エンタメ

栗田貫一から妻への暴言「殺していい?」「死んで」…放送は妥当か

【この記事のキーワード】

あらゆるモノを奪う精神の吸血鬼?

 番組の制作側としては、三船美佳・高橋ジョージ夫妻の離婚騒動に端を発してにわかに注目を浴びている“モラル・ハラスメント”の夫婦の実例を挙げることで、番組を話題にさせたかったと見える。VTR上の栗田家の様子は絵に描いたようなモラハラ家庭で、まさしく好事例だからだ。しかし、どこからどこまで演出なのかわからないが、「殺していい?」「死んで」などの強烈な罵倒は、栗田にとって明らかなイメージダウン。それを本人了承済で放送にのせるということは、栗田にとっては全部“素”で、まさに「何がイケないの?」という気持ちなのかもしれない。

 これを見て「不愉快になった」という視聴者の声が多数ネット上にあがっているが、他にも「テレビで家族の恥部を公開するのはみっともない」「なんだかんだ愛し合ってる」「夫婦のことなんだから放っておけ」等の意見が出ている。しかし、問題は当人夫婦が納得しているかどうかではない。面白おかしく取り扱っていい内容ではなかったのである。実際のモラハラ被害経験者にとっては、CMで流れた番組の予告映像だけでもフラッシュバックを引き起こすかもしれないほど、衝撃的なものだっただろう。これをバラエティ番組のネタとしてアリだと判断するのは妥当だろうか。

 ちなみに『私の何がイケないの?』では次週も「夫婦のハラスメント」問題に切り込む予告となっている。「芸能人 円満夫婦のハラスメントSP」と題し、「卒婚」を果たし別居生活を送る清水アキラ夫妻、妻の収入を使い込んでいるという元巨人軍・橋本清夫妻、「亭主関白」の 谷隼人・松岡きっこ夫妻、「許せないハラスメントがある」という赤井英和夫妻、などが登場するそうだ。

 精神的な暴力は、誰の目にもはっきり見える傷痕が残らないため、表面化しにくい。モラルを振りかざして行う精神的な暴力や嫌がらせを「モラル・ハラスメント」と定義し提唱したのは、フランスの精神科医で犯罪被害者学、精神病理学の研究をするマリー=フランス・イルゴイエンヌだが、それも1998年のことで、問題視されるようになってからの歴史はまだ浅い。さらに日本では、日常的に他者から抑圧を受けている人が苦しみを訴えても、「我慢が足りない」と片付けられてきたところがある。番組視聴者から「みっともない」との声が上がったのも然りで、「円満でない家庭をひと様にお見せするんじゃない」という思考がはたらくのだろう。しかし、家庭内の問題を外に漏らさず、内々に解決しようと奔走することで、かえってこじれたり解決不可能な事態に発展することも多い。家庭内での怨恨に起因する殺人などもその例ではないだろうか。

 マリーの定義によれば、モラハラ加害者は「精神の吸血鬼」。攻撃対象(たとえば妻)が楽しんでいる姿を見せると、その楽しみを妨害しようとする。対象を支配下に置き、自尊心を奪い、抵抗しようとする気力も失わせる。被害者は強いストレスを感じ、ストレスによって自律神経が乱れるなど機能障害を発症し、不眠や食欲不振、慢性的な頭痛、胃痛、湿疹、神経過敏に悩まされたり、抑うつ状態に陥ったり、暴言を浴びたことによる心的外傷を負って、関係を断ったとしても心的外傷後ストレス障害(PTSD)に悩まされたりもする。そのうえ、こうした心身の不調さえも、被害者の弱さや自己管理能力の欠如とみなされてしまいがちである。

 あらためて番組を振り返ると、栗田が「お前はダメだ」と強烈なマウンティングを四六時中仕掛ける様子は、亭主関白などではなく、妻の人格否定である。果たしてこの放送は妥当だったのか、視聴者にとって、そしてなにより栗田夫妻にとって「考えるきっかけ」になったのかどうか。少なくとも、妻側の親族が放送を見ていたら心配が募る内容だったとは思うが……。
(清水美早紀)

1 2

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。