JR東日本は今月3日、鉄道車両内におけるさらなるセキュリティ向上として、首都圏を走行する在来線車両と新幹線車両の一部にも防犯カメラを追加設置することを発表した。現在行われている、山手線E235系の車内防犯カメラ設置および今後新たに製造するすべての旅客車両への防犯カメラ設置に加えての追加設置となる。
今回、JR東日本が新たに防犯カメラの追加設置を決めたのは、6月9日に起きた東海道新幹線での事件の影響が大きいだろう。新大阪行きの東海道新幹線のぞみ265号で乗客の男女3名が殺傷された事件は、世間に大きな衝撃を与え、新幹線の安全性を問われるものであった。JR東日本では、2015年6月に起きた、のぞみ225号で男性が車両内と自身の身体に油をまいて焼身自殺をはかり、犯人と乗客の女性1名が亡くなるという事件の後にも、東海道・山陽新幹線の車両に防犯カメラを設置することが発表されていた。
鉄道車両内に防犯カメラを設置する取り組みは現在、各鉄道会社で行われており、例えば東急電鉄は2020年までに全車両に防犯カメラを設置する取り組みを進めている。
防犯カメラの設置目的は、テロ行為や今回のような事件を防止するためだけでなく、痴漢行為などの強制わいせつの抑止もあげられる。2009年には初めて、JR東日本が埼京線に「痴漢防止目的」で防犯カメラを設置している。当時の報道によれば、防犯カメラ設置後、埼京線での痴漢摘発件数が前年に比べておよそ40件減少していた。私鉄で初めて防犯カメラを設置した京王線も、やはり目的は「痴漢防止」であった。
防犯カメラの設置は事件の「防止」だけでなく、事件発生後の犯人特定や検証にも映像を利用できる。前述の6月に起きた事件では、神奈川県警がJR東海に防犯カメラの映像の提供を求め検証を行っていることが報道されており、また2017年11月に埼京線で男性4人が女性を集団痴漢した事件では、防犯カメラの映像から犯人を特定したとされている。
痴漢に関するデータは、調査によってばらつきがみられるが、「平成27年 犯罪白書」によれば、平成26年中の「電車内における強制わいせつの認知件数」は283件。しかし警察庁が2011年3月にまとめた「電車内の痴漢防止に係る研究会」では、過去1年の間に痴漢被害を受けた人のうち警察への届け出をした人はわずか2.6%にとどまっているとされている。実際には数十倍の被害者が存在している可能性がある。
すでに防犯カメラを導入した埼京線で、痴漢摘発件数がおよそ40件減ったと書いたが、被害を届け出した人が2.6%程度と考えると、摘発件数の減少よりも、カメラの導入によって犯罪抑止となり、実際に被害を受けずにすんだ人のほうが多い可能性も考えられる。事件の抑止としても、事件発生後の検証としても、防犯カメラの有効性が確認できそうだ。
痴漢に限らず、公共交通機関での犯罪をなくしていくためにも詳細なデータをひとつずつ積み重ねていき、なにが犯罪防止に有効な手立てなのかを引き続き議論していくことが望ましい。