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伊藤詩織氏の告発に対する海外メディアと日本の主要メディアの扱い方の差が生み出してしまったもの

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BBC Two『Japan’s Secret Shame』番組HPより

 628日に、BBCの英国向けテレビチャンネルBBC Twoにて放送された、ジャーナリスト・山口敬之氏からの準強姦被害を訴えている伊藤詩織氏を取り上げたドキュメンタリー『Japan’s Secret Shame』。Wezzyでもこれまで二度にわたりこの番組への日本国内の反応をテーマにした記事を配信してきた(リンク1)(リンク2)。

 『Japan’s Secret Shame』は、伊藤氏が主張している準強姦被害について紹介し(そのなかでは、山口氏が安倍首相の自伝本を書くなど、首相に近しい人物であったことが逮捕取りやめに影響を与えている可能性を示唆していた)、そのうえで、伊藤氏の体験から明るみになった、日本における性暴力被害者への無理解と、被害者へのケアや支援制度の不備を扱ったドキュメンタリーである。

 伊藤氏のこの問題については、これまで日本の主要メディアではほとんどまともに報じられてこなかった。しかし、その一方、今回のBBC(イギリス)をはじめ、ニューヨーク・タイムズ(アメリカ)、フィガロ(フランス)など、海外では大手メディアが取り上げてきたという経緯がある。

 東京新聞社会部記者の望月衣塑子氏とニューヨーク・タイムズ前東京支局長のマーティン・ファクラー氏による対談本『権力と新聞の大問題』(集英社)にて望月氏は、<フリージャーナリストの伊藤詩織さんが警察に「性的暴行を受けた」と訴えた事件についての新聞報道は、まさに時代に追いついていない、大手新聞の旧体質そのものでした>と語り、日本国内の主要メディアでまともにこの問題を報じられなかったという事実が、まさしく現在のメディアの「遅れ」を象徴する出来事であったと振り返る。

 新聞に関してはまったく扱えていなかったわけではない。記者会見を開き、検察審査会の不起訴処分に異議申し立てする様子は、東京新聞や朝日新聞が報じている。しかし、あくまでベタ記事扱いであり、目立つものではなかったと望月氏は説明する。

 では、なぜ、日本の主要メディアは伊藤詩織氏の話を大々的に扱えなかったのか? マーティン・ファクラー氏はこのように分析している。

<その背景には、やはりアクセス・ジャーナリズムが潜んでいる感じがしますね。司法記者クラブ側が検事や検察審査会の側に対して「一度不起訴になった件を掘り起こして大きく報じるとアクセスに亀裂が入りかねない」という忖度がきっとあるんでしょうね>

 伊藤氏が会見を開いたのは20175月。同年10月に彼女は著書『Black Box』(文藝春秋)を出版。本を通じて、準強姦被害の経緯やその後の対応、また、日本における性暴力被害者ケアの不備を訴えた。

 「現代思想」(青土社)20187月号でのインタビューで伊藤氏は<日本では記者会見後にはあまり大きな反応はなかった>としつつ、<『Black Box』を書いてから大きな反響を得たという感触があります>と語り、『Black Box』出版以降で明らかにメディアの扱いが変わったと証言している。そこで浮かび上がったのは、『Black Box』が出版されるまで、伊藤氏への取材企画が各メディアで「ボツ」にされていたという事実だった。

<私のことを報道してくださった記者さんたちに伺うと、それまでも「被害を報道したい」と思ってもなかなか企画が通らなかったそうです。ただ、例えば私が本を書いたことで「著者インタビュー」といったこれまでとは異なるアングルでこの問題を取り上げてもらえるようになりました。これは去年の10月からすごく変わった点だと感じています>

 ただ、今回の事件に関する取材を通じて伊藤氏が本当に訴えたいことは、まだまだ伝わっていないと言わざるを得ない。

 伊藤氏は一貫して、日本における性暴力被害者に対するケアの不足を訴え続けてきた。たとえば、性暴力被害者のためのホットラインが被害者目線の救済を行えていないということや、暴行直後に法医学的証拠を残すための「レイプキット」をどこに行けば使わせてもらえるのかという情報にアクセスしにくいという現状を指摘していた。制度的不備は警察においても同じで、性暴力被害に関する相談を男性警察官相手にしなければならなかった心理的負担も伊藤氏は明かしている。

 これらのことはBBCの『Japan’s Secret Shame』でも、『Black Box』でも、繰り返し主張しているのだが、日本の主要メディア、特に地上波のテレビ放送では扱っていない。その結果として起きたのが『Japan’s Secret Shame』放送後に日本国内で起きた反応、特にネット右翼層からの反応だろう。

 『Japan’s Secret Shame』放送後には、<BBCの反日ぶりは、特に際立っている。反日ネタは視聴率がとれるらしい>などという、見当違いも甚だしい投稿がインターネット上に放たれた。また、それだけにとどまらず、<秘められた恥…知ってる知ってる! 伊藤なんとかっていう枕営業失敗したから、セクハラとか騒いでるけど、極一部以外には相手にされない売女のことでしょ?>といったセカンドレイプ以外なにものでもない文章も投稿されている。

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