歌舞伎町である必然性も、前田敦子の濡れ場もない、なんにもない映画『さよなら歌舞伎町』

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 どうやら明日帰国予定らしい彼女は、彼氏との今後がはっきりしないまま、デリヘルバイト最後のその日も真面目に働いている。その彼女の献身的な仕事っぷりたるや。客への疑いなきサービスと愛の注ぎ方が、異様なほど過剰なのだ(暴力的な客に対しても最終的には相手をぎゅっと抱きしめたり、馴染みの店長にお別れのプレゼントをしたり。ヘイトスピーチを目の当たりにしても無反応だ)。しかし最後まで見てみても、そこに何か理由や意味があるわけでなく、ヘナはどこまでもただ「いい娘」なだけで、まるで天使のようだ。こんな女はこの世に存在しないだろう(してほしい、という願望かもしれないが)。現実、客に対してどこまでも人当たり良い接客を貫くデリヘル嬢もいるだろうが、裏では愚痴のひとつもこぼすのが生身の人間だろうに。

 偶像っぽいヘナがデリヘル業を頑張っているその頃、音楽プロデューサー(大森南朋)にデビューをちらつかせられた前田敦子が、そのホテルへ「枕営業」を実施するためやって来て、勤務中の染谷将太とばったり遭遇してしまう。同棲中の彼女が他の男を伴って、自分が店長を務めるラブホに来るなんて、そうそうない。しかも染谷はあっちゃんに「俺は一流ホテルのホテルマン」と偽って交際していたので、その嘘もここでバレてしまったわけだ。

 愕然としながらもなす術を持たず何もできない染谷は、結局彼女を守ることも、怒ることもできず、夜が明ける。

 ラブホ店長・染谷の嘘は、「だっていつかはここを出て、本当に一流ホテルに就職するんだもん!」という言い分で処理される。それに対し、正直に枕営業をしたと泣きながら告白するあっちゃん。すると、染谷はただ無言で去っていく……。そのシーンを見たとき、思わず「どないせいっちゅーねん!!」と叫びそうになってしまった。

 女は金や仕事をくれる相手には天使のように接し、しかしもちろん大切な彼氏にはそんな「汚い」仕事はバレないように、でもホテルの一室で殺されるかもしれない危険性からは客も彼氏も守ってくれないよ。そんな、女を人間扱いしない歌舞伎町の恐ろしさを伝えるにしても、わかりにく過ぎる。

 最終的に、タイトルの「さよなら」は、ただそこで働くことに疲れた人間が地元に帰りましたとさというだけの話で、映画自体も、現実に存在する歌舞伎町やそこにいる人々へ何かメッセージを送る気はなさそうだ。

 アメリカでは『ゴーン・ガール』がヒットしてる時代に、日本ではこんな映画が作られている以上、キャバクラに来てキャバ嬢に「こんな仕事してちゃダメだよ」とかなんとか説教する様な男が押し寄せる歌舞伎町は、これから先も当然のように存在し続けるんだろうなと、暗澹たる気持ちになったのだった(ちなみにもちろん前田あっちゃんの濡れ場はございません)。

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