3月4日、2010年夏に発覚した大阪二児放置死事件をもとに作られた映画『子宮に沈める』(2013年11月公開)のDVDが発売される。
親による子供への虐待事件はあとを絶たない。2010年7月、3歳の女の子と1歳9か月の男の子が母親の育児放棄によって餓死しているのが発覚、母親が風俗で勤務していたなどの生い立ちが注目され、メディアでセンセーショナルに取り上げられた大阪二児放置死事件から5年弱。「虐待死」報道は半ば日常化してしまっている感さえある。今年に入ってからも、いくつもの虐待事件が報道された。以下、今年1~2月に発生し新聞で報じられた虐待事件だ。
1月21日、母親(33)が息子(8)の首を絞めて殺害しようとする殺人未遂事件が愛知県で発覚。容疑者は調べに対し「お金がなくて、子供を育てていく自信がなかった。子供を殺して、一緒に死ぬ予定だった」として容疑を認めている。
2月9日、千葉県で4歳と1歳の姉妹を殺害したとして母親(36)が逮捕されている。こちらの母親も「育児に疲れて娘を殺してしまった。自分も死のうとしたが死にきれなかった」と夫に話している。
同月16日、神奈川県で6歳と3歳の姉妹を殺害したとして母親(29)が逮捕されている。容疑者は「将来が不安になった。手で首を絞めた」と供述している。
この3件を見ても、子供の虐待死が“特殊な事情を持つ家庭”での出来事と思えるだろうか。大阪二児放置死事件は貧困に陥り実親の支援も見込めないシングルマザーによるものであったが、上記3件は「夫」のいる家庭で起こっている。
『子宮に沈める』で、「母性神話」によって女性が母性に閉じこめられてしまう姿を描いた緒方貴臣監督は、「子供を殺した」という事実だけで母親をバッシングするのではなく、虐待事件が起きてしまう原因を突き止め、当事者だけでなく社会全体で考えなくてはいけないと語る。
【『子宮に沈める』あらすじ】
家庭を顧みない夫から一方的に別れを切り出された専業主婦の由希子。シングルマザーとしてパート労働に就きながら2児を養おうとするものの、徐々に疲弊していく。経済的な困窮もあり夜の仕事を始めると、帰宅時間が深夜になり、次第に家事や育児が疎かになり部屋は荒れていく。やがて由希子は子供たちを置き去りにし、交際を始めた男のもとへ。アパートの一室に閉じ込められた2人の子供は、残飯や調味料を取りながら母の帰りを待つが、次第に衰弱し……。
風俗嬢という「わかりやすさ」に飛びつかない
―― 『子宮に沈める』は、2010年に起きた大阪二児放置死事件をモデルに、ふたりの子供を持つシングルマザーが育児を放棄するまでを描いた衝撃的な映画でした。なぜこの事件を題材にした映画を撮ろうと思われたのでしょうか?
緒方 2010年に大阪二児放置死事件が発覚したとき、“お母さんが子供を殺した”という報道への反応で、事件の背景も知らないのに、「鬼畜だ」「こうなるなら産まなきゃよかった」って叩いている人がたくさんいました。ぼく自身、この事件を知った初めはただただショックを受けるだけだったのですが、その後、逮捕されたお母さんのブログで、子供の幸せを祈っていたことを知り、加害者へのバッシングに違和感を覚えるようになったんです。そこで育児放棄を題材にした映画を撮ることにしたんですね。ぼくはこの映画を、当時お母さんを叩いていた人たちに見てほしいと思っていました。
―― それは育児当事者ではない人が大半かもしれませんし、また育児経験者やその渦中にいても「自分には関係ない、自分は虐待なんかしない」と思い込みたい人だったかもしれませんね。そういった層に映画は届いたのでしょうか?
緒方 もともと社会問題に関心のある人たちは多く見に来てくださったけれど、なかなか本来届けたかった人たちに見てもらえていないと感じました。それはこの映画がドキュメンタリーだと勘違いされていたり、あるいは社会問題を取り扱った小難しい映画だと思われているからかもしれません。そこでDVDはパッケージを……。
―― ホラーやサスペンスの棚に置いてあってもおかしくないような、生々しいパッケージに。
緒方 そうです。DVDは映画館での上映と違って、店頭でパッケージを見て借りる人が多いので、興味を惹きやすいように写真も文字も少し扇情的にしました。サスペンスやホラー映画だと思って手に取ってもらうことが、事件に関して考える人を増やすために効果的だと思ったんです。こういうのもまた叩かれちゃうんでしょうけど(笑)。