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ピル普及を阻む「自然体=健康なはず」という無意識な信仰

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 血栓症とは、簡単に言えば、血管に血の塊が詰まってしまう症状だ。脳梗塞や心筋梗塞の原因でもある。血液は常に循環していなければならず、一部が詰まると身体に何かしらの影響が出る。血管にも太い箇所と細い箇所があるわけだが、たとえば太ももの静脈は太い。そこに血栓(小さな生レバー、あるいは粘着力の高いカサブタをイメージしてみてほしい)ができると、血流が悪くなり、下肢がむくんだりする。この「太い血管にできた血栓」が、血流にのって「そこよりも太くない血管」へ運ばれていく。その結果、血管が詰まって亡くなってしまう。今回は太ももの静脈でできた血栓により肺の動脈が詰まり亡くなった(肺塞栓症)2女性の死亡例が取り上げられた。いずれも月経困難症によりピルを服用していた患者で、ひとりは10代(子宮内膜症も)、もう一人は40代である。

 ただ、「ピルを飲むと血がドロドロになって詰まりやすくなる!?」と単純に考えてはいけない。生活習慣やその他の要因によっても血栓はできてしまう。女性の場合、妊娠中や分娩後に発生頻度が高まることが確認されている。また、カナダ産婦人科学会の調査では、低用量ピル使用中の死亡率は10万人あたり1人以下と報告されている。

 患者やその家族が効果と副作用について十分に理解し納得したうえで服用しなければ危険が伴うのは、どの薬剤でも同じことだ。100%安全なものでないと安心できない、というゼロリスク信仰こそが不安を生み、不測の事態に備えられない心理状況を作り上げてしまう。「この薬はどういったもので、どんなメリットとリスクがあるのか」という知識を医療側・患者側の両者が共有しておくことは、どんな薬に対してもデメリットにはならないはずである。提供される物を享受するだけで、自覚的か無自覚かを問わずゼロリスクを信じてしまう患者側の「お客様意識」を変えることが予防の一端となる。自らそれを選択している、と自覚することが肝要だろう。

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