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シングルマザーを珍獣扱いする日本。再生産される「母性信仰」

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―― 聞き取り調査で、興味深い話はありましたか?

水無田 苦労している女性の話を聞く心構えでいたんですよね。それが、皆さん「離婚した今のほうが、家族にとってずっとハッピーです」とおっしゃるんですよ。聞き取りをした女性たちのうち、離別の方は夫がいることが子どもにとってマイナスと判断し、離婚に踏み切っていました。元夫について話してもらうと、本当に駄目なおっさんの駄目話ばかりで。「こんなに駄目なおっさんでも、一度は家庭が持てたんだ……この女性たちは天使みたいだなあ」って思いました(笑)。

―― 女性側の意見を聞けば、そういう話をされる方は多いでしょうね。

水無田 ただ、離婚ってエネルギーをとても使うんですよね。誰でもできるものではない。家庭裁判所で離婚調停手続きをとったり、親族の理解を得たり、引っ越しをするなら次の物件を探さなくちゃいけません。子どもがいるなら育児だって同時にしなくちゃいけませんよね。精神的に参って鬱を抱えて込んでしまう方もいます。

―― だからこそ、結婚生活で追い詰められていても、離婚できるほど精神面・経済面で余裕がなく、別れられない人もいる。内閣府の調査では、配偶者等から暴力を受けた被害者は、「離れて生活を始めるに当たっての困難」として54.9%の方が「当面の生活をするために必要なお金がない」と答えています。

水無田 経済基盤がないために、離婚できないという方もいるということですね。

水無田気流さん

水無田気流さん

―― ただ、結婚する時は「幸せな家庭」を思い描いてするものでしょうから、家族円満な状態の時に「奥さんも経済基盤を持って!」と言われても、他人事に受け止めてしまう女性は少なくないと思います。まさか自分が離婚することになるとは、と。

水無田 それでも、いま日本では婚姻件数が年間約67万組に対し離婚件数は約24万件なので、離婚率が35%、3件に1世帯が離婚などと言われますね。もっとも婚姻件数自体が減少しているのでこの数値は大げさかもしれませんが、人口千人あたりの離婚発生率も、過去40年で倍になっています。確実に、離婚は増えています。また離婚に限らず配偶者が病気になったり事故で死んでしまった場合も、よほど手厚い保障がなければ生活はあっという間に変わってしまいます。それらの家計破綻リスクは、一般に考えられているよりもずっと高い。ですから私は、大学ではいつも女子学生に、ライフステージが変化しても、稼得手段を手放さないことの重要性を説いています。

―― 言えるのは、「誰にでも起こりうる」ということですね。

水無田 結婚の際、女性が家事や育児の時間を確保するために仕事を辞めていたりキャリアアップを諦めていたら、離婚となった時、女性はたちまち経済弱者になってしまいます。子どもの養育をするならなおさらです。養育費も、日本では支払われていないケースが圧倒的に多いですからね。「全国母子世帯調査」では、母子世帯は60.7%、父子世帯は89.7%が「養育費を受けたことがない」という調査結果が出ているんですよ。さらに長期間継続して養育費を受けているのは、母子世帯で2割を切ります。額も少額で、母子世帯で養育費の額が決まっている場合の平均月額は、4万3482円です。これは、複数子どもがいる場合も含めた平均で、子どもがひとりでは平均3万5千円ほど。ちなみに、「自分の収入で経済的に問題ない」シングルマザーはたった2%ほどです。日本のシングルマザーは8割以上が働いているのに5割以上が貧困ですが、この背景には養育費の支払いの低水準も指摘されます。

―― 仮に、専業主婦で家事育児を担っていた妻が離婚し、シングルマザーとなった時、正社員雇用される可能性も低い。時給1000円のアルバイト職に就いて、子を保育園に預けながら毎日8時間・月20日間労働した場合では、月収が16万円です。そこに養育費の平均月額4万3482円を足して、20万3482円。この収入から毎月の保育料や税金、国民年金を納め、家賃や光熱費を支払い、食費をまかない、将来の教育資金やいざという時のための出費に備えて積み立てをする。具体的に数字を想像してみると、その大変さが目に見えます。そして子の養育費すらそもそも支払われていない現状を考えれば、シングルマザーの貧困は当然の事象と言っても過言でありません。

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