社会

月経中に泳ぎたい女性にも、泳ぎたくない女性にも。元水泳選手でスポーツドクターの産婦人科医が伝えたいこと

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感染リスクは「正しく恐れる」

 「エイズはお風呂やプールでうつりません」というコピーは有名ですね。でも「ただし、月経中の女性は除く」とはどこにも書いていません。血液や体液によって感染するウイルスはHIV(ヒト免疫不全ウイルス;いわゆるAIDSの原因となるウイルス)以外にB型、C型肝炎ウイルスが知られていますが、残念ながら予防接種(ワクチン)で予防できるのは現時点ではB型肝炎ウイルスくらい。ですが、空気感染する麻疹(はしか)などのウイルスと違い「血液・体液に直接触れないこと」で感染から身を守ることが可能で、さらに目に見えやすい血液に直接触れないようにすることは、それほど難しいことではないはずです。それを踏まえ、学会の指針では、月経中の水泳による感染リスクについては「大丈夫」とされています。

 もちろん、水中やプールサイドに月経血がまったく漏れない、1滴も落ちないということはありません。日本産科婦人科学会は正常月経を「持続日数は37日、出血量は20140ml」と定義しています。それを考えると、プールで過ごす数時間での経血量は数mlにすぎないはずです。それがプールのような大量の水の中に流れても他者への感染力はないと考えられています。もし月経血が感染源になる恐れがあるのなら、「帯下(おりもの)」だって問題視されなくてはいけません。でも、「おりものが多い日は泳ぐな」とは言いませんよね。

 「プールサイドではみんな裸足だから危険」という声もありました。しかし、裸で入るお風呂とは違って、プールでは水着の股の部分から大腿を伝って足元に流れることがほとんどです。多くは地面に到達するまでに気づきます。日頃から血液らしきものに直接触れない、踏まないという教育を徹底することは重要です。もしもプールサイドに血液が滴ったら、幸いプールサイドでは大量の水で洗い流すことが可能です。教室で鼻血が出たときより対処しやすいとも考えられます。

タンポンは必須とは言えない

 問題になる「流血」ですが、膣内で経血の流出を食い止めてくれるタンポンの他、最近はシリコン製の月経血カップも出てきました。それらが使えればほぼ問題ありません。しかし、ローティーンはもちろん大人の女性でも、性交経験があろうがなかろうが膣内に物を入れることに抵抗を感じる人は少なくありません。そういう人だって、月経中に泳ぐ権利はあるはずです。泳いでいる最中は、水圧の関係で膣からの流血は起こりにくいとされ、股間をまじまじと見続けることがない限り、月経中だと気づかれることはないでしょう。

 また、水着がフィルターの役目を果たすこともあり、血液以外のもの(子宮内膜など)が出てしまうということは非現実的です。それでもやはり水に入る前、水から出た後の「流血騒動」は避けたいもの。スイミングスクールや水泳部では、女性コーチや先輩から知恵や工夫が伝承、共有され、お互いにカバーしあって練習していることが多いようです。初経がきた時点でタンポンを使えるように母親と練習したという人もいるようですが、多くはプールに入る直前までナプキンをつけておいて入水の直前にトイレで外し、水からあがったら濃い色のバスタオルをかけたり、ジャージを穿いたりしてすぐにトイレに向かうなどの対応をしています。飛び込み練習では最後に飛ぶなど、もしも経血が流れても人目につかないように工夫、サポートしあうのです。

問題なのは多様性を認めない管理

 そもそも、現代の学校の水泳の授業で、どんなに暑かろうが寒かろうがプールサイドで座ったまま長い時間待たされる、タオルやジャージなどを自由に使えない、トイレに自由に行けないことのほうが大きな問題でしょう。プールの近くに更衣室がない、トイレがないなどは、もってのほかです。

 最近は体操服もブルマではなく短パンが主流になっているように、競泳界ではスパッツ型水着が主流になってきています。スクール水着もスパッツ型が定着するといいですね。もちろん、紺や黒など血液が目立たない色がよいでしょう。

 一方で、今回インターネット上で話題になったのは、学校で「月経だからといって休む理由にはならない」と泳ぐことを強制されたり、そのためにタンポンの使用を強制されたり、泳がなかった場合に「罰」のようなものが課されたりするという「児童・生徒の人権に関わる指導」が行われている現状でした。そのような指導が行われれば、「月経中に泳いでもいい」と言われても反発する人がでてきても不思議ではありません。いかに学会の指針が現場に届いていないか、それどころか「強制」の根拠にされている恐れもあることに愕然としました。今後関係学会で実態調査を行い、事実なら改善を求めるよう提言しなくてはいけないと考えています。

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