長は西野朗監督就任を発表した会見でこう言った。指揮官が外国人であったことが団結を妨げていたかのような排外主義的な物言いで、看過することはできない。海外の優秀な監督は、今後は怖くて日本に来られないのではないか>

 また、71日深夜放送『2018FIFAワールドカップ デイリーハイライト』(TBS)にて、前園真聖、釜本邦茂、ヒデ(ペナルティ)、中田浩二、鈴木啓太、ラモス瑠偉といった識者が集まった討論会があった。

 そのなかで「次の日本代表監督は日本人か良いか、外国人が良いか」といった質問に対し、ラモス瑠偉だけはどちらとも答えずに回答を拒否(鈴木啓太のみが外国人と答え、それ以外のパネラーは全員日本人と回答)。その理由を問われたラモスはこのように説明していた。

<だって、監督になるには国籍関係ないじゃん。日本人のサッカーをよく知ってるし、日本人の選手のこともよく知っていて、日本人の選手の良さを引き出せる監督が必要だと思います。プラス、アジアのサッカーの認識もある監督が必要じゃないかなと思っています。それは、日本人だろうが、外人だろうが(関係ない)>

 その通りだろう。日本代表チームをより強く、世界の強豪相手にも通用するチームに育て上げてくれるのであれば、日本人監督だろうと、外国人監督だろうとどちらでも構わない。そもそも、この議題自体が愚問なのだ。

 ワールドカップロシア大会における、日本代表選手、西野監督、日本代表チームスタッフの努力と健闘は大いに讃えられるものだ。しかし、その一方で、不可解な要素も多く残されているハリルホジッチ前監督解任の真相究明、そして、日本サッカー協会やスポーツメディアに見え隠れし始めた排外主義の指向と向き合う作業は確実に必要だろう。

(倉野尾 実)

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